「グンジョウ・デルフィニウム・ブリリアントです。ソーニャ嬢、本日はどのようなご用件で? 外も暗くなっておりますし、もう暫くはここに留まるつもりでは有りますので、急ぎでなければ後日用件をお伺いしますが…」
「
あー、やっぱりこういう展開かぁ…面倒くせぇー…。
僕は表情に出さず、ソーニャ嬢に告げる。
「大変申し訳ありませんが、そういう事でしたら正式にリューネへ申し込みをしていただければと。それと…私にはもう婚約者がおります。私個人の意見で恐縮ですが、私は彼女以外と婚姻するつもりは毛頭有りません。それをご承知の上で、お願い致します」
ニコリと、社交辞令の笑みを浮かべた。
その瞬間、背後にある扉が開き、魔力波が僕を突き刺すように浴びせられる。
この魔力はユエの物だ。
僕は恐る恐る、後ろを振り返る。
「ユ、ユエ…」
軽く俯いていたユエが、ゆっくりと顔を上げた。
そして彼女は僕の側に来ると、胸ぐらを掴んでくる。
「アオ?! 何がお願いしますなの?! ええ?!」
「君どっから話聞いてたの?! 穏便に話終わらせようとしてただけだろ?! あと出てくるなって言伝聞いてきたのに出てきたな?! ちょ、胸ぐら掴むな苦しい!!」
若干涙目になりながら、ユエが僕を揺さぶってきた。
そんな僕らを見て、ソーニャ嬢がクスクス笑い出す。
ユエがその方向を睨み付け、途端全ての動作が止まった。
「……ソーニャ?」
「お久しぶり、ユエ。貴女がリューネに行ってから、もう6年くらいだけれど。覚えててくれて嬉しいですわ。良かったですわね、愛しのアオちゃん様と婚約の運びになって。それにアオちゃん様、貴女一筋みたいで安心しましたわ。これで揺らいでいたら、私他国の王子であろうともはっ倒していた所でしたわ」
ユエは僕から手を離し、ソーニャ嬢に駆け寄って抱きしめる。
僕は状況が理解出来てきて、苦笑いを浮かべながらソーニャ嬢に尋ねた。
「試しましたね? ソーニャ嬢」
「まぁ、頭の回転も宜しいなんて。ユエ、貴女とんでも無い倍率を勝ち残りましたのね? むしろ、アオちゃん様にご迷惑おかけしてません事? 立花の娘だからと胡座をかいていたら、すぐに寝首を搔かれましてよ?」
ソーニャ嬢が心配そうに、ユエの背中をポンポン叩く。
どうやら先程の言葉は本気ではなく、僕を試す為に発せられたもののようだった。
それに、彼女はユエの友人らしい。
友人の婚約者がどんな人物なのか、王子だからと友人を泣かせるような奴ならはっ倒す、と意気込んでいたに違いなかった。
友達想いのいい子だな、ソーニャ嬢。
ユエを連れてって申し訳ない。
「迷惑は…かけてると、思うけど…」
「同じくらいでしょ。いや、むしろ僕の方がかけてるというか…」
腕を組み、扉に背を預けて僕は顔を背ける。
さっきも彼女、襲いかけたしなぁ…。
あと、アオちゃん様って何?
昔は僕の事、アオちゃんって呼んでたけど、ユエ。
「ユエ、泣かされたらいつでもオーシアに帰ってきてもよろしくてよ? 昔貴女に求婚してた、ヴァルターも、ウルリッヒも、トラウゴットも…あとは、ジーモン、ライホールト、パトリック、オートウィン、ナータン、マルクス、ランベルト、カールハインツ、ヨドクス、イージドール、ハルトムート、ゲルト、フロリアン、エトガー、ダミアン、クリストフ、ベンヤミン、アルバン。みんな貴女の帰りを待ってますわ」
「え、多…」
多分全員男性の名前なんだろうけど、それにしては多い。
それだけの男が、ユエに求婚してたのか…。
あまりの多さに引いた僕に対して、ユエはソーニャ嬢から離れ、慌て始めた。
「ちっ、違うのアオ?! アイツら同じ学年の同級生って程度で、本気で私に求婚してたわけじゃなくって…っ!!」
「あら、それでも半数以上は本気だったようですわよ? 貴女がお母様と共に他国に行くってなった時、どれだけ嘆いていた事か…」
ソーニャ!! とユエは彼女の名を呼びながら叫んだ。
「アオより格好良くはないし気遣い出来ないクソガキだし、大体私より魔法の技術も体術も下手なくせに、なんで私の伴侶になれるって思うのかなぁ?!」
「ユエ、それは言い過ぎだと思いますわ。確かに、顔面偏差値はアオちゃん様の方が上ですけれど。そんな完璧な方、この世に存在しますの?」
いるもんと大声を出しながら、ユエは僕に抱きついてくる。
ユタカ辺りが出てきて、ユエの事宥めてくれないかな、と扉を見やるが誰も出てこない。
この騒ぎは聞こえているはずなのに。
面倒事に巻き込まれたくないからと、傍観してやがるな、あいつら…。
「アオは学年主席だし、格好良いし、魔力値は確かに低いけど…体術と剣術はそれを補って余りあるもん! あいつらが束になってかかってきても、アオは絶対負けないんだから!!」
「なら皆に連絡をとりましょうね。明日、近くの運動公園を予約しておくので、そこに午前10時集合という事で。殿下、逃げないでくださいませね?」
ニコリと、ソーニャ嬢は僕に微笑む。