口説くな、と頭を叩かれたが。
ユエに渡されたスーツを着て、彼女と数名の親衛隊と共にエレベーターに乗り、階下へ降りる。
「シャナ達は?」
「私達が会議に行ってる間、観光するって。ユタカがはしゃいでたよ。乗馬体験出来る所があって、シンクに白馬の王子様ごっこしてもらうんだって」
羨ましい、そうポツリと呟く彼女に、僕は耳打ちした。
「リューネに帰ったら、一緒に乗る? 一応嗜みとして乗れはするけど。僕専用の馬もいるし」
「え、聞いた事ない…」
そりゃ言ってませんもん。
まぁ、僕アウトドアよりインドア派だから、そんなに外には出ないけどさ。
長期休みの日とかに、様子見に行ったりはしてるんだよね。
白馬ではないし、青毛と呼ばれてる品種の馬らしい。
僕の馬。
結構人懐っこい子で、あまり来れない僕を見ても顔を寄せてくれて、とても可愛い。
たまに乗っても、嫌がらずに乗せてくれる良い子だ。
ちなみに、父様のは白い馬である。
政務の合間に体が凝るからと、母様と散歩がてら遠乗りしていたりするらしい。
なんで白なんだと話をした事があるが、前に乗っていた馬が亡くなり、新しく馬に乗ろうと思っていたら母様が、
「そういえば、世間一般で白馬の王子様という概念があるのですって。白馬かぁ…あたし、栗毛とか芦毛とかは見た事あるけど、白いのは無いのよね」
と言ったからのようだ。
本当、母様至上主義なんだよな父様…。
「乗りたい。私、乗馬経験ないの」
ユエが目を輝かせ、僕を見上げる。
そんな彼女に僕は微笑んだ。
「まぁ、女性は乗る必要性ないしね。大体は男性がリードするから。それに、今の時代馬で移動するってのは滅多にないし。貴族とか王族の男性の教養ってやつかな。あ…馬乗れるのか? シンクの奴」
乗れなくても、乗馬体験で教えてもらえるだろうから、頑張れとしか思わないけど。
エレベーターが階下に着くと、入り口に留めてあったリムジンの前にツェリがいた。
僕らが彼女へ近付くと、ツェリは敬礼する。
「おはようございます。グンジョウ王太子殿下、ユエ様。お迎えに上がりました」
「おはよう、ツェリ。宜しく頼む」
はい、と彼女はリムジンの扉を開けて、頭を下げた。
僕らが乗り込むと、最後にツェリがリムジンに乗り込んだ。
その直後、発進する。
暫く無言でいたが、ユエが彼女に声をかけた。
「ツェツィーリエ様、こちらでお友達は出来ましたか?」
「え…あ、はい。良くして頂いている方が何名か…ですけど…」
なんでそんな質問をしてくるんだ、とツェリは困惑しているようだ。
ユエはそれを聞き、安堵の表情を浮かべた。
「良かった。ツェリちゃんがこっちで楽しく過ごせてるのなら」
「…ユエちゃん……うん…楽しい、よ。こんな私が楽しんでは、本来はいけないんだろうけど…」
そんな事ない、とユエはツェリの側に行き、彼女の手を握る。
「楽しんで良いんだよ、ツェリちゃん。国外追放になっただけで、ツェリちゃんの罪は償われてるんだから。アオが王位についたら、戻って来れる可能性だってあるんだよ?」
ニコリと笑うユエに、僕は思った。
それ、君が許せばの話じゃないのか?
恋敵って立場だろうに、ツェリは。
まぁ、僕は何も言わないけど。
ちゃんとツェリを振ってるわけだし。
彼女がリューネに戻りたいと言えば、戻そうとは思うけれど。
「…ありがとう、ユエちゃん。でも、お館様の用事でリューネへ行く以外は、戻らないよ。こっちの生活、楽しいの。この間、ケーネ君に稽古つけてたら彼ムキになっちゃって…ドラゴンの姿になったから、その姿のケーネ君の腕、折っちゃったんだよね……やり過ぎちゃった」
苦笑しながら言うツェリの言葉に、僕とユエはギョッとする。
あの姿のケーネ君の腕を折っただぁ?!
どれだけの膂力持ってんの君?!
え、じゃあ、あの時のツェリ本気出してなかったって事?
うわ、怖っ!!
若干引き攣り笑いを浮かべていた僕だったが、その様子に気付いたツェリが若干慌て始めた。
「ちっ、違うのっ! こっちに来てから、体内の魔力の運用方法とか、出力の仕方とか、リューネとは違ってたから、それを覚えていったら、こんな事に…っ!! あ、あの時は、本当に、本気でやってて…っ!!」
「いやぁ……ツェリが今、本気で僕を殺そうと思ったら出来るんだなぁ…」
しみじみしながら言うと、しないよぉっ!! と、ツェリは叫ぶ。
ユエも引き攣り笑いを浮かべていたので、ブンブンとツェリは首を横に振る。
「し、しないっ!! しないからね、ユエちゃん?!」
「うん…ツェリちゃんがアオを諦めてくれてて良かっ……諦めて、くれてるよね…? ねぇ、ツェリちゃん…? 諦めてる、よね…?」
若干彼女から必死さが伺えるが、ツェリはコクコクと首を縦に振った。
あれだけ僕に執着していたツェリだったが、やはり面と向かって振ったからか、今はちゃんと気持ちの整理がついているようだ。
まぁ、まだ好きだって言われても困るんだけど。
前に言った通り、僕の愛はユエにしかあげられないんだから。