シャナが使ってる美容用のカミソリで、危ないなー、なんてそれを見ながら思った。
「別に引かれても構いませんけど?!」
「まぁな。エミル君やアラスターを除けば、大体はお前の嫌いな性格の奴らばっかだし…あー、くそ。思い出した…」
カミソリをシャナに投げ返し、僕は今日見た夢を思い出してしまう。
今の僕の表情は、苦虫を噛み潰したかのような感じになっている事だろう。
だが、調理する手は止めない。
「何思い出したってのよ。あと、何作ってんの?」
「ユエに和食と洋食どっちが良いか聞いたら、洋食食べたいって言ったから。あっちのトースターでパン焼きつつ、サラダは用意して冷蔵庫に入れてる。今作ってんのは、ベーコンエッグ。コーヒーメーカーでコーヒーも淹れてるから、飲みたかったら飲め」
シャナにそう説明しつつ、僕はユエにジャムはいるかと尋ねる。
「ありがと。バターだけで良いよ、アオ。シャナちゃん、ローレンツ家のザックって覚えてる?」
姉にそれを説明しようとしていたのだが、夢渡りで僕の状況を見ていたユエが、代わりにシャナへ説明してくれるようだった。
「ローレンツ…あぁ、あのお坊ちゃまか。何かに付けてグンジョウに突っかかってくる阿呆。21貴族のくせに、選民主義が抜けない馬鹿。内心で母様の事も馬鹿にしてるけど、権力に弱いクソガキ。強い者には媚び諂い、弱い者には強く当たるクズ」
「シャナ言い過ぎ」
流石に姫としてそれはと思った僕は、ストップをかける。
だがシャナは、はっ! と馬鹿にしたような笑いを浮かべた。
「自分がグンジョウに勝てないからって、突っかかってくる方が悪いでしょ。自分磨きもしてないから周囲の女子から避けられてるのに、それを自分が格好良くて一目置かれてるから、なんて勘違い野郎で」
「あの、シャナ? 僕だって自分磨きしてるかって言われたら、してないからね?」
それに対して、姉とユエはブンブンと同時に首を横に振った。
「グンジョウは自覚してないだけで、やってるからね? 身だしなみだってきちんと整えてるし、周りに嫌な思いさせたくないって、香水だってつけてるでしょ? 体だって鍛えてるし。あれとは違うから」
ないない、と手を振る姉に、ユエはある単語が引っかかったようで、シャナに真剣な顔を向けて尋ねる。
「シャナちゃん、あとでその香水の品番教えて」
「多分シャナ知らないだろ。普通に聞いてくれたら教えるよ」
ユエはシャナから僕に顔を向けた。
そして立ち上がり、僕の横に来ると教えてと言いながら服の裾を引っ張ってくる。
その動作可愛すぎるだろ、ユエ。
「アネモネージュのプラチナグルール。一応小遣いの範囲内で買ってるんだけど、ユエ買う気? プレゼントしようか?」
「良いの?!」
別にそれくらいなら、買える範囲だから買うけども。
彼女は満面の笑顔を浮かべ、アオ大好きと言いながら抱きついてくる。
可愛い。
とりあえず朝食が出来たのでテーブルに並べていく。
三人で朝食を食べている途中で、ユエが僕に笑いかけながら言った。
「さっきの話だけどね、アオ? アオはね、ちゃんと人を見て助ける事の出来る人なんだよ? 自分が出来る範囲で助けようって動くから、みんなもアオが好きになるんだよ。アオを王族としてじゃなく、アオ個人として見てる人も大勢いるの。だから、未だに告ってくる奴の多い事…私がいるのに喧嘩売ってんのかな、あいつら…」
顔怖くなってるぞ、ユエ。
別に告られたからって、ユエ以外を見るわけないのに。
「で、ローレンツのクソガキがどうしたって?」
シャナが、焼いた食パンを食べながら聞いてくる。
一応同級生なんだけど、相手をクソガキ呼ばわりするって…。
「アオの夢の中に出てきたの。あれ、どこの場面なんだろ?」
ユエもサラダを食べつつ、首を傾げる。
僕はそれへ説明を入れる事にした。
「ユエと付き合って、ちょっとしてからだよ。なんであぁ言われなきゃいけないのか…」
「当たり前でしょ。あいつ、ユエちゃんと結婚するのは自分だって思い上がってた馬鹿だから」
コーヒーを飲もうとしていた僕は、その言葉を聞いて止まる。
ユエも驚いてシャナを見つめているし。
「…え?」
「シャナちゃん、それ本当?」
ユエの質問にシャナは、うん、と頷いた。
「自分より格好悪くて、成績は良いけどそれだけのボンクラ王子に、ユエちゃんが靡くわけない。グンジョウに取り入ってるのは、立花卿であるカヅキおばさんの命令だから。可哀想な少女だよ、なんて言ってたって、あいつのクラスメートだった友達からのリーク」
シャナはそう言いつつ、甘くしたカフェオレを一口飲む。
僕はまずいと思い、ユエの方に目を向けた。
彼女は俯き、肩を震わせている。
そして。
「ふっ…ざけんなぁっ!! 誰が格好悪いだぁっ?! 誰がボンクラだぁっ!! ママの命令だからって、好きでもない奴に誰が取り入るかっていうの!! むしろうちは恋愛至上主義だっつーの!! アオより格好良くなって、首席取って、私より背が高くなって、周囲を虜に出来るくらいの器量持って、アオより地位が上になってからそういう事言いやがれ!!」
「ユエ、ユエ。落ち着いて。朝だから」
彼女は立ち上がり、怒りで叫んだ。