「まぁ…僕はユエと一緒に歩ければ、別に入らなくても良いんだけど…」
「あ、そうだ。一個だけ地味だけど良いのがあったわ。フォトショップやってる教室があってな。ルトル嬢の妹のクラスのやつで。色んな貸衣装着て、写真取れるってやつ」
それを聞いた瞬間、ユエが僕の手を引き歩き始めた。
「アラスター、悪い! この埋め合わせは後で!! ちょっと、ユエ?! それ撮るんだったら僕、男に戻りたいんだけど?!」
今は女性なのに、男性に戻りたいなんて大声で言えなくて、僕は小声でユエに言う。
それなら僕とユエのウェディングフォトとか、ユエに着物着てもらって和装でのフォトとか撮りたいんだけど?!
しかしユエは低い声で、
「それは城でも撮れるでしょ。アオが女の子になってるのは、今しかないんだから」
と言った。
それはそうだけど、おばさんにブレスレット借りれば城でも撮れるはずなんだけどなぁ…。
なんて、今のユエに反論は出来ない。
罪滅ぼしで、僕はこの姿でいるんだから。
頑張れよー、なんてアラスターは歩き去る僕らに手を振る。
もうどうにでもしてくれ…。
僕は片手で顔を覆いながら、大きくため息をついたのだった。
◆◆◆
ユエに連れて来られたフォトショップで、僕は様々な衣装を着て撮影されていた。
さながら着せ替え人形だな、なんて感想を抱く。
「はーい、目線こっちにくださーい!」
カメラマン役の生徒の声で、僕はそっちに目を向ける。
カメラマンの背後には腕を組み、私の彼氏可愛いと、うんうん頷いて満足そうなユエがいた。
そこの位置、僕がいたかったなぁ…。
ショートドレス、ロングドレス、ロリータからボーイッシュまで。
本当に色んな服を取り揃えてるんだけど、やられてるこっちからしたら、早く終わってくれないかな、なんて思ってしまう。
ルーティメイド長に、母様が着せ替え人形の如くやられてるの見た時は、あんなにドレス選びに四苦八苦する事などあるのだろうか、なんて思っていたのだけれど、成程。
見目が良いと、色んな服を着せたくなるもんなんだなぁ…。
多分、あの時の母様と僕は同じ顔をしていると思う。
顔は笑っているけど、目は死んでるってやつ。
やっと解放されたのは、もうそろそろ学園祭が終わるという頃合いだった。
「今月のお小遣い全消費したけど、悔いはないっ!!」
「あー…それは良かったねぇ…」
ホクホク顔で歩くユエの隣で、僕はゲンナリしながら歩いている。
そういえばお昼食べてないなぁ…なんて、ぼんやり思った。
「アオ、たこ焼きあるけど食べる?」
彼女が指差した先にたこ焼きを売っているクラスがあったが、僕は首を横に振る。
「疲れた…ごめん、ユエ。もう帰りたい…」
本当に体力も気力もない。
フォトショップで写真を撮られている合間、僕はシンクにメッセで、僕の着替え一式を寮に持って帰ってもらうよう頼んでいた。
絶対こうなると思ってたから。
「う…後夜祭とかも、無理…?」
「出たら多分、途中で倒れて寝る。女の子の体って、結構体力ないんだね…本当ごめん、ユエ」
目の前が揺れる。
あ、倒れるな、なんて頭の片隅で思った。
「アオ?!」
ユエが叫ぶ声がしたが、それに返答できず、僕の意識は暗転する。
次に目を覚ました時には、もう寮の部屋にいた。
「グンジョウ、大丈夫?」
薄暗い部屋の中、金色の髪の人が心配そうな顔で僕を覗き込んでいる。
声からしてシャナだったので、今何時? と姉に問うた。
「今? 午後11時。ユエちゃんが血相変えて部屋に来た時は驚いたよ。グンジョウ気を失ってるし。まぁ、精神に負荷をかけたせいだから、ちょっとしたら起きるよとは言ったけど」
「あー…ユエに悪い事した…」
手を少し上げて、自分の額に乗せる。
大きさが元の自分のサイズになっていたので、ブレスレットが外されたのだなとわかった。
「あの後、めっちゃおばさんに怒られてたよユエちゃん。ブレスレットはすぐ返却しろって言っただろうが、って。そのせいでグンジョウに負担をかけたのも、おばさん的には気に食わなかったんだろうけど。約束守らないの、おばさん一番嫌うから。一緒にお風呂に入る計画もバレてたみたいでね。もう一回お祖母様の所に叩き込んでやろうか、って凄い剣幕で怒ってて」
「いや、それは僕も悪いというか…」
シャナと風呂入るっていう事やらかしてんだから、贖罪はしなければ。
またユエを傷付けてしまったのだし。
「そこユエちゃんも言ってたけど、おばさんがね。あたし達は双子だけど、お互いを自分だと思ってるって。ちゃんと姉と弟として認識はしてるけど、もう一人の自分に誰が欲情するんだって。言われてみれば確かにね、って思ったよ。グンジョウはもう一人のあたし。弟だけど、体は男なんだけど、あたしの半身なんだって」
シャナはベッドの縁に頬杖を付き、ニッと笑う。
「それは、僕もだけど…。シャナは僕の姉さんで、僕は、姉さんの弟だけど…もう一人の自分だって思ってるよ…。双子って不思議だね、姉さん」
本当にねー、なんてシャナは僕の頭を撫でた。
「ごめん、シャナ。ユエ、その後どうしたの?」
「それなんだけど、グンジョウへ伝言預かってるよ。結婚したら毎日一緒にお風呂入ってもらうから、覚悟しておけだって」
ははは、と僕は苦笑いを浮かべる。
今でなければいくらでも、僕はユエの我儘を聞くつもりだったから。