「聞こえなかったか、ローレンツ子息。近付くなと私は言ったな? それに、もう一度言う。お前の部屋を捜索した、その意味が理解出来ないか? 証拠は押さえてある。言い逃れしようとしても無駄だからな」
ぐっ、と悔しそうな顔をしながら、ザックはまた止まった。
玄関ホールの騒ぎを聞きつけてか、捜索が終わったのか。
娯楽室方面からシンクとユタカが現れた。
「ユエ!」
自分の妹の様子がおかしい事に気付き、ユタカが駆け寄ってくる。
「ユタカ…」
「大丈夫、大丈夫だよユエ。ユエの事は、グンちゃんが守ってくれるからね」
ユタカはユエを抱きしめ頭を撫でた。
そんな二人を隠すように、シンクが僕の隣に来る。
「何事、これ?」
「後で僕の記憶でも読んでくれ…ローレンツ子息。私からの憐れみだ。証拠は押さえさせてもらったが、物品は処分して置いてやった。感謝すると良い」
それを聞いた瞬間、ザックは自分の寝室方面に駆け出して行った。
次に文句言ってきたら殺そう、と僕は内心誓う。
シンクは僕の肩に手を置き、記憶を読んだようで物凄く顔を顰めた。
「…ユエ…グンジョウに思いっきり甘えた方が良いわ、これ…流石に俺も気持ち悪い。てか、よく耐えたなグンジョウ。俺同じ事されたら、問答無用であいつ焼き殺してるわ…」
「殺したい気持ちは大いにあるよ。でもね、シンク。もっとボロを出してもらわないと、殺せないじゃないか」
学園の中とはいえ、僕に対して馬鹿にしたような態度は取るし。
僕の婚約者のユエに対しては、盗撮だの何だのやらかしてるし。
あともう一つ何かやらかしてくれないと、処罰出来ないだろうに。
ニィ…と笑顔を浮かべると、シンクが引き攣り笑いをする。
「俺、お前敵に回したくねぇわ…何その顔…怖…っ!」
「何言ってんだよ。お前は僕の弟だろ。なんで弟を害さなきゃいけないんだ。馬鹿な事言ってんじゃねぇよ」
軽く胸辺りを小突いてやりながら、呆れた顔を向けた。
そして僕は後ろを振り向き、ユタカに抱きしめられているユエへ微笑む。
「ユエ、おいで」
彼女はユタカから離れて駆け寄ってくると、僕の腕の中に収まってくる。
「アオ、アオ…っ!!」
「うん。ホテルへ帰ろうか、ユエ。シンク、悪い。あと任せて良いか?」
彼女の頭を撫でつつ、僕は弟へ尋ねた。
任せとけとシンクは拳を挙げてきたので、僕もそれへ自分の手を挙げて合わせる。
〈シャナ、悪い。先にホテルに帰る。魔力くれない?〉
〈え? 何があった…からそう言うんだよね。わかった。事情は帰ってから教えてね〉
シャナに念話を繋いで、魔力を貰えないか尋ねた。
姉は理由をその場で問い質す事もせず、僕へリンクを繋ぎ魔力を渡してくれる。
本当、こういう優しい所あるから、姉としてシャナが好きなんだよ僕。
シャナから貰った魔力で、僕はユエを連れてホテルへ転移する。
取っていたスイートルームの鍵をもらい、最上階までエレベーターで登った。
部屋に入った途端、ユエが泣き出してしまったが。
「泣かないで、ユエ。ここなら安全だから。僕も傍にいるよ。大丈夫、絶対に君を守るから」
「っ、ごめん、アオ…っ…あんなので、動揺するって…っ…わっ、私…っ!」
いや、動揺するなと言うのは、土台無理な話だろう。
僕でも逆の立場なら衝撃を覚えるものだし、女性であるユエには、恐怖以外の何物でもない。
しかも相手はあのザックだ。
嫌悪感のある相手からというのも、なかなか応えるものだろう。
僕は彼女を横抱きで抱え上げ、ベッドルームに連れて行く。
そのまま、ユエをベッドに降ろした。
「アオ…」
「離れないよ、ユエ。君を一人にはしない。シンク達が帰ってくるまで、このままでいるから」
彼女の傍に座り、頭を片手で抱きしめる。
ユエは僕に身を寄せ、泣き疲れて眠るまで僕の服を握りしめていた。
「ただいまー。グンジョー? ユエちゃーん?」
部屋の扉が開く音がして、次いでシャナが僕らを呼ぶ声が聞こえる。
僕は携帯を操作し、シャナにメッセを飛ばした。
時計を見れば午後6時。
まぁまぁ良い時間である。
「…ユエちゃん、寝ちゃったんだ。大丈夫そ?」
「精神的ショックが大きかったみたい。ごめん、シャナ。ユタカ呼んで。一人にさせると怖がるだろうから」
オッケー、と返事したシャナは、すぐにユタカを呼びに行った。
一分もしない内にユタカが部屋に来て、僕と位置を交換する。
「ごめんね、グンちゃん。ユエ、生まれてこの方こういうものに触れてこなかったから、少し純粋なんだよね。ママの蔵書でそういう知識はあったけど。実物見るの初めてだったんだろうね」
ベッドの縁に腰掛け、ユタカはユエの頭を撫でながら苦笑していた。
流石、精神年齢高い組。
話はシンクから聞いていたのだろうが、ユエみたく動揺はしてないようだった。
彼女をユタカに任せ、僕は他のメンバーがいるであろうリビングへ行く。
とりあえず、あの時にあった事をメンバーに話すと、シャナがニヤリと笑った。