ウンディーネ2の月。
二日に亘り開催される学園祭も、今年は僕らにとって最後のものとなる。
そんな中、僕は深いため息をついていた。
「グンジョウ、諦めなよ」
ポン、と肩に手を置かれ、シャナの方を見る。
父様そっくりになった姉は、僕を見て苦笑していた。
声も父様同様低くなっており、どちらかと言えば僕寄りの声かな、なんて思う。
衣装も、白のワイシャツに同じ色のジャボを付け、黒のスーツを着ている。
上着の袖は波打つ感じの袖で、どこかの紳士風であった。
黒の手袋を付けており、本当に男性だったのなら女性にモテているのだろうな、という端正な顔立ち。
髪の長さは調節不可らしく、いつもは左上で結い上げている髪も、下の方で結われていた。
「だってさ、シャナ…僕、自分の体違和感しかないんだよ…」
「それはあたしもだけど。三時間だけ頑張ろ? しかも一日だけで良いって、ルトル言ってたじゃん」
そうだけど…。
あと、自分の事あたしって言うと、オネエ感増すからやめて欲しい。
僕はまたため息をついて、自分の衣装を見る。
スカートを履くのは抵抗があったので、中にスパッツを履かせてもらい、黒のスリット入りのショートドレスを僕は着ていた。
首元から腕にかけて暗めな色のシースルー付きのドレスで、蝶のモチーフが着いたショートブーツを履いている。
蒼色のウィッグを付けさせられ髪が長くなっているが、首元にワンポイントで青いイミテーションの宝石がついたチョーカーをつけ、黒と薄紫の配色のヘッドドレスをつけさせられていた。
ちなみにドレスの背中は開いているし、ヘッドドレスに付けられたレースは腰まであるんだけど。
まぁ、これくらいならまだ許容範囲か、なんて自嘲気味に笑った。
衣装に縫い込むのはサイズ感の問題もある、との事で、おばさんから配られたのは、魔法陣が刻み込まれたブレスレットだった。
自分に渡された衣装を持って、更衣室でブレスレットを装着し起動して、着替えてこいと指示を受ける。
言われた通りにすると、みるみる女性の体になっていって、僕は少し目を覆いたくなった。
胸のサイズ、母様並みなんですけど、おばさん…。
学園祭が始まるまで、講師としてユーリおじさんに女性とは何たるかを、クラスの男子全員が叩き込まれたものだから、本当に嫌々ながら女性物を付けるしかなく。
「尊厳が崩されていくような感覚がするぅ…」
サイズもピッタリって何? と、更衣室で僕は顔を覆って天井を仰いだものだ。
そしてなんでユーリおじさんは、女性の事について詳しいんだよ。
貴方男性のはずでは?
普通おばさんが講師するべきでは?
元々男性だったんだから、おばさん。
「アオ、シャナちゃん、準備出来た?」
控え室件、IHクッキングヒーターで調理する場になっているユエ達のクラスへ、彼女が迎えにくる。
ユエの衣装はサイバーパンク風で、色は蛍光色の緑。
口元が隠れる物で、フードを目深に被れば彼女とは思えないくらい。
いつものユエより、背も高くなっている。
「グンジョウの化粧も終わってるよ。さーて…」
シャナが目を閉じて、深呼吸をした。
次に目を開けた時、僕の方を見て姉はニヤリと笑う。
「行こうか、グンジョウ? 兄である俺のエスコートは必要か?」
「はい、お兄様。よろしくお願いいたします」
ここもユーリおじさんの指導に入っていた部分で、そのままはよろしくないとルトルからの意見があり、女子は男性のように、男子は女性のような振る舞いを身につけさせられた。
抗議したかったが、ユーリおじさんからの圧で黙る他なく。
手を差し出してきたシャナの手を取り、僕は立ち上がった。
それに対して、ユエが若干面白くなさそうな目つきをする。
「アオは僕のなのに。シャナ君、ずるい」
「お前のである以前に、俺の妹だ。全く、うちの妹は愛らしいよな。そうは思わないか、ユエ?」
うわぁ、女性陣ノリノリだぁ…。
なんでそんなにノってるのか、僕理解出来なぁい…。
ちなみに、僕の脳内イメージはリーゼだ。
リーゼみたいに喋れば、まぁ、何とかなるだろうと思ったからである。
お淑やかさの権化みたいな子だからな、リーゼは。
二人の笑顔の応酬を見ながら、僕はまたこっそりため息をついたのだった。
◆◆◆
学園祭が始まり、オーダーを取って厨房に流す。
結構な賑わいになっており、大体はシャナ目当ての女性客と、ミステリアスな雰囲気のユエ目当ての女性客。
そして、何故かは分からないが僕目当ての男性客でごった返していた。
「お姉さん、マジ男?」
「そうなんですよー。これでもガタイがいい方なんですー」
外部客が揶揄い目的で声を掛けてくるが、僕はそれに対し、にこやかに笑って返す。
内心、じゃあお前らもなってみろや、と怒鳴りたかったが。
僕らの仕事はオーダーを取って流すだけで、配膳はしない。
一回シャナを交えてやってみたら、姉が大惨事をやらかしてくれたからだ。
いやぁ、あの時はシャナにマジで感謝したね。
このまま配膳までやっていたら、セクハラされる事間違いなしだったから。