イフリート3の月。
少し肌寒くなってきた今日この頃。
僕は寮の自室で眠りについていた。
ユエと付き合い始めて、暫く経ってからの出来事を夢に見ているようで、僕は一人の男子生徒と対峙している。
「殿下、ユエ嬢とお付き合いされてるそうで…どういう心境の変化ですか?」
目の前の男子生徒は、僕を若干睨みつけながら尋ねてきた。
ローシェンナ色の髪をした男子生徒で、僕は彼の事が少し苦手だった。
僕ら王族は敬われる立場である。
だがそれは国民を守る事と引き換えだ。
それは当然、当たり前の事である。
民の為に生き、民の為に死ぬ。
それは小さい頃から教えられてきた事だった。
だが彼は、僕を王族の一人だとは認めていない。
僕が立太子されたのも気に食わないと、面と向かって言われた事もある。
なんでそんなに敵視されているのか、僕には理解出来ない。
夢の中の僕は、彼に言う。
「それをお前に言う必要はあるのか? ザック・ヘリオドール・ローレンツ」
「はっ! 威圧すれば全ての国民は言う事を聞くと思っている! 殿下、貴方は王の器ではない。ユエ嬢も貴方みたいな方と婚約させられるなど、お可哀想に」
僕はあの後、どんな行動をしたのだったか。
掴みかかっては、いないはずだ。
確かにその通りだと思っていたのだから。
ユエは前から僕が好きだったから、受け入れてくれていたけど。
そうでなかったら、こんな優柔不断で自分に自信がない奴など、地位がなければ誰が好き好んで嫁ごうと思うのか。
確かあの時、シャナが近くにいて言い返してくれたんだっけ。
自然に目を開け、僕は嫌な夢を見たなと寝返りを打つ。
「ん…」
女性の声が聞こえ、僕はその体勢のまま固まった。
あれ?
僕、昨夜一人で寝たはずだよな?
というか、ここ寮の部屋のはず…。
ん?
恐る恐る後ろを振り返る。
見慣れた黒髪が壁と僕の間に挟まるようにいて、僕は起き上がり、思わず彼女の頭を叩いた。
「いったぁ?! えっ?! 何?!」
「何じゃねぇよ!! なんで僕のベッドに潜り込んでんだよ、ユエ!!」
僕の恋人で婚約者のユエが、頭を押さえつつ飛び起きる。
若干涙目の彼女は、怒鳴った僕へムッとしながら言い返してきた。
「だってアオ、夢見が悪くなっていったから。私とアオの部屋離れてるでしょ? 夢渡りでも助けられないと思って、シャナちゃんに無理言ってお部屋入らせてもらったの。もしかしたら、魔王か桃華の精神攻撃かと思ったから。普通に夢見悪かっただけで安心したけど」
「あぁ、そう…。うん、それならまぁ…仕方ないけど…。君、夢の中に出てこなかったよね…?」
そう尋ねると、ユエは更に不機嫌そうな顔になり、プイッと顔を横に背けてしまう。
「膜が凄くて、中まで入れなかったんだもん。勢いに任せて破るとアオの精神傷ついちゃうから、慎重にならざるを得なかったんだもん」
「あー…夢渡りの魔法ってそんな繊細な物なんだ。よく使えるね、君」
ユエは何も答えず、今度は背を向けてしまった。
よく見れば寝巻き姿で、着替える暇なくこちらに来たのだと伺える。
夜這いをかけたら、流石に婚約者でも怒られるのは彼女も分かっているだろうし、本当に言い分通りなのだろうなと思った僕は、後ろからユエを抱きしめた。
「ありがとう、ユエ。愛してるよ」
「それだけじゃ絆されないからね。助けようと思って来たのに叩かれるとか。アオひどーい」
臍を曲げてしまった彼女に、僕は苦笑いする。
「ごめんって。シャナにするみたいにやって悪かったよ。弁解にはなるんだけど、こんな事やるの兄弟姉妹に対してだけだから。君を家族みたいに思ってるから、ついやってしまって…」
「……朝ご飯作って、髪結ってくれたら許す…」
ぶっきらぼうに言う彼女の方を見ると、少し頬を染めているようだった。
僕の言葉を聞いて、少し機嫌を直してくれたみたいだ。
こんな僕を心配し、助けようとしてくれた彼女の気持ちがとても嬉しくなり、僕はユエに頬擦りする。
「仰せの通りに。僕の姫」
ついでに彼女を抱きしめる腕にも力を込めて、愛情を伝えた。
◆◆◆
「珍しい。グンジョウが早起きして、本を読まずにご飯作ってるなんて」
僕が起きたのは午前5時だったらしく、そのまま寝るわけにもいかなかったので、朝食をシャナの代わりに作っていた。
と言っても、姉のように作れるわけでもなく、シンプルな物だけだったが。
そんな僕を見た寝起きのシャナが、今日は槍でも降るのかな、なんて窓の外に顔を向けながら言う。
「夢見が悪かったんだよ。あとユエがいて驚いたから、眠気吹っ飛んだ」
「シャナちゃん、ごめんね。寝てる所叩き起こして」
いーよー、なんてシャナは欠伸をしながら返事をする。
こんな姿見ても、ツルギは呆れる事なくシャナの傍に居続けるんだから、僕の義兄になる奴は本当器が大きいな。
「グンジョウ、訓練の時覚えてろ」
「もう思考読まれるのは、仕方ないって諦めたけどさ。シャナの伴侶として、ツルギほど相応しい奴いないだろ、って思っただけだよ。お前のそんな姿見たら、貴族の子息連中どん引くだろうし」
風を切る音がして、僕は飛んできた物を指二本で止める。