「えー、お兄さん今だけしかいないのー?」
「えぇ。なので、お友達を呼んできても良いですよ。もっと俺とお喋りしたいんなら、ね?」
シャナが接客してる所で、黄色い声が上がる。
チラリと見た姉は、女性達にウインクのサービスをしているみたいだ。
なんだっけ、前世でいう所のホスト? ってやつ?
疑似恋愛を楽しむ場、みたいな?
うちの姉、ホストの才能あったんだなぁ…。
「……マーボー1つ、カレー1つ、ラーメン1つ。以上でいい? …あ、そう。じゃあ」
ユエは若干うんざりしてるっぽくて、口数が少なくなっている。
同じ同性から向けられる熱視線もだろうが、こういうやつは嫌だと、以前言っていたのを思い出した。
僕はユエの傍に寄り、小声で彼女を労わる。
「大丈夫、ユエ? 疲れたならもう下がる?」
「…大丈夫。アオやシャナ君が頑張ってるのに、僕だけ下がるなんて出来ないでしょ。あと何時間だよ、全く…っ!!」
チッ、と舌打ちするユエに、僕は苦笑した。
あと、ユエと話してて背中に刺さる視線は、何なんですかね?
本当の男女逆転喫茶だって、書いてあるんだけどね?
君達が嫉妬する相手、本来男なんですけど?
わかってます?
そして、ユエは僕の恋人だっつの。
「アオ?」
「…ちょっとごめん」
ユエの腕に自分の腕を絡め、抱きつく。
いつもはユエが僕の腕に抱きついてくるけれど、今は身長が逆転しているものだから、ユエはこういう感覚なんだなー、なんて思った。
ひゃー、と見ていた客からそんな声が上がり、その途端、頭をメニュー表で軽く叩かれる。
痛いと思って振り返れば、シャナだった。
「お兄様、何をなさるのですか」
「お前が何やってんだよ。ユエに熱い視線を投げるお嬢さん方に嫉妬するのは良いけど、仕事しろ仕事」
自分の肩をメニュー表で軽く叩きながら、シャナが呆れた目を僕に向ける。
はぁい、と僕は若干拗ねるが、その顔を見たユエがすかさずポケットから携帯を取り出し、写真を撮ってきた。
「ユエ…?」
「アオの拗ねてる顔、可愛い…っ!! 流石僕の恋人…っ!! 好き…っ!!」
それ後で消すよう言わないとな、なんて考えてたら、入り口付近が騒がしくなる。
何だと思ってそちらを見れば、父様を伴った母様が僕に向けて手を振っていた。
「ひぇ…っ!!」
僕は思わず情けない声を上げる。
せめて、シンクが接客してる時に来てくれないだろうか、と思ってしまった。
「あら、貴女もあたしの可愛い子なのだから、見に来るのは当然でしょう?」
「読まないでよお母様!! じゃなくてぇえ!!」
あわわわとなっている僕を見て、母様はクスクス笑う。
父様も、僕やシャナ、ユエを観察して感心した顔をしてきた。
「成程…シャルそっくりだな、グンジョウ。シャナは俺に似てる。流石俺達の子だな、シャル」
「えぇ、そうねあなた。ユエちゃん、お顔見えないけど…多分カヅキそっくりでしょうね?」
ニコリとユエに微笑む母様。
圧をかけるなと言おうとしたのだが、その前にユエがフードを取った。
そのまま、口元を晒すようにジッパーを引き下げる。
「…これで良いでしょうか、王妃様」
「まぁ! 生前のカヅキそっくり! うふふ、良いもの見れたわ。ありがとう、ユエちゃん」
生前のおばさん? と少し疑問を覚えた僕は、ユエの正面に行き顔を見た。
姉には劣るが端正な顔立ちに、僕は少しドキリとしてしまう。
そういえば、おばさんが注意事項で言ってたっけ。
短時間だから良いものの、長時間変身を続けていたら、その体に心が引っ張られるって。
だから、自分の番が終わり次第ブレスレットは返却するように、との事だった。
やばい、相手がユエだからかもしれないけど、めっちゃ格好良い…。
心臓が高鳴りすぎてやばい。
好きだって気持ちが溢れてしまう。
父様と母様がいるっていうのに、僕は彼女の顔をぼーっとしながら見上げてしまった。
「アオ? 大丈夫?」
「…っ! だ、大丈夫、大丈夫だか、ら…」
多分今の僕の顔は、真っ赤になっている事だろう。
口元に手を当て、顔を背ける僕を見たシャナが肩を竦めた。
「ったく…グンジョウ、ユエ。この後の俺の校内練り歩きに付き合え。それでチャラにしてやる。母様、父様、なんか食べてく?」
しっしっ、とシャナが手を振ってくる。
その意図に気付いたのか、ユエが僕を横抱きにして転移した。
転移した先は空き教室で、彼女は僕を椅子に座らせてくる。
「ユ、ユエ、戻んないと…」
「アオをそのまんまの状態で戻せるわけないでしょ。どうしたの、一体?」
顔を晒した状態のユエに問われ、僕はまた顔が赤くなり、彼女から目を背けた。
「……ごめん。今のユエ、格好良いって思っちゃってて……格好良すぎて、直視出来ない…んだ…。ちょっと、引っ張られてきてる、のかな…」
「…僕も、アオが可愛いって思ってるよ。成程、男の方のアオは、いつもこんな気持ちなんだね?」
ユエが覆い被さってきて、僕の耳元で囁く。
ビクッと肩が跳ね、少し涙が出てきた僕は、彼女を見上げた。