ツルギに引っ張られ、姉はブーブーと文句を言いながら出てくる。
「お姉ちゃんが課題終わらせたんだから、祝ってよグンジョウ?!」
「うん、褒めようとは思ってたよ? でもこの量!! 少し考えて作れ馬鹿!! 何人前なんだよこれ?! ちょっとはここのホテルの人達の迷惑ってものを考えろよ?!」
そして、その洗い物は誰にさせるつもりなんだお前は?!
「あー…ベルゼビュート呼ぶか? 多分食えるぞあいつ」
「いや、そうだろうけども…」
シンクも大量の料理を見て少し引いてるが、そんな提案をしてきて僕は眉を顰めた。
呼ぶ手段もないだろうに、どうするつもりなんだこいつ?
自分の使い魔に頼んで呼んできてもらうとか?
そう考えていたら。
「呼ばれた気がして出てきたよ、兄様達」
僕の影から、ヒョコッとアイスブルーの髪の女の子、ベルゼビュートが姿を現した。
僕は彼女の頭を撫でつつ、苦笑する。
「ナイスタイミングだよ、ベルゼビュート。悪いけどこれ、食べるの手伝ってくれない?」
「合点承知。むしろぼくの得意分野で良かった。えーっと…あの赤目のお姉さん、グンジョウ兄様の奥さん? すごい微妙そうな顔されてるんだけど」
そう言うベルゼビュートからユエの方に目を向けると、確かに彼女の言う通り微妙というか、複雑そうな表情をしていた。
「ユエ?」
「あ、いや……何でも…こっち見ないで」
僕とベルゼビュートから目を背け、ユエはユタカに抱きついていく。
大方、僕の兄弟か姉妹になる予定のベルゼビュートが、僕に引っ付いているのが気に食わないのだろう。
だけど、僕の家族になるのだから怒鳴れない、というのもあって、あんな表情してるんだろうな、とは察しがついた。
服の端、握られてるだけなんだけどね。
「ベルゼビュート、ちょっと離れようか。あと、彼女はユエだよ。隣にいるユエとそっくりな子が、ユタカ。あっちの黒髪がツルギ。もう髪は赤くないけど、あれが弟のシンクとあの金髪のが姉のシャナ」
各々の名前と特徴を説明すると、ベルゼビュートはうんうん頷き、多分彼女にとっては満面の笑みだろう笑顔を浮かべる。
側から見たら、薄く笑ってるようにしか見えないけれど。
「シンク兄様、シャナ姉様、ユエ義姉様とユタカ義姉様。あとツルギ義兄様。うん、覚えた。ご飯食べよ、グンジョウ兄様」
まだみんな婚姻結んでないんだけど、彼女は僕の姉弟の恋人をそう呼ぶ。
何か見えているんだろうか?
ユエの事も姉と呼んだので、そうだと良いなと思う。
ベルゼビュートも交え、朝食を頂く。
そんな細身の体のどこにそんな量が入るんだというくらい、ベルゼビュートは驚異的なスピードでシャナが作った朝食を食べていった。
流石、暴食の悪魔。
その名は伊達ではないという事か。
「ベル、もっとお食べ!」
シャナはベルゼビュートに愛称をつけ、可愛がり始める。
どうやら妹として扱っているようだ。
妹で生まれてくるかわかんないのに。
いや、弟でもあんな対応だな、シャナは。
「わんこ蕎麦…」
シンクがポツリと呟いた言葉に、僕は思わず顔を横に向け吹き出す。
確かに、今のベルゼビュートはシャナに餌付けされている状態で食べてるから、そう見えなくもないけど。
「アオ、大丈夫…?」
「だ、大丈夫、だいじ…ぶふっ!! ダメだ、ごめん、ちょっと席外す…っ!!」
ユエが心配そうにこちらを見ていたが、僕はシャナ達の様子がツボに入り、席から立ち上がってみんなから離れ、部屋の外に出る。
そして自分とユエに割り当てられた部屋に帰り、思い切りそこで爆笑した。
なんでこんなに笑いの沸点が低くなってるのかといえば、やはり昨日のユエとのやりとりのせいだろうか。
腹筋が攣りそうになりながらソファーに突っ伏して笑っていると、ガチャリと扉が開く音がして誰かが入ってきた。
しまった鍵かけてない、と思ったが、声を聞いて僕は顔を上げる。
「アオ、そんなに面白かった? あれ」
部屋に入ってきたユエが、呆れた目でこちらを見ていた。
僕を心配してか、もしくは食事を終えてか。
多分両方かなと、その手に持たれたお皿を見て思った。
あまり食べずに退出した僕を気遣ってか、ラップをかけられたそれの中には、先ほどシャナが作った料理が盛られていたから。
「ユエ…いや、うん。シャナがベルゼビュートに餌付けしてる様を見て…確かに、わんこ蕎麦みたいって思ったら…もう…っ!!」
「まぁ、確かに掃除機みたいにどんどん料理が消えてったけど」
それを聞いた瞬間、僕はまたソファーに突っ伏して笑い始める。
クックッと肩を揺らしながら笑う僕に何も言わず、彼女は皿を冷蔵庫の中に入れたようだった。
そしてパタパタと歩き回る音が暫くしてから、軽く肩を叩かれる。
「アオ、もうそろそろツェリちゃんが迎えに来る時間だからこれに着替えて。女王陛下達と会議があるんだから、その服じゃダメでしょ?」
「……わぁ、僕の奥さん有能すぎ。ユエ、マジで愛してる」
彼女の手に持たれてるスーツを見て、僕は思わず本音を言う。