しかも仰け反りながら髪を掻きむしる。
僕も立ち上がり、宥めるようにユエを抱きしめた。
「だってアオ!! 私、夢の中でしかそいつ見てないけど、スっっっごくブッサイクだったじゃん!! むしろお風呂入ってる? ってレベルだったじゃん!! 髪もボサボサだし、顔も吹き出物だらけだし!! アオを敵視する前に、身だしなみちゃんとしろって言いたくなるんだけど?!」
ユエは僕の服を掴み、そう叫ぶ。
「お風呂はちゃんと入ってるとは思うんだけどね…。僕より香水の匂いきついから、彼が通った後ってすぐ分かるし…あと、人の容姿は貶しちゃいけないよユエ」
「う…。それはごめんなさいだけど。でも、あんなのに狙われてたとか、寒気が…やだぁっ!! 私絶対アオと結婚するーっ!!」
うん。
僕もユエ以外と結婚するつもりは全くないんだけど。
やだやだ、と若干泣きが入ったユエを宥めて、席に座らせた。
朝食を食べ終え、朝食を作った僕の代わりにシャナが洗い物をしている間、ユエが持ってたシュシュで彼女の髪を三つ編みにする。
上に結えるか、こうするかしか今の僕の技術では出来ないのだが、ユエは髪が三つ編みになった自分の姿を見て、満面の笑みを浮かべた。
「ありがと、アオ!」
「ご満足頂けたなら何より。ユエ、部屋まで送るよ。シャナ、後任せた」
僕はユエの手を引き、彼女とユタカの部屋まで連れて行く。
チャイムを鳴らすとシンクが出てきたものだから、僕は弟に朝の挨拶をした。
「おはよう、シンク。朝からユタカの髪、結ってあげてたのか?」
「はよ。まぁな……ユエ。ユタカ心配してたぞ。起きたんならせめて、メッセで事情とか話しとけ。まぁ、大方グンジョウのとこだろうとは言ってたけどな」
全くもってその通りなので、僕もユエも苦笑いを浮かべる。
「ごめん、シンク。ユタカは?」
「もう登校準備終わってるよ。お前らも早くしろよ?」
シンクと入れ違いで、ユエは部屋の中に入っていく。
僕は弟と連れ立って、来た道を戻っていった。
◆◆◆
あの夢、正夢か何かだったのかな…。
頬杖をつき、航空艦の窓から外を見つつ、僕はため息をつく。
統合騒乱でリューネの領土が拡大した事に伴い、各領地の大幅改変があったらしい。
母様曰く、母様達の世界でアメリカという大陸があったが、あれくらいの大きさの領土にリューネはなったようだった。
夕陽の知識では、車で行き来できる所もあれば、電車を使わねば行けない所もあり、果ては飛行機でないと辿り着けないくらい広大な土地だったようで。
今のリューネにそっくりだと、教えてもらった時に思ったものだ。
「行きたくねぇなぁ…」
ポツリと呟いた僕へ、隣に座っていたユエが苦笑している様子が、窓越しにわかる。
シャナからあの話を聞かされた後、ローレンツ家へ魔王の遺物を探しに行く事になったのだ。
勿論、拒否権なんてものは存在しない。
ローレンツに行くという事は、ザックにも会う可能性が高い。
あいつはユエを狙っていた。
だから僕は、ユエへ言ったのだ。
着いてこなくても良いよ、と。
だが彼女は、
「アオの事馬鹿にしてる奴に、なんで私が負けると思うのかな? 手篭めにされる危険性があるって? 言ったじゃない、アオ。私、同級生相手なら負ける気がしないって。それに私は、世界最強の立花夏月の娘。私に手を出したらどうなるかなんて、火を見るより明らかでしょ?」
と、にこやかに言って退けた。
僕がユエに手を出しても、それこそ手篭めにしようとしたところで、彼女は何の抵抗もせず受け入れてくれるんだろうな。
「いや、当たり前でしょ? 私はアオになら何をされても良いと思ってるんだから。だーいすき、アオ!」
「思考読まないでってば。でも、僕も好きだよユエ」
彼女が僕と他の男共をどう思っているのか、その違いを感じる。
その時の彼女の言葉で、僕は少し嬉しくなってしまった。
「グンジョウ、行きたくねぇ気持ちはよく分かるけどさ。相手が21貴族の奴なんだから仕方なくね?」
昨日のユエとの会話を思い出していると、前の席から身を乗り出してシンクがそう言ってくる。
「それに、休みだからって家に帰ってない可能性もあるじゃん? あたし達が行動するのって、週の休みの二日間だけだし。そんな期間に、一々家に帰るのって面倒だと思うよ? しかも航空艦使わないと帰れない距離なんだからさ。あたし達みたいに転移術が得意な奴じゃないし」
後ろの席にいたシャナも、シンクの言葉にフォローを入れてきた。
そうだと良いんだけど、多分そうはいかないんだろうなと、僕は思う。
僕の直感ではあるが、多分ザックはベルナール卿と同類だ。
自分は正しく、自分が惚れた女性は同じく自分にも惚れているという、勘違い野郎。
ちゃんと周囲を見れば、そうではない事が分かるのに。
だからユエを連れて行きたくなかったんだよな…。
父様みたいに、自分を抑えられる自信がないから。
ザックが彼女に何かしようものなら、僕は相手を殺す可能性があった。