「貴方のその髪の色はあたし譲りだし、貴方のその目の色はお父様譲りよ。貴方はちゃんと、あたし達の可愛い子供なのだから悩まないで、グンジョウ?」
それを聞いていたのか、シャナも王太子になんて絶対ならないと泣き喚いたりして…それからシャナは魔法が得意になり、僕は剣技が得意になったというだけの話である。
「あー…アオの精神世界に入った時に、ちょっとだけ…」
「あの時か…」
見られて困るような記憶はないはず、だけど。
大体、彼女と離れていたのは7年の間だし、その間何か恥ずかしい出来事があったわけではない。
多分、大丈夫、だと思いたい…!!
◆◆◆
その日の夜、シャナの友達が主催している仮面舞踏会の会場に到着する。
僕は先に車から降り、ユエヘ手を差し出した。
「アオ、先に降りないでよ。王太子なのに…」
チョーカー部分から、網目状のシースルー生地が胸元の生地部分とくっついたような、濃い紫色の肩が出ているワンピースドレスを着たユエが、非難の目を向けてくる。
足元のヒールもドレスと合わせた紫色の物で、ワンポイントでリボンが付いていた。
会場に向かっている時点で、僕とユエの髪と目の色は交換してあったので、目の前にいる彼女はいつもと雰囲気が違っている。
可愛いし、美しい。
いくら僕の髪と目の色だからと、本当僕には勿体無い女性だな、君は。
そして、ユエとリンクを繋いでいるので、眼鏡をかけないで済んでいた。
「婚約者をエスコートするのも、男の務めだろ?」
「……だからって、少しは自分の立場を考えて欲しい…かな」
ユエは少し頬を染め、僕の差し出した手に自分の手を重ねる。
そのまま車を降り、僕らは連れ立って会場の入り口へ行く。
ちなみに僕の服装は、黒いスーツに黒のシャツとスラックス、黒のネクタイと、全身黒コーデで、手袋も黒という徹底ぶりである。
なんでこれ? と選んだユエに聞いたら、
「え? 格好良いじゃん。お嬢様とボディーガードみたいな感じ」
と言ったので、まぁ、そのコンセプトで良いかと思った次第だ。
シャナから聞かされていた暗号? を言い、参加者である事を確認してもらう。
そして、中に入る前に仮面を選ぶよう言われた。
色んな色、そして多種多様の仮面があり、僕は少し悩む。
どれが良いかと物色していると、ユエから尋ねられた。
「どれが私に似合うと思う?」
「ん? んー…そうだなぁ…」
僕はピンクの造花付きの物を手に取り、彼女に渡す。
これ? と聞かれたので頷いた。
僕から渡された仮面を目元に装着して、ユエはこちらを見る。
「可愛いよ」
「あ、ありがとう…なら、私も貴方の選ぶね」
決めあぐねていたから、それは正直助かる。
ユエは仮面が納められてる箱から、白黒の仮面を取り出して僕に渡してきた。
それを付けると、彼女から格好良いと言われる。
受付をしてくれていた使用人が、本名はここでは言わない事、お互いあだ名で呼ぶ事と注意を受けた。
仮面舞踏会だからと言って、異性を漁るような事はせず楽しむように、と主人から招待客に伝えるよう仰せつかっていると、その使用人は言う。
そういう目的で来る連中もいるのだろう。
釘を刺しておかないと、大変な事になる…もしくはなった事があるのだろうなと推測出来た。
「んー…じゃあ、なんて呼ぼう…」
「私は貴方の事ブラウって呼ぼうかな。オーシアで蒼って意味なの」
ニコリと笑うユエに、僕は少し考えてから跪いて彼女の手を取る。
手の甲にキスを落としつつ、彼女を見上げ微笑んだ。
「なら、僕は
「……気障だなぁ…もう…」
頬を染め、ユエは目を逸らす。
腕を差し出すとそこに彼女は手を添え、僕らは会場に入った。
大きいホールの中には結構人がいて、皆歓談と立食を楽しんでいるようだ。
一応ダンスも出来るようで、複数人はホールで演奏している楽団の曲に合わせて踊っている。
僕らが入って来ても、誰も見向きもしなかったのは幸いだった。
「私、ここに来たの初めてかも…」
「そうだね。君、他の家に遊びに行く事しなかったしね」
僕はこの家へ、一回だけ来た事がある。
シャナの友達の、イヴェット・クックの家だ。
成程、彼女が主催者なのか。
「ア…ブラウ、見覚えあるの?」
アオと言いかけて、ユエは先程決めたあだ名で僕を呼ぶ。
ここには同級生も来ているだろうし、いくら髪の色と目の色を交換したからと言って、普段の呼び名で呼んだらすぐバレるだろう。
「まぁね。姉の友達の家だよここ。招待状受け取ってる時点で、そうなんだろうけど」
ユエを見た数人が、コソコソと内緒話を始めたのが目の端で確認出来た。
彼女もそれに気付いたようで、少し目を伏せる。
「月姫? どうかしたかい?」
問い掛けると彼女が手招きしたので、僕は顔を近づけた。
「あそこの人達、私の事王妃殿下かリーゼ姫殿下だと思ってるみたい。蒼い髪色の女性って、王妃殿下かリーゼ姫殿下しかいないから」
「あー…成程」
彼女が耳打ちしてきた内容に、僕は納得する。
オーシアでは蒼色の髪など別段珍しくも何ともないが、ここリューネでは違う。