「殿下、私にも一口いただけないでしょうか?」
「ユタカ?! あんた、明日シンクと一緒に食ベに来ればいいじゃん!!」
シンクの隣に並び、ニコリと笑むユタカへユエが噛み付いた。
「そんなにガミガミ言わないでくれないかな、ユエ。ただの味見だよ。シンクが苦いって言うくらいだから、どれくらいかと気になっただけ。間接キス云々気にするなら、ユエのフォーク使えばいいでしょう?」
ユタカの言い分も尤もなので、僕はユエに許可を取って彼女のフォークを使い、ユタカにケーキを差し出す。
彼女はそれを一口食べ、確かに苦いね、と笑った。
「そこまで眉を寄せるものでもないから、シンクとユエが甘党なだけだね。苦いけど美味しいよ?」
「だよねぇ?」
ユタカに同意を得られて、少し嬉しい。
ケーキを食べ終え、会計を済ませて三人で出る。
次はどこ行こうか、という話になり、シャナがあそこに行きたいと言った場所に来たわけなのだが。
「シャナさ…怖いのに来たがるよね。馬鹿なの?」
看板にお化け屋敷と書かれたものを見ながら、僕はシャナを馬鹿にする。
「だっ、だって! ツルギ君とは来れないじゃん?! 下手したら、手握り潰しちゃうかもしれないし!!」
そうだね。
普段は別にそんな怪力じゃないけど、驚いたり怖がったりすると、魔力が軽く暴走状態になって、力加減見誤るんだよね。
それで僕、何回手の骨折られた事か。
「シャナちゃん…? 今度アオの骨折ったら許さないからね…?」
「ユエ。慣れたから。すぐ治してくれるし、それがシャナだろ? ほら行くぞ」
シャナに圧をかけるユエを止め、彼女の手を握り、姉の背に手を添えて中に入場する。
空間拡張魔法で広くしてあるのか、教室の一室のはずなのに通路が広く作られていた。
廃坑をイメージしてあるのか中は薄暗く、まっすぐに通路が続いている。
「ユエ、怖かったら目を閉じてて良いからね。ほら、シャナ。お前が入りたいって言ったんだから行くぞ」
シャナの背を押し、ユエには僕の腕に抱き付かせて歩く。
色んなギミックやお化け役が脅かしてくるが、僕は普通にそれらを観察した。
へー、人が通ったら感知して物が飛び出してくるギミックかぁ…。
感知機器は…あそこか。
結構ハイテクな物使ってるんだなぁ。
隣で姉は叫びまくり、ユエは僕の腕に抱きついて声も上げず俯いている。
掛かる腕の圧迫が凄いから、めっちゃ怖がってるんだなとは分かるけど。
「ぎょぇぇえぇあぁぁぁっ?!」
「どんな叫び声だよお前…女性が出しちゃいけないやつだと思うぞ、それ…」
逆さ吊りの脅かし役が出てきた瞬間、シャナがそんな叫び声を上げ、座り込んだ。
僕が呆れつつシャナに言うと、姉は涙目になりながら空笑いを浮かべる。
「グ、グンジョウ、ごめん…腰抜けた…」
「だと思ったよ、この馬鹿姉。全く…ユエごめん。ちょっと離れてくれる?」
ユエは無言で僕の腕を離してくれた。
シャナを抱き上げ、片手で支える。
姉は僕の首に腕を回して抱きついてきた。
「ユエ、行こう。腕に捕まって。シャナ、今度はツルギと来い。この姿、あいつに見られてみろ。絶対誤解されるぞ」
いつも、姉弟だからそんな関係にはならない、とツルギには言っているのだが、いまいち信用してもらえていない気がする。
介護と同じ感じで姉の世話を焼いているだけなんだけど、なんか、僕が姉に禁断の恋を抱いている、みたいに見られる時があるんだよな。
「気持ち悪ぃ…」
そんな事は断じてない。
神に誓っても良い。
姉にそんな情欲を抱いた事は、一切ない。
むしろ今、僕の腕に抱きついているユエを押し倒したいと、常々考えているというのに。
「アオ、大丈夫?」
「ん? うん、大丈夫だよユエ。心配しないで……ユエ? 別に首絞まってて気持ち悪いって言ったわけじゃないからね?」
シャナを抱き抱えている僕を見て、ユエの眼光が鋭くなる。
「わかってる。シャナちゃん?」
「ごめんユエちゃん…出てちょっとしたら回復するはずだから…今だけは見逃してぇぇ…」
情けない声を上げて、ユエの詰問に謝罪するシャナ。
そこは自分の場所だと言いたいみたいだが、人前ですると怒るのにね君。
お化け屋敷から出て、僕はシャナを運搬する。
控え室になっている教室へ戻ると、ちょうど出ようとしていたツルギと鉢合わせた。
「殿下…シャナは…」
「ツルギ悪い、受け取ってくんない? 怖がりのくせにお化け屋敷入るって聞かなくて。途中で腰抜かしたから、ここまで抱っこして連れてきたんだよ。シャナ、腕離せ。ツルギに渡すから」
姉は素直に腕を離す。
そのままシャナを降ろすと、ツルギが姉を抱き抱えた。
「ごめん、グンジョウ、ユエちゃん…」
「謝るのは良いけど、ツルギの誤解解いといて。学園祭終わるまであと何時間だ…? ユエ行こうか」
ユエの手を引き、控室を後にする。
数室見て回った後、この日の学園祭は終了となった。
◆◆◆
「ユエ、ごめん。ご飯何か恵んでくれない?」
彼女の部屋に行き、出て来たユエに両手を合わせて頭を下げる。