彼女が努力してくれているのも、それこそ血が滲むような思いをしていたのも知っている。
お祖母様から合格点が貰えたと、妃教育が終了したとこの間ユエは嬉しそうに笑っていた。
それでも努力は怠らないよう、お祖母様から釘を刺されたと苦笑していたが。
前にアオイさん、後ろにツェリ、僕らは真ん中という構図でオーシアの城内を歩いて行く。
大きな扉の前まで案内され、ここでユエとツェリは待つようアオイさんから言われた。
僕はアオイさんと共に扉を潜り、オーシア国女王陛下に謁見する。
「久しいな、グンジョウ王太子殿下。此度、ナズナ陛下は国から離れられぬ故、お主を寄越したと聞いている」
「お久しぶりでございます、ツェーレスタイン女王陛下。我が国でスタンピードが起こり、父であるナズナではなく私が参上致しました非礼、お詫び申し上げます」
僕はそう言い、女王陛下に頭を下げた。
父様とは対等であろうが、僕は王太子である。
隣国の王に無礼を働いてはならない。
「良い、面を上げよ。スタンピードの厄介さは、我が国でも承知している。むしろ、此度は欠席でも構わぬとナズナ陛下へ申し上げたのだが、世継ぎである王太子殿下の後学の為に、是非ともと仰っていてな」
「……それは、何と言いますか……申し訳ありません…」
だから無礼を働いても許せよ、とでも言いたかったのか父様?
隣国の女王陛下に?
冷や汗しか出てこないんだけど?!
対峙してる僕の身にもなってくんないかな?!
「良い。しかし男児の成長は早いものだな、要」
「そうですね、陛下。前に殿下方が訪問した際は、私の背より少し大きいくらいでしたのに。今は少し見上げないとお顔を拝見できない程で」
クスクスとアオイさんが笑う。
二人とも僕より年上だから、子供扱いされててどうにも居た堪れない。
とりあえず、僕らの身の保証と安全は要家が一任してくれる事。
会議は明日あり、今日と同じように車で送迎してくれる事などの説明を受け、僕とアオイさんは女王陛下の前から辞した。
◆◆◆
帰りの車内で、ユエにもその説明をする。
付いてくるかの問いに、彼女は頷いた。
ホテルに到着し僕とユエが車から降りると、アオイさんがニコリと笑いながら言う。
「君達用にワンフロア貸切りにしてあるから、お部屋は好きな組み合わせで泊まるといいよ」
「あ、はい。お気遣いありがとうございます」
ベルナールの所で泊まった時と同じ…いや、あの時はリビングは共用だったから、完璧に部屋が別ではなかったけど。
他のメンバーがどんな振り分けでやったか分からない分、帰るのが怖い。
しかもワンフロアという事は、どれくらいの規模の人数がオーシアに行くか、アオイさんへ事前に連絡をとっていたという事だ。
父様、そこ僕にも話して貰えませんでしたでしょうか…。
それじゃあ、とアオイさんとツェリを乗せ、車が発進する。
それを見送り、僕とユエはホテルの中に入った。
「おー、お帰り」
入り口横に設置されている簡易のカフェスペースで、シンクがこちらの新聞を読みながら僕らを待っていたらしい。
傍には数名の親衛隊がいて、僕らに会釈してくる。
シンクが軽く手を挙げて声をかけてきてくれたので、僕らはそちらへ行く。
「ただいま。何か異変とかなかったか?」
「いんや、全然。シャナの課題終わんねぇと、観光も出来ねぇし。お前が手伝ってもあの量って、やばくね?」
シャナが持ってきた課題の量を見て、シンクも引いたのだろうな。
まぁ、赤点ギリギリだったので、渡された課題プラスでおばさんが追加したのだろうが。
「あと数日で何とかしようとしてたんだよ。猶予が出来て良かったけど…。流石に高等部三年にもなってあの頭だと…後々苦労するって、おばさんも思ったんだろうね。手伝わされるこっちの身にもなって欲しかったけど」
僕がそう言うと、シンクが苦笑いを浮かべる。
シャナは? と問うと、
「今ツルギが、付きっきりで課題手伝ってる。あ、部屋の組み合わせベルナールの時と同じだから、よろ」
「……あぁ、そう」
そこは寮の部屋と同じで良かったんじゃないかな…。
その話し合いに、僕とユエが参加出来なかったから仕方ないとは言え。
僕らをここで待っていたのも鍵を渡す為だったようで、シンクは僕の手に鍵を握らせてきた。
「俺らのフロアは一番上。結構でかいだろ、ここのホテル? スイートルームみたいな部屋が三部屋と、後は普通の客室が数部屋って構図になってるっぽい。俺らみたいな賓客と従者用の部屋なんだろうなって、一応親衛隊と危険がないか見て回った時に持った感想」
「お疲れ」
シンク達と共にエレベーターに乗り込み、最上階に到着する。
エレベーター横と、非常階段の所に親衛隊が立っているのが見え、僕は彼女らに声をかけた。
「みんな、ご苦労様。誰も来てはいないと思うけど、異変はあったかい?」
「いえ…あの…シャナ姫殿下の金切り声だけは、聞こえましたが…」
エレベーター横に立っていた親衛隊の一人が、そう報告してくる。