「アオ。貴方が何かする前に、私が相手をボッコボコにするから安心してね。大丈夫、正当防衛の範囲内でやるから」
「…もう諦めたから言わないけどさ。君に何もされたくないんだよ。君、自分が可愛いの自覚してる?」
僕がそう言うと、前の席にいたシンクがやれやれと肩を竦め、隣の席にいたユタカとイチャつき出した。
ちなみに今、航空艦の中には僕らだけしかいない。
母様が、嫌な予感がするから貸切にするよう、おばさんに言ったからだった。
なら、王族専用艦を出せば良いだろうにとは思うが、そっちは父様が公務で使うらしい。
散らばれば良いのに固まって話すあたり、僕の姉弟は本当兄弟想いだ。
嫌な思いをするであろう僕を、気にかけてくれているのだから。
その内、ローレンツ領の空港に到着する。
僕らが空港内に降り立つと、見たくない顔が僕らを出迎えた。
「話には聞いていましたけど、うちの領に何の用ですかねグンジョウ殿下?」
「ザック・ヘリオドール・ローレンツ…」
僕らがこの時間、この場所に来るとよく分かったものだ。
学園の寮でぬくぬく過ごしてくれてたら、良かったのに。
ゲンナリしている僕を無視し、彼はローシェンナ色の髪を掻き上げ、女性陣に笑いかける。
その瞬間、ブワァとキツイ香水の匂いがして、僕は眉を寄せた。
「やぁやぁ、シャナ姫殿下にユエ嬢とユタカ嬢じゃないか。我が領にようこそ。そんな冴えない奴らから離れて、私と共に行こうじゃないか。今の時期、我が領では」
「その口を閉じろ、ザック・ヘリオドール・ローレンツ。私達はお前ではなく、お前の家に用があって来た。それに、お前に無駄口を許した覚えはない」
シャナが一歩前に出て、ザックを威圧する。
確かあの時も、シャナが僕を庇うように前に出て、威圧したんだったか。
「…姉の影に隠れて傍観するなんて、みっともないですねグンジョウ殿下」
「ローレンツ子息、それ以上は殿下への不敬罪に当たります。姫殿下が口を閉じろと言ったのです。大人しく従う事をお勧めします、が…これ以上何かを言うつもりなら、王家守護役の立花夏月の娘として、実力行使も有り得ますよ」
ユエも僕の前に出て、ザックを睨みつける。
いや、彼の言う通りなんだけど、僕が何か言えば更に煩くなるのは目に見えてるから、黙ってるだけだ。
「ぐっ…!」
ユエの方を見つつ、ザックは悔しそうな顔をする。
そして彼は僕を睨みつけた。
対して僕は、馬鹿にしたような笑みを浮かべてザックを挑発してやる。
まぁ、睨みがキツくなっただけだけど。
「…ふん! ……迎えの車を待たせてますので…」
「結構。王族に不敬を働く貴様と同席させるなど、兄君や姉君が許しても、弟である俺が許さん。お前はゆるりと家に帰って来るがいい」
シンクはそう言い、指を鳴らす。
瞬間、目の前の景色が変わり、ローレンツ家の門の前に僕らはいた。
「シンク大丈夫か? 空港からここまで、結構な距離のはずなんだけど…」
僕は背後にいた弟を気遣う。
だがシンクは、思い切り顔を顰めて言った。
「いや、だってさ。あいつの体臭まじキツかったんだって! シャナが咄嗟に防いでくれてたけど、あれ吐くレベルだっつの! あれと同じ空間にいるくらいなら、多少魔力削った方がマシ!!」
「確かに…色んな匂いが混ざって、眩暈を覚える程でしたね…。ムスクとシベットと…ケトンとシダーウッド…くらいしか分からなかったです」
むしろ、そこ嗅ぎ分けられる君が凄いよツルギ…。
香水の種類なんだろうけど、そんな詳しい方じゃないから言われても分からない。
そこも、要家の技術というやつだろうか?
取り敢えず、門番に中へ入れてもらうよう言う。
僕らが来る事は事前に通達済みだからか、素直に通してくれた。
「これはこれは、グンジョウ王太子殿下ご一行様ではありませんか! おや? 息子を迎えに寄越したはずなんですがねぇ?」
髭を整えたほっそりした身なりの男性が、僕らを睨め付けるように見る。
僕らが子供だからと下に見ている、というわけではない。
この男、ラウリ・オブシディアン・ローレンツは、僕だけでなく王族に対して良い感情を持ってはいないのだ。
まぁ大方、父様の代になって甘い汁を吸えなくなったからだろうけども。
別に、父様が圧政を敷いた、という事はなく。
ただ、法の改正や見直し、各領の視察に加え、民からの話を聞き、領主から提出されたものと見比べて判断を下しただけだ。
そのせいで贅沢が出来なくなったと、そちらの方面で恨まれているのだ王家は。
領民に圧政を敷く事の方が間違っているのに、気付かない馬鹿も多い。
その筆頭がこの男だと、父様は毎度陳情書というか、前の体制に戻すべきだという意見書を見て、頭が痛そうにしながら教えてくれた。
「早めにこちらへ伺いたかったものですから。これから捜索しますが、邪魔だけはしないよう申し付けておきますね、ローレンツ卿」
僕が微笑みながら言うと、面白くなさそうにローレンツ卿はふん、と鼻を鳴らす。