「シャナちゃんへの呼び名、何個あるの?」
「それ今聞く事?」
現場検証が終わるまで僕らはこの場から離れる事が出来ず、兵達が動く様を眺めている他ない。
おばさんに連絡する前、いつからこの事態になっていたのかと調べた。
アビドボル卿も溶けてしまったみたいだったが、日記を付けていたようで、申し訳ないと思いつつ中を見てみる。
これは謀叛である。
陛下を裏切るなど、本来なら腹を切り、首を捧げて詫びねばならぬ事態である。
私の首だけで済めば良いが、そうもいかぬであろう。
ベルナールも、私と同じ事になっていると、シャナ姫殿下に似た娘に言われた。
私は、自分の娘が可愛い。
あの子は遅くに出来た宝である。
それを人質に取られ、言う事を聞かざるを得ない。
もしこの日記が、殿下か陛下に見られるような事があったのなら、私の命だけでどうか、許していただけないだろうか。
そう書いてあった。
どうやら、魔王が復活して暫く経った頃、あの魔王になったシャナと桃華に、ロゼッタ嬢を人質に取られたようだった。
娘を解放してもらう為に、色々と僕ら王家に隠れてやっていたらしい。
また21貴族の一家が、取り潰しになった上に称号へ置き換わるのかと思うと、ため息しか出てこなかった。
「だって、気になったんだもん…」
「教えてあげなよ、グンジョウ」
ペットボトルに入った水片手に、シャナがこちらに来る。
喉が乾いたからと、食堂を漁ってきたらしい。
「勝手に動いたらおばさんに怒られるぞ、お前」
「ちゃんと許可取りましたー。危ないからってツルギ君と一緒に行ったし。話はぐらかすなよー」
えいえい、とシャナは僕の胸を小突いてくる。
若干鬱陶しかったので、姉の手首を掴んでやめさせた。
「はぐらかしてねぇだろ。はぁ……シャナの呼び名、だっけ? まず基本的には名前呼び。姉だけど、僕の半身だからね。あとは精神弱った時には姉上。公式の場とか畏まる時には、姉君。で…小さい時は、姉さんって呼んでた」
「たまに姉さんって呼んでくれるよねー。そのたまにが嬉しいんだよな、お姉ちゃんは」
うんうんと頷く姉に対し、少し気恥ずかしさを覚えた僕は、姉の手を離して額にデコピンする。
いたぁっ! と自分の額を押さえ、シャナは涙目になりながら僕を睨んだ。
「何すんのさグンジョー」
「ただの照れ隠し」
照れ隠しでやるんじゃないと怒られるが、それ以外何があるというのか。
「シンクは?」
「ユタカとカヅキおばさんと一緒に、現場検証立ち会ってる。実姉が相手だったし、説明しなきゃいけないとでも思ったんじゃない? シャナそれ飲ませて」
姉の手にあるペットボトルを指差すと、はい、とシャナは僕に渡してくる。
キャップを外して水を飲むと、ユエとツルギから微妙そうな顔を向けられた。
「? どうかしたの?」
「間接キスとか思ってんだろ。姉弟だっつの。確かに僕ら、普通の姉弟からしたら仲良い方だけどさ。姉を女として見れるかって言われたら見れないっての。気持ち悪い」
あたしも、とシャナは苦笑いを浮かべる。
それでもお互いの恋人は納得してないようで、ツルギはシャナを抱きしめ、ユエは僕に抱きついてきた。
嫉妬されてんのかな、これ…。
シャナも仕方ないなと笑っているし。
「戻ったぞー、と…何やってんのお前ら」
「うーん…なんて言ったらいいか…」
シンクがユタカと共に現れる。
どうやら、おばさんへ説明等が終わったようだった。
「おばさんが宿に戻っとけって。後の事後処理はこっちでやっとくってよ。グンジョウ、レポート提出しっかりやれって、おばさんからの伝言」
「それはわかってるよ…」
シンクの言葉に、僕はため息をつく。
とりあえず取っていたホテルの部屋へ向かい、僕はソファーに倒れ込んだ。
「グンジョウ、せめて着替えてからやれよ。土とか砂とか付きまくってんだから。ザリザリすんだろ」
「分かってるけど、疲れてもう無理。ベッドじゃねぇんだから良いだろ…」
良くない、とシンクに無理やり立たされる。
そして肩に担がれた。
僕より力無いくせに、よく持ち上げられるもんだ。
あれか?
筋力強化してんのか、こいつ?
「シャナ悪い、先風呂借りるわ」
「大丈夫。ここ掃除しとくね。グンジョウよろしく、シンク」
そのまま僕は浴室に連行される。
途中、ユエが私もと言っているのを、ユタカが必死になって止めていた。
男二人で風呂に入る。
何の情緒もねぇな、なんて感想を抱いた。
「悪かったな、グンジョウ。俺の世界のシャナが迷惑かけてよ」
浴室の天井を見上げているとそう言われたので、僕は見上げたまま返事をする。
「別に。迷惑とか思ってないよ。それに、あれはお前の姉じゃない。姉の皮を被った魔王だろ。でもさ、シンク。暫定的だけど、魔王の居場所わかったんじゃないかな」
天井から、シンクの方に顔を向ける。
眼鏡をつけていないから、弟の顔がぼんやりとしかわからなかったが、首を傾げたのがその動作から分かった。