ウンディーネ1の月。
ローレンツの馬鹿親子は、刑務所なるものに収監される事になったらしい。
終身刑だそうで、一生刑務所の中から出て来れないようだ。
ローレンツの当主には分家の者が就いたようで、今度はまともな奴だと、父様から聞かされた。
シャナが交換してきた魔王の遺物は指輪だったようで、僕らが回収してきた遺物が増えた事により解析が進み、魔王の居場所が掴めそうだ。
そうおばさんが話していたと、ユエとの会話の合間に出てくる。
そんなある日。
「却下ぁぁぁぁっ!!!」
僕は机を叩いて抗議の声を上げていた。
クラスメートのみんなが僕の方を驚いた目で見たり、諦めた表情を向けたりと様々な顔を向けて来るが、それに構っている暇などなかった。
「ルトル!! お前なんてもの提案してるんだよ?! 良い加減にしろよ?!」
「うん? 別におかしな事は提案していないだろう? 男女逆転喫茶をしようじゃないか、と私は言っただけさ」
それが問題なんじゃねぇか!!
ルトルが提案した男女逆転喫茶は、男子が女子の格好を、女子が男子の格好をするという普通のものではなく、服に魔法陣を縫い込み、それを着ている間、男子の体を本当に女子へ、女子の体を本当に男子へする、というものだった。
「普通の男女逆転じゃなく、本当にするとか頭正気かお前?!」
「しかもよぉ、ルトル。これ結構高度な魔法陣組まないと出来ないぞ? それどうすんだよ。流石にその道のプロじゃねぇと厳しいと思うぞ」
シンクが助け舟を出してくれ、僕も思い切り首を縦に振る。
「衣装はうちの方で用意出来るのだが…魔法陣がなぁ…立花先生、どうにかなりませんか?」
ルトルが、担任であるカヅキおばさんに助けを求める。
僕らの様子を傍観していたおばさんだったが、ニヤリと笑った。
「どうにかしてやろう。私はこのクラスの担任だからな」
「おばさん?!」
僕がそう叫んだ瞬間、出席簿が僕目掛けて投げられる。
それをキャッチし、おばさんの方を見ると睨まれてしまった。
「立花先生だ、グンジョウ」
「今僕にとっては死活問題なんですよ、立花先生?!」
普通の女装は、まぁ、一年の頃に白雪姫やったから何とか耐えようと思えば耐えられる。
だが、体が本当に女になってしまったら、ユエと顔合わせられないんだが?!
嫌だよ、女になった僕を恋人に見られるの!!
「ユエなら、アオ可愛いー、とか言うだろうよ」
「思考読むな立花卿!! 見られたくないから言ってんだろうが!! 百歩譲ってやるのは良い、僕は絶対裏方だからなルトル!!」
えー、と彼女は不満の声を上げるが、僕は絶対裏方が良いと言い続ける。
「王子が民の願いを聞き入れんとは…王妃殿下が聞いたら、嘆かわしいとか言いそうだな。今回の学園祭、お前の両親も来るらしいぞグンジョウ。お陰で私の仕事が増えた。親に自分が立派にやっている所、見せたいとは思わんのか?」
「尚更見せたくないんですけどぉっ?!」
叫び過ぎて、僕はゲホゲホと咳をした。
そんな僕を見てか、カヅキおばさんは立ち上がり教室を出ていく。
何処に行ったかと思えば、同じく今のこの時間、学園祭の出し物について話をしているだろうはずの、隣のクラスにいるユエを連れてきやがった。
「あの、事情は聞いたんだけど…なんで私連れてきたのママ…アオを説得しろって事なんだろうけど、嫌がってるアオに無理強いするのは…」
「グンジョウが女になった姿見たくないか、ユエ?」
おばさんの甘言にユエはグッと黙り、僕をチラリと見る。
嫌だと目線で訴えるが、彼女は少し目を逸らしながら言った。
「アオが女の子になった姿…ちょっと見てみたいかな…」
「だったら、ユエのとこと今年も合同でやろうじゃないか? なぁ、ルトル? それなら僕も表に出て接客してやるよ。ついでにユエも出ろよ? 君も男になって接客すると良いさ」
多分今の僕の顔には青筋が浮いている事だろう。
ニコリと笑みながら言うと、ユエがマズいという顔をする。
今更意見など覆す事など出来ず、ユエのクラスの委員と話し合って、合同男女逆転喫茶と決まった。
◆◆◆
「アオが口聞いてくれない…」
あれから一日経ち、アビドボルの領地に行く事になった車の中。
寮に迎えが来て、それに乗り込み向かっている最中だったのだが、ユエが涙目になりながらシャナに訴えていた。
「あー…うーん。グンジョウの気持ちもわかるし、ユエちゃんの気持ちも分かるよ? でも…うーん…」
「今回はカヅキおばさんが悪いだろ。生徒主体でやらせるなら、あれは無理難題過ぎた。ルトルもそれが分かっていたから、カヅキおばさんに助力を求めたんだ。おばさんがノーと言えば、現実にはならなかったはずだぜ? 本当おばさんの悪い癖。子供の味方なのと、愉快主義者なとこ」
あとはユエがそう言わなければ、ルトルが更に助長する事もなかったんだろうけどね。
僕は少しイラついて、あの時間から一切ユエとは喋っていない。
今もガン無視で本を読んでいる。