魔力痕とは、相手との同意の元に付けることが出来る魔力の痕である。
普段は見えないが、魔力感知が高い人は見えてしまうらしい。
嫉妬深い恋人や夫婦が、相手は自分の物だという証として用いられる事がある、なんて聞いてはいたが。
え、無意識で付けた?
嘘でしょ?
ユエの方を見ると、顔を逸らされた。
それに少しショックを受ける。
ユエ、もしかして嫌だった?
僕からされるの。
うわ、誰か僕を埋めて…!
自己嫌悪に陥り、僕はその場に蹲った。
「グンちゃん?! ど、どうしたの? もしかして、私がキスしたの嫌だった?」
「……嫌だけど、それ以上にショックな事あったから…ちょっと、放っておいて…」
ユタカに護衛の件を伝えなきゃいけないんだけど、ユエから顔を逸らされた事の方が重要だ。
嫌われてはいないけど、好かれてもいないような気がする。
僕は深呼吸を繰り返し、呼吸を整えた後立ち上がった。
「グ、グンちゃん…?」
「シャナには、ツルギという男が護衛につく事になった。ユタカ、君はこれから僕の護衛になる。あまり羽目を外しすぎないように…」
そう言う僕に、ユタカは抱きついてくる。
だから、そういう事するなって言おうと思ったのに。
「やったーっ!! ユエ、これからは抜け駆け禁止なんだから! わかった?!」
「だから抜け駆けも何も、アオちゃん次第だって言ったじゃん。私達がアオちゃんに恋していた所で、決めるのはアオちゃんなんだから。あとユタカ、アオちゃんが私達以外の人と恋に落ちても、応援するって約束してくれない? 私、アオちゃんが幸せなら自分の幸せはどうでもいいの」
冷ややかな目で、ユエはユタカを見ながら言った。
目が少し、何かを堪えるように揺れてはいたが。
見てられない。
そんな目をさせたいわけじゃない。
振られても構うもんか。
僕は、ユエが好きなんだから。
「ユタカ、離せ。ユエに話がある」
僕の低い声に肩を揺らしたユタカは、僕から離れる。
ユエの方に手を差し出すと、近寄ってきた彼女が恐る恐る僕の手を取った。
その手を握り、彼女を引き寄せる。
そしてその耳元へ小声で
「ユタカも知らない場所に行きたい、二人だけで」
と言った。
ユエは少しだけ頷いて、僕と共に転移する。
そこは洞窟のようだったが潮の匂いがするため、どこかの海の近くなのだろうと推測できた。
「で、アオちゃん。話って?」
「あのさ、ここ本当にユタカ来ないよね? ちょっと真剣な話するんだけど」
彼女に尋ねると、頷く。
「トリスタンの領地の一角にあるけど、ここの洞窟の事は私しか知らない。ママも知らないと思う」
「そっか」
僕はユエに向き直り、聞いた。
「ユエは、僕の事を好き?」
「好きだよ」
そんな無表情で言われても…。
言葉が信憑性を伴わないんだけど…。
「…僕がここで死ぬって言ったら、君はどうする?」
「……馬鹿な事言わないでくれない? アオちゃん、死にたいの?」
ユエの無表情が揺らいだ。
少し怒っているような、悲しそうな、複雑そうな顔だ。
「別に。死にたいわけじゃない。でも、ユエはどう思うんだろうと思ってね。ここで僕が死んだら。悲しんでくれるか、もしくは僕を忘れて別の男と婚姻を結ぶのか…」
そう言った瞬間、ユエから平手打ちされた。
初めて彼女から殴られたので、僕は驚いて彼女を見つめる。
「っ!! 馬鹿言わないでよっ!! なんで私がずっと我慢してたと思ってるの?! アオちゃんが一番幸せになれる人と結婚して欲しいから、ユタカの事だって牽制してたっていうのに!! 私が一番アオちゃんの事好きだよ!! 貴方が死ねっていうなら、今すぐ死ぬよ!! 一緒に死んで欲しいというなら、一緒に逝くの!! その覚悟くらい、あるのに…」
言いながら、ユエは座り込んでしまった。
嗚咽混じりの声で、彼女は言葉を紡ぐ。
涙が、岩肌にポタポタと落ちていった。
「どうして、そんな意地悪な事を言うの…? 私は、貴方に幸せになって欲しいだけなの…。死んでなんてほしくないのに…。ずっと、貴方だけなのに…どうして…っ!!」
「ユエ」
彼女を抱きしめる。
涙が僕の服を濡らしていくが、気にしない。
「自惚れてもいい? 君は僕の事を好きなんだって。僕もね、朝自覚したばかりなんだ。ユエ、好きだよ。愛してる。君以外と幸せになるイメージが持てないんだ。僕と将来を歩んでくれないかな。死が二人を分つまで」
ユエが僕の服を掴む。
そしてポツリと呟くように僕へ言った。
「私、かなり面倒くさいと思う。アオちゃんが呆れてしまうくらい。妃教育だろうが何だろうがするけど、それでも何処かで、やっぱりやめようってなると思うよ」
「あのさ、君との付き合い何年だと思ってるの? 君の性格もわかってるよ。いや、お祖母様の所に行った後から読めなくなったけど。それでも、変わらないし、他の男に君を渡すなんて冗談じゃない。僕は君のものだし、君は僕のものだ。ねぇ、ユエ。愛してるんだ、誰よりも」
彼女の顔を上げさせ、キスをする。
予定よりだいぶ早く、二人をくっつけてしまった…
だって、ユエが前書いた話より暴走してくれなくなったんだもの…