リーゼは僕らに頭を下げ、アンナ達を追う。
僕らの話に、ツェリは首を傾げた。
「お、王妃様の、武勇伝?」
「そうそう。魔王を討伐したり、学園で歌声だけで全生徒を魅了したとか、精霊の王に認められたとか。本当か嘘か、怪しいものだって言う人もいるんだよね」
真ん中は怪しいものがあるが、最初と最後は本当の事だ。
魔王を討伐したから、報奨として21貴族の一つであるテスタロッサ家に、母様は入る事になったのだし。
統合騒乱で大体の21貴族が亡くなって、その空席を埋める為に母様が頼み込んだのが、カヅキおばさんと、精霊の王と呼ばれる元素の精霊、ミラ様。
今カヅキおばさんはトリスタンの称号を、ミラ様は
ブリュンヒルデの称号を与えられている。
「祖国って呼ばれてた所から宝剣も貰ってきたって話もあるし。本当かなー?」
「へ、へぇ…ほ、本当か、そ、そんなお話、王妃様と、し、してみたいな…」
ツェリが望めばいくらでも対談して貰えそうなものだが、恐れ多いと思っているのだろう。
その気持ちはわかる。
僕も政務の事について父様に教えてもらう時は、だいぶ緊張するのだから。
「あ、政務で思い出した。今度の休み帰って来いって言われてたんだ…」
「父様に?」
シャナの問いに、僕はうんと頷いた。
いつになるかはわからないけど、自分にもしもの事があった場合、僕が国を動かせるようにと父様は政務を教えてくれているのだ。
流石に母様がいるから、今直ぐどうこうなるという事はないだろうが。
父様が死ぬという事は、母様にも何かあった、と同義なのだけれど。
「ちょっと、荷が重いよね…」
「長子が継ぐってしきたりだったら、あたしがグンジョウの立場になってたんだろうなぁ。うーん……あたしが務まるとは思えないや!」
ははは、と呑気に笑う姉に、少し恨みがましい目を向けてしまう。
そんな僕を、ツェリは心配そうに見つめていた。
「あぁ、大丈夫だよツェリ。いつもの事だから。国王の息子として生まれたんだから、その責務を果たさないといけないのは分かっているつもりだし。ただ、少し憂鬱ってだけ」
「わ、私にも、何か手伝える、こ、事があったら、言って…?」
少し歩幅を大きくし、僕はシャナとツェリに追いつくと、彼女の頭を撫でる。
「ツェリは本当に良い子だね。気遣ってくれてありがとう」
「…………っ!!」
彼女の顔が赤く染まった。
ツェリの隣にいたシャナが、僕の手を叩き落とす。
「グンジョウ、ツェリは繊細なんだから。宣言せず、女の子に触れるのはどうかと思う」
「……ごめん。無神経過ぎた」
僕は両手を上げ、ツェリに謝る。
彼女はフルフルと首を横に振った。
シャナにするようにしてしまったけれど、ツェリは幼馴染なだけであって兄妹ってわけではなかった。
反省しないと…。
「お、驚いた、だけ、だから…」
大丈夫だよ、と彼女は僕に笑いかけてくれる。
僕らの幼馴染は、本当に優しい子だなと改めて思った。
◆◆◆
聖・メリーディエース学園。
父様が新しく学園を建築する際、そこで生活や娯楽が楽しめるようにと大規模工事を行い、結果巨大都市が出来上がってしまった。
母様が、何があってもここだけは無事なように、精霊達の力も借りて巨大都市を覆うような強固な結界も作り上げた、と中等部の授業で習った。
だからこそ、あの統合騒乱でも傷一つつかなかったらしいし。
カヅキおばさんが来てから技術革新が進み、遠くの領地に行くのに馬車で何ヶ月もかかっていたのを、数時間で着くようにしたらしい。
らしいばっかりなのは、僕もうろ覚えだからだ。
そこの知識を入れるより、本を読んでいる方が楽しい。
いや、次期王としては駄目なんだろうけど。
「おはよう、グンジョウ。お? 今日はあの双子いねぇのか。いつも両手に花の状態で、両腕に引っ付いているっていうのに」
「おはよう、エミル君。ユエとユタカはね…」
教室へ足を踏み入れると、僕の友達であり幼馴染のエミル・グロッシュラー・ハインリヒが、声をかけてくる。
僕がシャナとツェリと一緒に来るのはいつも通りなのだが、それに加えて立花家の娘であるユエとユタカも一緒に登校していて、結構騒がしい。
僕は苦笑し、彼にしか聞こえないように口を手で覆いながら昨夜の事を話した。
「おま…それは、女としてどうよ…流石に、俺の婚約者もそんな事はしねぇぞ」
「そうだよねぇ…」
エミル君の婚約者である令嬢に会った事はあるが、結構気が強い女の子だ。
言いたい事はズバズバ言う性格で、妹であるアンナに似ている所もあり、僕は微笑ましく見ているのだけど。
エミル君もそんな彼女の態度に辟易しながら、それでも大切にしているのは見てわかる。
僕の兄弟も大体は女の子で、一番下だけ男の子だ。
だからこそ、彼女らの突飛な行動に驚いた。
母様の躾のおかげで、シャナ以下女性陣は礼儀がなっているからだ。
「お前が婚約者決めないのがいけないとは思うけどな」
「…母様達が、恋愛至上主義っていうか…」