そしてそのまま、彼女からキスをされる。
僕がいつもユエにしているみたいな、甘く蕩けるようなキスに、頭がぼんやりとしてくるような感覚を覚えた。
「…やば、ダメだ…アオ、時間早いけど、ブレスレット外そ?」
ユエが唇を離し、僕にそう言う。
これ以上したら、僕を押し倒して襲いかねないと、彼女は思ったのだろう。
いつも僕はその気持ちを抱えて我慢しているのだから、少しは理解してくれただろうか?
でも、名残惜しいと思ってしまったので…ユエがいつも言っているセリフを吐いてみた。
「ユエが良いなら、いいよ…?」
「っ! アオ?! 今女の子なんだから、そんな事言っちゃダメ!!」
いつも君が誘惑してくるの、真似しただけなんだけどな。
でも耐えてくれてありがたい。
「ユエ? 僕の気持ちわかった?」
「わかった…充分にわかった…だからそんな可愛い顔しないで…アオ、よく耐えれてるね…私、あともう一回やられたら襲う自信しかない…!」
うん、僕もそういう時あるから、本当理解深まって良かったねユエ。
◆◆◆
更衣室に行って、全て脱いでからブレスレットを外す。
元の自分の体に戻り、もともと自分が着ていた服などを持ってシャワー室に入った。
少し頭を冷やし、化粧を落としてから、ユエとの待ち合わせ場所に行く。
「お姉さん一人? 俺らとお茶しない?」
「彼氏待ってんの? まだ来ないじゃん。サイテーその彼氏。俺らの方が良い男だからさぁ、その間俺らと遊ぼうよ」
典型的なナンパ野郎どもに、ユエが声をかけられていた。
僕の彼女に何声かけてんだよ、とキレそうになっていたら、ユエが口を開く。
「鬱陶しい。邪魔。その煩い口を閉じろ。私の彼氏が、お前らより劣るわけないだろ。お前らと遊ぶ義理なんてない、失せろ」
凛とした月光のように冷たく響く彼女の言葉で、僕は少し固まった。
あんな声出すんだ、ユエ。
怖いしそれを向けられたら、僕泣くかもしれない。
「なっ、このアマ…っ!」
激昂した一人が、ユエに殴りかかった。
だが、ユエは素早くその腕を掴み、後ろへ捻り上げる。
もう一人がユエを拘束しようと動くが、腕を掴んでいた男を押すようにして体勢を低くし、顎に踵を叩き込んだ。
腕を掴んでいた男はユエからの圧迫に体勢を崩し、そのまま床へ顔面ごと倒れた。
見回りをしていた先生達が何事かと寄ってきたので、僕は彼女に近付きつつ、先生方に説明をする。
「アオ、遅い」
先生方がナンパ野郎どもを連れて行った後、ユエがムッとしながら僕を見上げつつ言う。
「ごめん、色々鎮めるのに時間かかって…それより、見事だったよ。流石僕の元専属護衛で、恋人の君だね」
ユエの肩を抱き、頭にキスを落とした。
瞬間、僕の背中に衝撃が来て、僕は前のめりになる。
後ろを振り返ると、腕を組んで仁王立ちしている、不機嫌そうなシャナが立っていた。
「グンジョウ、約束忘れてないよね?」
「わかってます、すみませんでした姉君! 僕らの穴埋めしてくれてありがとうございました!!」
よし、とシャナは頷き、手を差し出してくる。
僕は姉の手に、自分が使ってたブレスレットを乗せた。
ユエも自分のをシャナに渡す。
今度はシンク達の番なので、弟達に渡さなければならない為だった。
「シンク達んとこ行くよ」
「はい、何処へなりともお供させていただきます!!」
ユエが呆れた目でこちらを見てくるが、怒らせたシャナはとても怖いんだよ。
いつも優しいし、ボンヤリしてるし、アホの子だけど、キレたら流石の僕でも太刀打ち出来ないんだから。
「誰がアホの子だ」
「すみません、姉君…」
ギロリとシャナから睨まれ、僕は素直に謝る。
姉について控え室に行くと、早めの昼食を取っている三人がいた。
「よ、グンジョウ。客どうだった?」
「…ノーコメント」
椅子に座り、手を挙げて感想を聞いてくるシンクに、僕は首を横に振る。
それどころじゃなかったのだから。
あのままでも良かった、なんて思ってしまうなんてどうかしている。
僕の様子が少しおかしくて、シンクは僕からシャナに顔を向けた。
「何あったの?」
弟は僕に指を差し、シャナに尋ねる。
「ユエちゃんの顔が格好良過ぎて、グンジョウが女に落ちた」
「シャナぁっ?! ちょっ、言い方もうちょっとオブラートに包んでくんない?! ねぇ、ちょっと姉さんっ?! 聞いてる?!」
シャナの肩を掴み、軽く揺さぶった。
姉の言葉を聞き、弟が引いた顔をする。
そんな目で僕を見るな!!
「ユエ、体とかどうだった?」
「ん? 少し背が伸びたくらいであんまり体格変わんなかったかな。胸は無くなったけど、多分今これ起動しても、制服破れないと思う」
ユタカからの問いに、ユエはシャナからブレスレットをもらって起動する。
またあの姿になったのだが、今度は顔を見てもドキリともせず、普通に見られた。
やっぱり、心が女性の体に引っ張られた結果かと、少しだけ安堵する。
「アオ、恰好良い?」
「うん、普通に顔が良いねユエ」
僕の反応に、ユエもちょっと安心したような表情を浮かべた。