「あんな女の敵、世の中から一掃した方が世の為人の為になるもん。狙われたのがユタカちゃんだったら、どうすんのあんた」
「あ? そんなの、狙った奴みんなぶち殺すに決まってんだろ。ユタカは俺の。誰にも渡すものか」
頬杖をつき、はっ、とシンクは馬鹿にしたような笑いを浮かべた。
話題に上がったユタカは、仕方ないなと笑っている。
「グンジョウも同じ気持ちでしょ?」
「え? うん、当たり前だけど? むしろ今殺しに行って良いならするよ?」
にこやかに言って退けると、ユエが慌てて僕の名前を呼びながら腕に抱きついてきた。
「冗談だよ。まだ何の罪も負わせず殺したら、僕の方が罪に問われるからね」
そう言いつつ、彼女の頭を撫でる。
半分本気ではあるんだけどね。
本当あの野郎…死刑の時は、是非僕にやらせて頂きたいものだ。
「アオ、顔怖い…」
「おっと。ごめんね、ユエ。怖がらせちゃったね」
僕はユエに微笑み、そういえばと姉に聞く。
「シャナ、魔王の遺物見つけたか?」
「あったし、何なら母様の星読みで偽物とすり替えてこいって言われてたの忘れてた。ごめん、グンジョウ」
いや、シャナのせいではないだろうが。
「あったんなら良いんだ。帰りも僕らの貸切のはずだったよな、ツルギ?」
「はい。明日の午後4時フライトの航空艦で帰る予定です」
ローレンツ親子は午前出頭のはずだから、流石に鉢合わせはないだろう。
今日は疲れたからと、ルームサービスを取って食事を終え、就寝する為に各部屋へ分かれた。
なのだが。
「ユエさん? あの、何で入ってきてるんですかね…?」
先に風呂に入って良いと言われたので、お言葉に甘えて先に入り、体を洗ったあと浴槽でゆっくりしていたら、何故かユエも浴室に入ってきたので、僕は自分の顔を覆って、彼女の方を見ないようにしながら尋ねる。
「予行練習。いずれ夫婦になるんだもん。これで恥ずかしがってちゃダメだと思って」
「君思い切り良すぎない?! 何、ちょっとショック受けて頭のネジどっかいった?! 言っただろ持ってきてないって!! 襲われたらどうすんだお前!!」
大歓迎、と言われたので、僕は深く長いため息を吐く。
「アオ、見えてないんだから良いでしょ?」
「良くない、全く良くない。見えてなくても君の方は視力いいだろ…」
見えてなくても肌色はわかるんだから、本当に勘弁してほしい。
顔を覆って微動だにしない僕に呆れたのか、パチンと音がする。
少しだけ顔を上げると、浴室内が暗くなっていた。
光源は、大きな窓から降り注ぐ月光だけ。
水音がし、ユエが湯船の中に入ってきたのが分かった。
「大きいお風呂だから、触れ合うことも無いし。これで安心でしょ、アオ?」
「少し恥じらい持てよ、ユエ。いや、まぁ…見えにくくなって、安心だけどもさ…」
それでもユエの存在は気配でわかるから、少し落ち着かないけど。
チャプチャプと音がして、何をしているのだろうと僕は彼女に尋ねる。
「何してんの?」
「んー? 窓少し開けようとしてるだけ。ほら、月が綺麗でしょ?」
カタンと次いで音がして、浴室内に外の空気が入り始めた。
今の季節は少し涼しく、ほてった顔にそんな風が当たる。
「…月が綺麗ですね、だったっけ」
ポツリと、彼女は自分と名を同じくする衛星を見上げ、呟いた。
姿勢からして、頬杖をついているようだ。
「それ、前世の知識だっけ?」
「今世でも習ったよ、アオ」
フッと彼女が笑う気配がする。
確か吾妻ノ国の書物の一文だったっけ、それ。
僕は思い出しながら、彼女に言う。
「君と共に見上げる月へ、想いを乗せて伝えようと言葉を練る。自分の身分が低いので、直接的には伝えられないからだ。『月が綺麗ですね』自分がそう言うと、君はこう返してくれた」
「貴方の為なら死んでも良いわ……アオ、その本の文覚えてるの? 私そこだけしか覚えてないのに」
ユエは驚いたように、僕を見つめているようだ。
一応、読んだ本は全て頭の中に入ってはいるが、驚く事だろうか?
「結構有名だろ? 後はそうだな……しとどに雨に降られ、私は彼女と共に雨宿りをする。急な夕立のようだが、彼女の様子を伺った。雨に濡れた髪を掻き上げ、彼女は私を見つめていた。そして、私に向けて微笑みながら言ったのだ。雨が止みませんね、と。私はその有名なフレーズに、こう返したのだ。寒いですね、と」
「それどういう意味?」
少し肌寒くなったのか、窓を背にしてユエはお湯に肩まで浸かる。
僕は彼女に微笑み、意味を教えた。
「雨に降られて、雨宿りをしている二人。女性の方が、雨が止みませんねって言ったのは、まだ帰りたくない傍にいたいって、暗に言ったんだよ。そして男性の方が、寒いですねって返したのは、抱きしめても良いかって女性に尋ねたんだ」
「あー、なるほど」
ちなみに、良いよって返事は暖かいですね、と返すらしい。
ダメならガン無視だって、巻末の作者のコメントに載ってたっけな。
「アオ?」
「今はやらないからな。理性切れるっての馬鹿」
馬鹿って何、と彼女が不機嫌になり、お湯を僕に浴びせてくる。