「軽すぎ」
「ちょ、アオ?! 人の目あるから降ろして?! あとシャナちゃんどんどん先行っちゃってるから、見失うよ?!」
それはまずい。
僕はユエを片腕に乗せて、シャナの後を追う。
降ろせと言っていた彼女だったが、僕が一向に自分を降ろさないので、諦めたように大人しくなった。
シャナが自分達のクラスの出し物に行こうと言うので、校内に戻る。
その際にユエを降ろしたが、馬鹿、と一言だけ罵られた。
僕らのクラスの出し物である、男女逆転喫茶に行くと、三人が教室の中にいたのだが。
「やだー! お兄さん面白ーい! それ、あたしにも教えてくれるんですかぁ? きゃー! 嬉しー!」
なんて、ノリノリで接客しているシンクの姿が目に入った。
ゴスロリっぽい服に赤の差し色が入った物で、ウィッグの筈の髪は二つ結いにしてあり、大きなリボンがつけられている。
「マーブルケーキと、ショートケーキ…ご一緒に紅茶もいかがですか、レディ? 当店のお勧めは、アールグレイとなっております」
対してユタカは、長い髪を片側に結って流し、赤色の軍服っぽいものを着て接客していた。
さながら僕より王子様だなとか思ってしまう。
さてツルギはと彼の方を見れば、和服美人がそこにいた。
長い黒髪、蓮の花なのか分からないが、色んな花が青緑色の着物を彩っている。
ハーフアップにした髪には、シャナの色である金のリボンが飾られていた。
「うわ…」
僕が思わず声を上げると、ユエが結構力強く僕の腕を叩いてくる。
痛くて彼女の方を見れば、凄くムッとした顔をして僕を睨んでいた。
どうやら、僕がツルギに見惚れていたのが気に食わないらしい。
「ユエ、相手ツルギだぞ。そんな嫉妬する事ないじゃん」
「嫉妬なんかしてないもん」
プイッと彼女は顔を背ける。
姉の方を見れば、ツルギの方を見て凄くニコニコしていた。
自分の彼氏美人、とか思ってそうだな、この姉。
僕らが席に着くと、ツルギが注文をとりに来た。
「ツルギ君、美人、綺麗、素敵!」
「あ、ありがとう…シャナのも、見てたけど…格好良かった、よ? 殿下の気持ち、少しわかったと、言いますか…」
少し顔を赤らめ、ツルギは目を逸らす。
多分、午前の部の時に盗み見に来たシャナの姿を思い出しているのだろう。
ユエはそれを、僕を見て頬を染めていると勘違いしているみたいだが。
「アオは渡さないよ、ツルギ」
「…? いらない、けど? 私は、シャナが良いので、あって。別に、殿下は……格好良いとは、思うけど…男になった、シャナほどでは、ないかと…」
確かに、男になったシャナは父様そっくりの美男子で、午前の部に来ていた女性から黄色い声が上がっていた。
「は? アオが格好良くないと?」
「ユエ、喧嘩腰にならない。君お腹すいてるでしょ、確実に。ツルギ、マロンケーキのセットと、ショートケーキのセット、あと抹茶ケーキのセットで。飲み物はユエに紅茶、シャナにはいちごミルク、僕は抹茶で」
畏まりました、とツルギは注文をとって離れていく。
数分もしないうちにセットが届いて、僕らはそれを食べ始めた。
「アオ、ケーキ食べられるの?」
「この抹茶ケーキ、甘くないんだよね。ほろ苦なんだ。食べる?」
マロンケーキを食べて機嫌が治ったのか、ユエが抹茶ケーキと僕を交互に見る。
メニューを決める時に、ルトルが僕に聞いてきたときの事を、ふと思い出した。
「グンジョウ君、君甘い物好きかね?」
「え、嫌い、無理、食べれない。ほろ苦いチョコとか、調味料で使われるくらいなら食べれるけど。それが何? というか、毎年のやつ、君見てるはずだよね?」
と、僕が返答した事により、ルトル達が味見しまくってほろ苦な抹茶ケーキなら僕でも食えるだろうと、試作品を一口食べさせられた。
確かに食えた。
吐き出さずに美味しく食べられた。
むしろこのレシピ教えてくれないかと、逆に聞いてしまったくらいだ。
「食べる!」
「はい、あーん」
ユエが口を開けた中に、ケーキを入れる。
フォークを引き抜き、彼女の反応を見た。
ちょっと眉を寄せ、苦い、と一言呟く。
「僕にはちょうど良いんだけどね」
間接キスにはなるが、ユエの口に入れたフォークでケーキを切り、食べた。
「シャナ食べる?」
「いらん。苦味系は好きじゃない」
ケーキを一口大に切り、それにフォークを刺してシャナに向ける。
だが姉は嫌だと言うので、普通に食べた。
美味しいんだけどなぁ…。
「お兄様、お姉様、楽しんでますー?」
「お前…ノリノリだな…食べる?」
ニコニコしながらシンクがこちらに来たので、僕は弟に向けてフォークに刺したケーキを差し出す。
シンクは素直に僕が差し出したケーキを食べたが、すぐにユエと同じ顔になった。
「にっが…! なんで平気な顔して食えてんの、お前…っ?!」
「お前が甘党派なだけだろ。僕以外にも頼んでる奴いるし」
思わず素になって抗議してくるシンクに対し、僕は同じメニューを頼んでる客の方をチラリと見る。
普通に食ってるから、僕がおかしいわけではない。