「アオ。疲れてるところ悪いんだけど、起きれる? ごめんね、シャナちゃんみたいにアオを担いで持っていけないの」
「…彼女に担がれる彼氏って…構図自体面白いよね…」
姉より図体がでかい弟が担がれているのも、面白いけど。
僕は名残惜しいと思いながらも、彼女から離れる。
目の前がぼやけていて、ユエがリンクを切ったのかと気付いた。
まぁ、ずっと僕とリンクを繋いだままだと彼女の負担になるから、別にそれは良いんだけど。
「…ユエ、ごめん。眼鏡どこ…」
「ここ。アオ、凄い疲れてるね? 大丈夫? 部屋まで付き添うよ」
ユエから眼鏡を手渡され、僕はそれをかけて彼女に微笑んだ。
「悪いけど、お願い出来るかな。途中で力尽きそうなんだよね」
「あ、うん…」
ユエに付き添われ、僕は部屋に向かう。
ベッドに横たわった瞬間、意識が飛んだ。
◆◆◆
夏季休暇半ばあたりで、シャナ達が別荘から帰ってきた。
ただいまと言いながら、姉は僕に抱き付く。
「お帰り、みんな。シャナ、ツルギが微妙そうな顔してるから離れろ。あと、向こうで課題終わらせてきたよな?」
僕やユエは数日前に終わらせたので、あとは何をするにしても自由ではあるんだけど…僕の問いに、姉はビクリと肩を揺らした。
「シャナ、お前まさか…」
「…あー…ははは…」
僕は呆れた目でシンクとツルギを見る。
なんでやらせてないんだと、二人に問うた。
「んなの自己責任じゃん。ちなみに、俺はコツコツやってたから、後もうちょっとで終わるし」
「俺も…シャナがやってるものだとばかり…すみません、殿下…」
僕はため息をついて、姉の課題を手伝おうと図書室に向かおうとし、妹の悲鳴が聞こえてそちらに目を向ける。
「いやぁーっ!! お兄様ぁっ!! 助けてくださいぃっ!!」
「リーゼ?!」
涙目になって走ってくるリーゼの後ろから、ルージェが虫籠を持ちながら、同じように駆けてきていた。
近くにいたシンクがリーゼを抱き上げて、ルージェから引き離す。
「ルージェ、何でここに…」
「テスタロッサで採れた虫、リーゼに見せようと思って持ってきた。ほら、リーゼ。このカブト格好いいだろ?」
ルージェの問いに、リーゼはそちらを見ずに首をブンブンと横に振っていた。
母様譲りの蒼髪が、妹の動作に合わせて揺れる。
ポンポンとリーゼをあやすように、シンクが背中を軽く叩いてあげていた。
「ルージェ…お祖母様と母様に、それやめろって怒られたの忘れたの?」
「それにリーゼちゃん、虫嫌いだよね? ただのイジメだよ、これ」
え、と驚いた表情するルージェの手を取って、僕はみんなから引き離していく。
充分に離れたと思った僕は、ルージェの目線に合わせて屈んだ。
「ルージェ、自分が好きなものが相手も好きだと思うのは、間違っているよ。虫が嫌いな人だっているし、僕は本が好きだけど、世の中には活字が嫌いだっていう人もいる。自分の好きを相手に押し付けるのは違う。それに君、リーゼの事好きなんだろ?」
そう言うと、ルージェは少し顔を俯かせてコクリと頷く。
僕は少し微笑を浮かべ、言い聞かせるように言った。
「君のその行為は、リーゼにとっては逆効果だ。自分ではなく、相手の好きなものに目を向けてごらん? でも取り敢えず…リーゼには、ちゃんと謝った方が良いね。君の事、多分嫌いになってるはずだから」
チラリと皆の方を見る。
リーゼが涙目になりながら、こちらを見ていた。
シンクの服を掴み、怯えた目を向けている。
もしルージェが先程と同じ事をした暁には、泣き叫ぶんだろうなと想像が出来た。
「ルージェ、誰と来たんだい?」
「父様と母様。義姉様が別荘から帰ってきたから、会いに来たって」
虫籠どっかに隠して持ってきてたんだろうな…。
後でお祖母様にバレたら説教されるよ、君…。
「ちょっと、今リーゼの叫ぶ声聞こえたんだけど?!」
母様がいつもより慌てた様子で、お祖母様とカヅキおばさんを伴い軽く走ってくる。
普段の母様なら廊下を走るなんて事しないんだけど、リーゼの声で心配になったらしい。
僕らの様子とルージェの手にある虫籠を見て、母様はため息をついた。
「ルージェ…貴方、またなの…」
「申し訳ありません、お嬢様。愚息がご迷惑を…。ルージェ、荷物検査した時には無かったものが何故ここにあるのです。収納魔法を習得していたのは知っていたので、その中の物も全て出すよう伝えたはずですね? 私達を謀ったというのなら、テスタロッサ領に帰った後、宿題を倍にしますよ」
お祖母様の圧にルージェは俯きながら、はい、とか細い声で答える。
そんな二人の横を通り過ぎ、母様はリーゼを抱き抱えているシンクの所へ行った。
「リーゼ、大丈夫?」
「お母様ぁっ!!」
シンクからリーゼを渡された母様は、妹の頭を撫でながら苦笑する。
エグエグ泣くリーゼを見て、おばさんも呆れた目をルージェに向ける。
「ガキだな…グンジョウやシンクを見習え、ルージェ」
「「本当それ」」
ユエとユタカが、おばさんの言葉に賛同した。
みんなが帰ってきて賑やかになったな、なんて窓の外を見ながら、僕は思考した。