「う…うぇ…うぇぇぇぇんっ!! アオ酷いぃぃっ!!」
仰向けの状態でギャン泣きし始めてしまったユエに、僕は若干慌てる。
やっべ、マジ泣きさせたか?!
マズいマズいマズい…っ!!
シャナなら、ギャン泣きさせても放っておけば立ち直るけど、ユエはダメだ。
絶対根に持つし、何ならおばさんに言って婚約破棄してくる!!
それは絶対嫌だし困る!!
僕の伴侶はユエ以外ごめんだ!!
「ユ、ユエ、ごめん!! 僕が悪かった!!」
彼女を横抱きにし、謝る。
嗚咽を漏らしながら涙を流すユエに、物凄い罪悪感を抱いた。
だが。
「……隙有りっ!!」
顎に掌底を喰らい、脳が揺れて僕はユエを落とす。
そのまま、先程の彼女同様仰向けに倒れた。
こいつ…っ!!
嘘泣きしてやがったな?!
上手く受け身を取っていたようで、立ち上がったユエが僕に対して、ベーッと舌を出した。
「隙を見せた方が負けなんだったよね、アオ」
「あー……くっそ……っ!! てめ……ふざけんなよ…っ?!」
僕の怒りの視線に、ユエはプイッと顔を横へ向けてしまう。
だけど、彼女も怒っているようで
「私だってお腹蹴られて痛かったのに、アオ全く心配してくれないんだもん。最低、酷すぎ、冷徹過ぎる」
と、少し言葉に棘が含まれた。
「戦闘中だって言っただろうが…っ!! ……ハニトラかますなよ、ユエ……これおばさんに知られたら、シゴキ凄い事になるじゃん…」
やっと脳の揺れが治ったようで、僕は起き上がりながらため息をつく。
僕らの喧嘩を仲裁してくれる人達なんて、今城から全員いなくなっているものだから、拗れたら一月以上ユエと話さなくなるのは目に見えていた。
父様と母様が喧嘩した際には、キスして仲直りしていると聞いた事があるが、僕らもそれ実践するべきだろうか?
「知らないもん。ハニトラ…ハニトラって何…?」
僕が言った単語の中でわからないのがあったのか、ユエが首を傾げた。
それについて解説する。
「ハニートラップ。女性が泣いたり甘えたりして、男性を籠絡させながら情報や弱みを握る行為。さっきみたいに、泣き落としで油断させて暗殺とかね。あれを自覚なくやらないでよ…僕が君の涙に弱いの、知ってるくせに…」
更に深いため息をついて、僕は顔を覆って俯いた。
でも良かった、嘘泣きで。
ユエに本気で嫌われたら、僕マジで死ねるし。
もし婚約破棄って言われてたら、誰と婚姻結ぶ事になるんだろ、僕…。
まぁ、ユエ以外と結ぶのなら誰でも良いしどうでも良い。
だって、ユエ以外を愛するなんて絶対にないのだから。
「アオ、怒ってる…?」
ユエが恐る恐る僕に聞いてくる。
顔から手を外し、首を横に振った。
「油断した僕が悪い。でも本当、嘘泣きやめてユエ。次やったら僕、首掻き切るからね」
「絶対やらない!! やだ、アオが死んじゃうぅ…っ!!」
今度は本当に泣いているようで、僕に抱きつき涙を溢し始める。
そんな彼女の頭を撫で、今日で何回目かのため息をついたのだった。
◆◆◆
夕飯の時間になり、二人で食事を摂る。
泣き腫らした顔でご飯を食べるユエに、僕は苦笑した。
「ユエ、大丈夫?」
「…大丈夫…ごめんなさい」
先程の事を反省したのか、目を伏せ申し訳なさそうに彼女は謝ってくる。
反省してくれているならそれ以上怒るつもりはないし、責めるつもりもない。
そして、僕はふと思いついた事を彼女に提案した。
「ねぇ、ユエ。僕らなりの仲直りの方法思い付いたんだけど、言って良い?」
「仲直りの方法…?」
ユエが首を傾げる。
うん、と僕は頷いた。
「母様達はキスをして仲直りするって聞いたんだけど…僕らはハグで仲直りするの、どう?」
「アメリカの人みたいだなぁ。仲直りのハグかぁ…それも良いけど、私もキスが良いかな。喧嘩吹っかけた方が先にするの」
それ、お互い頭に血が昇って覚えてなかったら、どうするつもりなんだろうか。
僕はニヤリと笑って、彼女に言う。
「大体ユエが吹っかけてくるよね。君、僕に出来る?」
「……出来るもん」
頬を染め、ユエの目が泳ぎまくっていた。
キスをする時は、僕からの方が多い。
少し欲望に負けて、というのもあるが、ユエからの方は滅多にないと言っても過言ではない気がする。
「付き合ってから多分五回くらいだよね、君からしてきたの」
「なんで数えてんの?!」
滅多にないから、と答えると、彼女は食器を端に寄せテーブルに突っ伏した。
うん、恥ずかしいんだろうけど少し行儀悪いかな。
やらせたの僕の発言だろうけど。
「ユエ、今食事中」
「…ごめんなさい…」
食器を元の位置に戻し、黙々と食事をする。
食事を終えてユエと別れた後、僕は自室から何冊か本を持ち出し、また枯山水の庭に行く。
イフリートの月だからか雲一つない月明かりで、静かに読書をするのに向いていたのだ。
今日はユエ、一人で寝るって言っていたし。
訓練ないから本を読むのにも好都合だし。
流石に邪魔は入らないだろう。
庭に着き、縁側に本を置いて読書する。