「何処行くの」
「や、あの、あの…っ!!」
言い出したのは君なのに、今更恥ずかしがらないで欲しい。
クックッとまた僕が笑うと、ユエがジト目でこちらを見た。
「…なんか、余裕そうだね? アオ」
「ただ寝るだけなんだろ? これが本当に初夜なら、僕だって緊張するよ」
彼女に腕枕をしつつ、後ろからユエを抱きしめ、その頭に頬擦りする。
本当に? と聞かれたので、本当と返した。
「何で君に嘘つく必要があるんだよ。あのね、ユエ。君は凄く魅力的な女性なんだ……我慢してるだけなんだよ。君を抱いて良いなら、もう滅茶苦茶にして良いなら…やってるんだ」
彼女の首筋にキスを落とす。
ピクリと、ユエの肩が跳ねた。
「やっ、アオ…」
「…もう寝ようか、ユエ。これ以上は手を出さないけど…初夜の時は覚悟しててね」
眼鏡をサイドテーブルに置き、彼女をキツく抱きしめ目を閉じる。
ユエの匂いで、すぐに意識が飛んだ。
次に目を開けると朝で、目の前には規則正しい寝息をたてるユエの寝顔がある。
少し口を開けて、涎が垂れていた。
あんまりにも間抜けな顔に、僕はユエの頭から腕をゆっくりと引き抜き、起き上がってベッドから降りる。
そのまま、声を出さず肩を震わせて笑った。
ユエの寝顔、間近で見たの初めてだけど…無防備すぎる。
いや、寝てるんだから当たり前なんだけど。
それでも涎垂らしながら寝てんの可愛くない?
「ん……アオ?」
僕が隣からいなくなったからか、ユエが目を擦りながら起き上がったようだ。
僕と違って視力が良いユエは、僕の様子がおかしい事に、怪訝そうな表情を浮かべている事だろう。
「何笑ってるの、アオ?」
「……いや? 別に。おはよう、ユエ。今日もいい天気だよ」
話を逸らしつつ、サイドテーブルに置いた眼鏡を取って顔にかける。
しかし、そんな戦法は彼女には通じなかったようだ。
「アオ?」
「あの、離してもらえないですかねユエさん。服伸びるんで…」
僕の服を掴み、ジト目でこちらを見てくるユエに対し、僕は彼女から目を逸らした。
そんな僕の様子に、ユエの目がさらに険しくなる。
「何かやましい事してたの? 私が寝てる間に、メイドさんとイチャついてたとか」
「するか馬鹿!! やましい事するんなら、君に対してやるっつーの!!」
じゃあ何で目を逸らすんだ、と問い詰められ、僕は先程思った事を素直にユエへ吐いた。
涎の辺りで、彼女は自分の服の袖で口元を拭っていたが。
「……恥ずかしい…」
顔を手で覆って蹲ってしまったユエをフォローしようとして、僕は彼女に声をかけた。
「シャナよりマシだよ。あれ、寝相最悪だから。涎は垂らし放題だし、寝相悪すぎて僕蹴られた事あるし」
「姉弟と恋人は違うじゃん…っ!! あとそれいつの話…?!」
初等部、と答えると、小さい頃じゃんと言われる。
いやまぁ、その通りなんだけど。
多分今も変わってない気がするんだよな、シャナの奴。
将来ツルギ大変そうだなぁ…寝室分けた方が良いって、帰ってきたら言ってみようかな。
「涎垂れてても、ユエは可愛いよ」
「それ何のフォローにもなってないぃ…っ!!」
そうだろうか?
どんなユエを見ても、可愛いとしか思わないんだけど。
僕はベッドへ腰掛け、長くなったユエの髪を弄る。
暫く髪を弄っていると、ユエの方からクゥ…と微かにお腹の音が聞こえた。
起きてから時間は経っているし、仕方ない事だろう。
「ユエ、朝ご飯にしない?」
「…恥ずかしくて顔上げられない…」
しょうがないと思った僕は、強行手段に出る事にした。
ベッドに乗って、ユエの脇から手を入れて抱き起こす。
コロンと仰向けになった彼女は、驚いた顔で僕を見た。
そのまま、ユエを横抱きにして持ち上げる。
「アオ?!」
急に持ち上げたからか、彼女は僕の首に腕を回して抱きついてきた。
そんなユエの頭に頬擦りする。
「僕もお腹空いたんだよ。別にここに運ばせても良いけど。ユエはどうしたい?」
「とりあえず降ろしてよぉ…っ!!」
やだ、と僕は彼女に微笑んで拒否の意を示した。
そんな僕を見たユエが、若干涙目になったのはご愛嬌だろうか。
◆◆◆
朝食を自室で食べ、今日も今日とて図書館で僕らは課題を消化する。
「アオ、ここわかんない」
「ん? どこ?」
彼女の横へ行き、問題を見てみた。
ユエが躓いている箇所を見ると、どうやら国語のようで。
筆記はちゃんと出来ているけれど、文章を引用しての記述とかの問題らしい。
まぁ、ユエは元々オーシア人だから、リューネのこういう系が苦手なんだろうな、とは思っていた。
話すのも、筆記で書くのも、もう自分のものにはしているけれど。
それでもたまに、ユエはリューネ生まれじゃないんだよな、と思う時がある。
別に、彼女が何処生まれでも関係はないが。
僕はユエが好きだし、愛している気持ちに変わりはないから。
彼女もそう思ってくれている事だろう。
「アオ?」
黙って問題を眺めている僕に、ユエが首を傾げる。
僕は顔を上げ、彼女に微笑んだ。