その姿に、僕は少しだけ劣情を抱いてしまう。
「朝だけど…約束破ってユエの事抱きたい…」
自分の口に手を当て、彼女から目を逸らしつつ言う。
言った通り朝なんだけど、早朝の空気と光で、ほんのちょっとだけ宣誓を覆したくなったのだ。
「ちょっと?! ここ、王妃様のお気に入りの庭なんだけど?! そんな所で何かやったら…」
母様だけでなく、父様にも殺される。
それはわかってるんだけど…。
「なら、ベッド…」
「やだ!!」
ユエ、すごい拒否るじゃん。
なんで?
「え、ユエ、僕に抱かれたくない?」
「そういうわけじゃ無いけど…アオ、ママに監視されてるの忘れてる?」
……そうだった。
おばさん、リューネ全土の影という影を使って情報なんていくらでも掴めるんだった。
それに、おばさんは長距離転移は苦手だが、影渡りは得意なわけで。
「……すみませんでした」
「分かれば宜しい、退いて」
ユエの言葉に、僕は素直に彼女の上から退く。
幸い、おばさんがこの場に来る事はなく、僕は安堵のため息をついた。
ユエと朝食を摂り、今日は課題をやった後何をしようかと、彼女と廊下を歩きながら思案していたら、携帯が着信を伝えてくる。
画面を見るとシャナからで、僕は首を傾げつつ通話状態にした。
「はい、もしもし?」
『やっほー、グンジョウ。ユエちゃん元気になった?』
相変わらずテンション高いな、うちの姉は。
まぁ、旅行へ行く前に元気が無かったユエが心配で、電話をかけてきたわけではないだろうけど。
「元気になったよ。相変わらずイチャつこうとすると恥ずかしがるけど…おっと」
後ろから風切り音がして、僕は屈む事でそれを回避する。
スレスレでユエの蹴りが頭上を掠め、僕は後ろを振り返った。
『どうかしたの?』
「いや、ユエの足癖が悪くて。逆に聞くけど、なんで電話かけてきたの」
シャナと会話しつつ、ユエに抗議の目を向ける。
ベーッと彼女は舌を出していた。
まぁ、可愛いから良いや。
『今日、同級生の家で仮面舞踏会が開かれるんだよ。毎年旅行来るの忘れてて、参加するって招待状に書いて渡しちゃってさ。グンジョウ、悪いけど代わりに参加して来てくれない?』
「馬鹿じゃないの? 友達なら連絡先交換してるだろ。今すぐ連絡して、参加出来なくなった旨を伝えろよ馬鹿。それに、僕が代わりに行くって言ったって、この髪色でバレるだろ馬鹿。ちょっと考えてから発言しろ馬鹿」
バカバカ言うな、と電話口でシャナが怒鳴ってくる。
クイッと袖を引っ張られたので、そちらを見た。
「電話の相手、シャナちゃん?」
案の定引っ張ってきたのはユエで、僕は少し保留にする旨をシャナに伝え、通話を保留状態にする。
「そ。仮面舞踏会があるの忘れてて、僕に参加してきて欲しいってさ。あの馬鹿…」
頭が痛くなってきて押さえると、ユエが目をキラキラさせ始めた。
「行ってみたい…!」
「いや、行けないって。仮面舞踏会だって言ったって、髪色誤魔化せないんだから。すぐ僕だってバレるよ。それに、目元だけしか隠さない物のはずだから…眼鏡ないとあんまり物が見えない僕は、参加出来ません」
ユエにそう言って無理だと告げるが、彼女はニコニコしながら大丈夫だと言う。
「私が何とかするから」
「具体的には? ウィッグとかカラコンとかの類だったら拒否るからね?」
ちっちっち、とユエは人差し指を振りニヤリと笑った。
なんだその時代古風な動作は。
わからんかねワトソン君、なんて言うつもりじゃないだろうなユエの奴。
どこの探偵だよ、それ。
彼女がパチンと指を鳴らす。
瞬間、目の前のユエの髪の色が蒼になった。
瞳も紅から青に変わっている。
「…え?」
驚く僕の手から携帯を奪い、ユエは保留を解除した。
あまりの衝撃に、僕は唖然と彼女を見る。
「あ、シャナちゃん? その仮面舞踏会って1人だけ? …付き添いオッケーなんだ。じゃあ、私も行くから……うん、じゃあねー」
通話を切り、ユエは僕の手に携帯を返してきたが、驚き過ぎて暫く声が出なかった。
そんな僕に、彼女は苦笑する。
「そんなに驚く事かな?」
「いや、だって…目…髪だって」
ユエは水鏡を魔法で作り出し、僕の姿を映し出した。
今の僕はユエの髪色と目になっており、自分じゃないような感覚に陥る。
「髪と目の色を幻術で交換しただけだよ。本当に交換したわけじゃないから安心して、アオ。アオが自分の姿に誇りを持っているのは、知ってるよ。陛下と王妃様の子供だって証だもんね。人一倍、そこを気にしてる貴方の事は、理解しているつもりなんだけど…ごめん、気に入らないなら別の色にする」
「…あぁ、いや…驚いただけ、なんだけど。ごめん、ユエ。僕、そこ話した事あったっけ?」
小さい頃に、シャナの方が魔力とかが上で、僕はシャナのお荷物になっている、と思っていた時期があった。
シャナに全部持ってかれて、僕は出涸らしなんだって。
僕は本当に二人の子供なんだろうかと、悩んだりもした。
でも母様が、僕を抱きしめて言ったのだ。