my way of life   作:桜舞

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279話『枯山水』

「ユエでも苦手なものがあるんだね?」

「あるに決まってるじゃん。それでも頑張って、アオの隣に立っても文句言われないようにしてるんだから」

 

ユエに文句言った奴、目の前に並べて首跳ねてやろうかな。

 

僕の笑みが深くなった事に、ユエは苦笑する。

 

「言われてないよ。やっかみは時々あるけど、それ全部アオの婚約者である私が羨ましいって事だし。ふふふ、私の彼氏格好良いもん。すっごい自慢」

 

彼女は口元に手を当てて笑った。

今日のユエの服装は、白い薄手のブラウスに青色のロングワンピースを着て、とても可愛らしい。

髪もハーフアップにしていて、いつものスポーティーな服装から真逆路線だと思った。

 

「僕の彼女も可愛いよ。今日の服も似合ってるね、ユエ。君の魅力で溺れそうだよ」

「…あの、息をするように口説かないでもらっても良いかな…リューネ王族って、好きな人を口説く癖でもあるの…?」

 

頬を染め、目を伏せた彼女に僕は笑いながら言う。

 

「それはあるだろうね。だって、父様も母様に対して口説きまくってるもの。僕が小さい頃に、父様へ質問した事があるんだ。なんでそんなに母様が好きなのって。そしたら、なんて言ったと思う?」

 

彼女の横の椅子を引き、座る。

隣に座った僕に、ユエは首を傾げた。

 

「なんて言ったの?」

「母様が大好きで、愛しているから。母様からの愛を得る為に、今も口説き続けているんだよ、だって。小さい頃は、どうしてそんなに母様へ話しかけまくってるんだろう、って思ってたよ。愛だの恋だの知らなかったから。今は、分かるけどね」

 

机に頬杖をつき、ユエを見つつ微笑む。

そんな彼女は手で顔を覆い、か細い声で抗議してきた。

 

「だから、口説かないでってば…っ!! アオ、本当人を誑し込むの上手になって…っ!!」

「君にしかこんな事言わないよ。むしろ、君以外に言いたくはない。ユエ、愛してるよ」

 

口説き過ぎたのかユエはその状態のまま動かなくなってしまい、どうしたもんかと思った僕は、とりあえず彼女の肩を軽く叩く。

 

「ユエ、課題終わらなくなるよ」

「誰のせいだと思って…っ!!」

 

いや、まぁ…僕のせいなんだろうけど。

でもその状態だと、シャナ達が帰ってきた時までに終わらなさそうだな、と思った僕は席を立った。

 

「散歩してくるね。あ、その記述問題、二つくらい前の文章を引用して書けば良いよ。お昼になったら食堂においで。一緒にご飯食べよう」

 

彼女の背を撫で、僕は図書室を後にする。

 

女心は複雑怪奇だから、僕に見捨てられたって勘違いして泣かなきゃ良いんだけど。

まぁ、声かけてきたからそうは思わないと信じよう、うん。

 

僕はそう思いつつ、五つあるうちの四番目の庭に行く。

 

一番目の庭は夏に咲く花を植えていて、今は向日葵とかが満開になって見頃になっているだろう。

 

二番目の庭は冬に咲く花がメインになっており、あまり花には詳しくないが、確かクリスマスローズとか、ビオラとかが咲いているってシャナが言ってたっけか。

 

三番目の庭は秋に咲く花が植えられており、紅葉の季節になると金木犀の木から良い匂いが漂って来るのが特徴的だ。

ついでに、モミジとかイチョウとかの葉も落ちてて、それを集めて焼き芋してたのは良い思い出である。

 

五番目の庭は言わずもがな化け桜の庭で、そこは春の形式をとっているらしい。

たまにそこで母様達がお茶会を開いている。

洋風のから和風のまで。

まぁ、全ておばさんが用意して母様を持て成しているようだが。

 

そして今僕が向かっているのは、母様が父様にお願いして作ってもらったという、第四の庭。

枯山水の庭だ。

 

風の音しかしない、ほぼ無音のそこに、小さい頃はとてつもなく恐怖を抱いたものだった。

なんで母様はこんな庭を、父様にお願いしてまで作ったのか、と。

 

白い砂利と、大きな岩。

木もほんの二、三本植えられているばかりで。

砂利には何か模様が入っていたけど、ただそれだけで下に降りられるわけでもない。

 

静か過ぎてシャナはつまらないとむくれていたし、僕は怖くて母様にしがみつくばかりで。

そんな僕らを見て、母様は苦笑していたっけ。

 

今は、とても落ち着くからという理由だろうな、と理解出来る。

生前の母様が生まれ育った国の建築を主にしている為、洋風の廊下から一転、そこに足を踏み入れると異世界に来たような感覚に襲われた。

 

まぁ、振り返れば城の中なので、感覚だけだが。

 

靴を脱いで庭に続く部屋に入る。

障子と呼ばれる扉を開けると、目の前に枯山水の庭が現れ、僕は縁側に腰を下ろした。

 

あー…静かだなぁ…。

落ち着くなぁ…。

本持ってくれば良かったかな…いや、時間忘れて没頭するに決まってるから、持ってこない方が正解か。

 

カコン、と音がしたのでそちらに目を向ける。

いつの間に設置されていたのか、竹筒がそこにあった。

斜めに切られたそれは、水が満タンになってくると傾き、またカコンと音を立てて水を排出する。

風情があるなぁ、なんて見ながら思った。

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