それを聞き、姉は絶望した顔をする。
彼氏がまさか自分の味方をしない、とは思わなかったのだろう。
自業自得だ馬鹿姉。
「アオ、あの、褒めすぎ…」
「僕は本当の事しか言わない。特に、ユエに関する事だけは」
頬を染め、少し伏し目がちに恥ずかしがるユエへ、僕はそう言う。
「ツルギ君が味方してくれないーっ!!」
「いや、あの…流石に、殿下が怒るほど…揶揄うのは…駄目だと思うぞ、シャナ」
ギャン泣きし始めたシャナを抱きしめ、頭を撫でながらまた正論を言うツルギ。
シャナも、僕に寄り添ってくれる時はあるのだ。
それはわかっている。
だが、僕だって叩きたくて姉を叩いたわけではない。
「課題忘れたって、嘘つくシャナが悪いだろ」
同情の余地なし、との視線をみんなから姉は向けられる。
僕が言うならまだしも、お前が言うと洒落にならないんだよシャナ…。
◆◆◆
そんな騒動を経て、オーシアの空港に到着した。
迎えの車が来ていたが、僕は待っていた人物を見て内心冷や汗を流す。
「……ツェリ…」
半年以上ぶりに見た幼馴染は、仕事着なのかスーツを着て僕らを認識した瞬間、頭を下げた。
「お待ちしておりました、皆様。これより、要家が責任をもって皆様を護衛しながら、宿泊施設までお送りさせていただきます。私、ツェツィーリエと申します。以後お見知り置き下されば幸いです」
あくまで他人のフリをしよう、という腹積りらしい。
ハインリヒ家のツェツィーリエではなく、ただのツェツィーリエとして僕らと接する、と。
だがそんな意図、うちの姉の頭には理解出来なかったようで、普通にツェリに抱きつきに行った。
「久しぶり、ツェリーっ!!」
「ふきゅ……っ?! ……あの、姫殿下……おやめ下さい…」
困ったように眉を下げたツェリは、チラリと僕を見る。
助けて欲しい、とその視線は語っていた。
僕はため息をついて、ツェリからシャナを引き離す。
「ツェリ、久しぶり。仕事中なのにうちの姉がごめん。元気そうで良かったよ。こっちの仕事には慣れたかい?」
「あ……はい、グンジョウ王太子殿下…お館様には、良くして頂いております。分からない所も、質問したら分かりやすく教えて下さいますし…此度も、夏季休暇中なのと…私が皆様と同郷なので、案内がてら護衛するよう仰せ付かった次第でして……ご不快とは思いますが、ご容赦頂ければ」
別に不愉快には感じていないので、僕は良いのだが。
僕は後ろにいるユエを見る。
彼女は僕と視線が合うと、軽く首を傾げた。
可愛い。
しかも気にしていないようで良かった。
「構わないよ。宿泊施設までお願い出来る?」
「はい。こちらになります」
滑走路内に停めてあったリムジンに僕らは乗り込み、施設まで送迎される。
その間、シャナだけがツェリと話し、僕らはそれを眺めるという時間が過ぎていく。
その内、王都の高級そうなホテルに到着し、僕らはリムジンから降りた。
「高そー」
ユタカがホテルを見上げ、そんな感想を言う。
彼女達がこちらに来てから、建てられた物なのだろうか?
いや、案外ベルケンド領から出た事がなかったから見た事がない、が正しいだろうな。
「リューネの皆様をお泊めするのだから、要家の息が掛かった所が良いだろう、とお館様が手配なさいました。荷物はリューネのメイド達が運び入れてくれてますので、皆様はどうぞごゆるりとお過ごし下さい」
数名、僕らの世話をする為にメイドと、護衛の為の親衛隊が付いてきていた。
今は僕らの荷物を宛てがわれた部屋に運び入れてくれている事だろう。
「グンジョウ王太子殿下。大変申し訳ありませんが、この後陛下との謁見をお願い致します。そこまでの送迎と護衛は私が承りますので…ユエ様も、ご心配ならどうぞご一緒に」
僕らのやり取りを眺めていたユエに、ツェリは声をかける。
ユエはニコリと笑い、僕の横に立った。
その表情のまま、彼女は僕を見上げてくる。
「お気遣いありがとうございます、ツェツィーリエ様。殿下、宜しいでしょうか?」
「勿論。ツェリ、宜しく頼む」
はい、と彼女は返事を返し、僕らは再びリムジンに乗り込んだ。
暫く乗っていると、リヒト城よりも大きな城に到着する。
まぁ、こちらは五百数年だが、オーシアは約2000年の歴史を持つ国だ。
規模が違う。
城門前にアオイさんがいて、僕は彼女に頭を下げた。
「お久しぶりです、アオイさん」
「うん、半年ぶりくらいかな? いやぁ、グンジョウ君なんか大人っぽくなった? ユエも。子供の成長って早いなぁ」
そうだろうか?
自分ではあまり変わりないと思っているのだが。
ユエに関しては同意だけど。
ますます大人の女性という感じの立ち振る舞いをしてくる時があるから、少しドキッとするのだ。
「そんな、叔母様…私なんてまだまだです。もっと頑張って、殿下に相応しい女性になれるよう精進していきます」
ユエはアオイさんに微笑み、宣言する。
僕としては、もう充分なんだけどなと思う。