ユーリおじさんは何も言わなかったが、ユエに何かしたら殺すと圧を感じた。
「あの、なんでツェリなんですか…? 確かに、お祖母様から、高評価をもらったと言っていましたが…」
「そうだな。師匠からの高得点とお前と同い年で幼等部からの付き合い。ユエよりは断然、お前の事をわかっているだろう。ハインリヒ家の令嬢だから、教養もある。ユエが潰れた場合、次の候補は彼女だ。わかっているのか、ユエ? お前が歩もうとしているのは、そういう茨の道だぞ。あぁ、ナツキを参考にするな。お嬢様は前世から完璧な人だったからな」
カヅキおばさんが、僕の後方を見て言う。
振り向くと、少し衣服が乱れたユエが立っていた。
え、何があったのそれ…?
僕何もしてませんけど?!
ユーリおじさんの眼光が鋭くなった気がしたので、僕は首を思い切り横に振る。
「な、何もしてませんよ?!」
「パパ、アオを睨まないで。ユタカと本気の喧嘩してきただけだから。ママ、王妃様。茨の道だとわかっている上で、私はアオと共に歩むと決めました。血反吐を吐いたとて、私は彼を諦めるつもりはありません。どんな責苦でも耐えてみせます。ですので、ご指導ご鞭撻の程、よろしくお願いいたします」
そう言い、ユエはカーテシーをし頭を下げた。
「じゃあ、今日から一緒に住む?」
「気が早すぎるぞ、ナツキ。まだグンジョウにはユタカという専属護衛がいるが、ユエがグンジョウの婚約者になるなら、こいつにも親衛隊から誰か出さねばならん。それの選別が終わるまで、一緒に住むなんて事、許すわけないだろうが」
一緒に住めば付きっきりで教えてあげられるのに、なんて母様は言う。
僕は父様を見た。
母様と婚姻を交わす時も、こんな大事になっていたのだろうかと思ったのだ。
「シャルの場合はな…元々専属護衛だった上に、一緒に寮に住んでいたから、流石にここまでではなかったぞ。まぁ、夫婦の形なんて人それぞれだろう。なぁ、ユーリ」
「そうだね。まぁ、グンジョウ君。他の女性に現を抜かしたら…どうなるかわかっているね?」
チラ、とユーリおじさんは自分の刀の鞘に手をかける。
僕は思い切り首を縦に振った。
◆◆◆
流石に今日はもう遅いからという理由で、ユエはここに残される事になった。
ユタカがおばさん達と帰る時に見送りに行ったが、ユタカはユエを睨みつけ声に出さず、
(絶対に諦めないからね)
と言って帰っていった。
「はぁー…」
僕はベッドに横たわり、深いため息をつく。
ユエと恋人になれたのはとても幸せな事だが、彼女に重荷を背負わせてしまったかもしれない。
それも耐えてみせる、と彼女は言ったが、ユエの人生には余計なものだろう。
それでも、彼女を離してあげられない。
「ほんっ…と…僕…クズの才能…あるんじゃないかな…」
「何の話?」
扉の方からユエの声がして起き上がる。
お風呂上がりなのか、少し髪が濡れていた。
「ユエ、ノックくらいして…?」
「したけど、返事なかったから…ごめん、お邪魔した?」
僕は首を横に振り、苦笑しながらユエに手招きする。
彼女は素直に僕の所に来た。
白いワンピースタイプのネグリジェは、とてもユエに似合っている。
「ちょっとここ座ってくれる?」
僕の足の間を示すと、ユエは躊躇いなく座った。
いや、座ってってお願いしたけど、少し恥じらいってものが無いのか…いや、あんだけキスしたんだから、これくらいは恥ずかしいうちに入らないのかな。
僕は彼女を抱きしめ、肩に額を乗せる。
「アオ? どうかした?」
「ねぇ、ユエ。僕は君に余計な重荷を背負わせたんじゃないかな。君を幸せにしたいと思ったのは本当の事だけれど、そのせいで君が辛い目に遭うなんて…。ごめん。だけど、君を離してあげられそうにないんだ。君が嫌だって言っても。愛してるんだ、ユエ」
僕の気持ちを、彼女に吐露した。
それを聞いていた彼女は肩を震わせて、笑い出す。
「…なんで笑うのかな」
「全部が全部、アオが悪いわけじゃないって思って」
僕の腕の拘束を外して、ユエは立ち上がる。
そして僕の方に向き直ると、微笑んだ。
「あのね、アオ。そう決めたのは私なんだよ? 妃教育が嫌、淑女教育も嫌、アオが好きなだけなのに、なんでそんな事をしなきゃいけないの。なんて、言うつもりはないよ。前なら言ってたかもしれないけど、今はアオの責務も、アオの婚約者がどういう立ち位置なのかも、理解しているつもり。だから、あまり自分を責めないで。私も、アオの事を愛しているの。貴方と一緒に、同じ道を歩きたいから、頑張ろうと思えるんだよ?」
彼女は、僕を抱きしめてくる。
大好きだと、態度で示してくれる。
あぁ、愛しい。
僕も大好きだよ、ユエ。
「ありがとう、ユエ。辛かったらいつでも聞くから。潰れる前に言ってね?」
「うん。こっちこそありがとう、アオ」
僕らはどちらからともなく、キスを交わす。
これからよろしくね、ユエ。
僕の愛しい人。