「あとは、毎日私とお風呂入って、朝に髪を結ってくんないと許さない」
「それ、おばさん許してくれるかなぁ…」
髪を結うのはともかく。
ユエの体から魔力波が立ち上り、僕はまた頭を下げた。
「すみません、やります…」
「よろしい」
多分今日からだよなぁ…理性保つかなぁ、僕。
◆◆◆
午前の部が終わり、午後の部が開始される。
僕とユエはブレスレットをつけたまま、制服を着てデートしていた。
僕のウィッグはそのままで。
背は伸びたが、少し小柄なユエは僕の制服に袖を通して、ブカブカだと笑っていた。
ちなみに、僕はシャナの制服を借りている。
ユエのだと、僕の胸が大きすぎて入らなかったからだ。
「いや、なんでお前ら外さねぇの?」
午後の部が始まる前、ブレスレットを外さずにいる僕らを見て、シンクは疑問の声を上げた。
なんで? と弟が僕へ尋ねてきたので、事情を耳打ちする。
マジか、という顔をされ、僕は諦めた笑いをした。
「グンジョウ、なんかごめんね…」
シャナが自分の制服を差し出しながら謝ってきたので、これも試練だと思う事にするよ、と返答する。
慰めてくれるように、僕の姉弟は頭を撫でてくれた。
「ユエ…絶対、ママ許さないと思うよ? あとパパ。あの2人説得できるの?」
「アオが悪いんだから、アオが説得すればいいの!」
多分僕の思考を読み取ったか、シンクの思考が流れ込んできたのか。
ユタカは呆れた目で自分の妹を見る。
説得かぁ…殺されるんじゃないかな、僕。
いや、婚約破棄されるに一票…。
ブレスレットつけてる状態なら、一緒にお風呂入っても許してくれないかな…。
無理か。
「…一体何事、だ?」
「ツルギ君は気にしなくていいからね」
僕らの様子に、ツルギが首を傾げる。
彼にまで知られたらややこしい事になるからと、シャナはにこやかに話題を逸らそうとしていた。
懸命な判断、流石姉君。
大体シャナが原因だけどね!
「ほら、アオ。行こ」
ユエが僕に手を差し出してくる。
彼女…今は彼だけど、その手を取った。
そして校内を練り歩いているわけなのだが…。
「あんな美人いたっけ、うちの学校に?」
「いや、一学年千人規模だからわかんねぇな…」
「蒼髪って事は、王族の人?」
「でもあのリボンの色、三学年だろ? 蒼髪の美人なんていなかったはずだぞ? 男はいるけど」
そんな声が聞こえて、僕は少し居た堪れなくなる。
蒼髪は王族にしかおらず、その中でも母様、僕、シンク、妹のリーゼ、弟のラゼッタだけに発現していた。
あとは父様譲りの金髪。
まさか擬似性転換のブレスレットつけてる男でーす、なんて言えるわけもなく、僕はユエの腕に抱きついて俯いた。
「アオ、大丈夫?」
「うぅ…恥ずかしい、居た堪れない…でも、罪滅ぼしだから、耐えてみせる…っ!!」
スパッツを履く事もダメと言われたので、スースーして落ち着かない。
しかも女性物を身につけている状態なので、これで男に戻ろうものなら僕、変態王子ってあだ名で一生呼ばれる事になるんじゃないだろうか。
あ゛あ゛あ゛ぁ!! と脳内で頭を抱えていると、ユエが軽くため息をついた。
「そんな事気にしてたらキリなくない? 今は私とデートしてるんだから、そっちに集中してくれないかなアオ」
「……まぁ、そうだね…うん…僕も女の子になったつもりで楽しむよ…」
目を閉じて、少し深呼吸をする。
僕は女の子、僕は女の子と言い聞かせていると、目の前から見知った声がした。
「あれ、グンジョウじゃん。何その格好? 自分のクラスの宣伝?」
「…アラスター…ナチュラルに、僕って見破るのやめろよ…」
友人のアラスターが、ニヤケ顔で僕に手を振っている。
「だって、眼鏡かけてる蒼髪なんてグンジョウ以外いなくね? その長髪なに? ウィッグ? ルトル嬢もやるねぇ。あの堅物のグンジョウに、女装させるなんて」
「は…はは…」
女装じゃなくて、今本当に女になってるんだけどな、僕!!
背も縮んでるんだけど、そこは気づかないのかお前?!
それか気づかないふりでもしてくれてるのか?!
苦笑いを浮かべつつ笑うと、アラスターは不思議そうな顔をしてチラリとユエを見、そして僕の方を見た。
「クラスの宣伝にしちゃあ、仲睦まじそうに歩いてんねぇ…デート? あ、俺、邪魔しちゃったかなー?」
「そう邪魔してるんだよ、ミラー君。アオとデートしてるんだ、気を遣ってくれても良いんじゃないかな?」
ユエが僕を後ろから抱きしめ、頭に頬をつけてくる。
いつもの意趣返しのつもりなのかな、ユエ…。
確かに人前だと恥ずかしいね、これ!!
ユエがどんな表情をしているか、抱きしめられている状態なのでわからない。
だが、アラスターのそのニヤケ顔が引き攣り笑いになるくらいだったので、物凄い覇気を出しているのだろうなとは察しがついた。
「ご、ごめんって、ユエ嬢。そんなに睨むなよぅ。学園祭の中のデートスポットって、大体甘いやつ付きだからグンジョウ嫌だしなぁ…食える物限定されると辛いなぁ、グンジョウ…」
同情的な目を向けてくる友人に、僕は肩を竦める。