ウンディーネ3の月。
最後の魔王の遺物がある場所に、僕らは向かっていた。
そこだけは絶対に安全なのよねぇ、なんて母様は言っていたのだけど。
「そりゃ安全でしょうよ…だって迷いの森だよ? 魔物だろうが何だろうが、入ったら出て来られないって噂の…」
「大丈夫だよ、グンジョウ。あたしがついてるから」
車の中で項垂れている僕に、シャナが苦笑いをする。
最後の魔王の遺物を持っているのは、ブリュンヒルデの称号を与えられている精霊王、ミラ様。
ミラ様が住んでいるのは、迷いの森の更に奥深く。
エルフの里を進んだ先にある精霊の祠だった。
何か会議があったり、母様が呼んだりすると現れるが、基本外には出て来ない。
それはそうだ。
だって、外に出なくても精霊達を介して様子が分かるんだから。
後なんで僕がこんなに憂鬱になっているかと言えば、ミラ様の言葉には圧があるからだ。
普通に喋っているのだけれど、言葉一つ一つが意識に圧をかけて来るので、普通の人間は気絶してしまう。
実際、会議でもミラ様は何も喋らず、問われたら首を縦に振るか、横に振るかで意思を示していた。
「私、耐えられるかなぁ…」
少し不安げなユエに、ユタカも同意してうんうん頷いている。
この中でミラ様と話しても平気なのは、シャナだけだと僕は思う。
姉は精霊の愛し子で、小さい頃から四大と話が出来ていたのだから。
「それより前に、迷いの森を突破出来るかじゃないか? 正しい手順を踏まなけりゃ、永遠と彷徨い続けるんだろ? そこ大丈夫なのかよ?」
「大丈夫。あたしが道案内するから。あ、でも入る時はみんな手を繋いでね。じゃないとバラバラに飛ばされて、見つけるの時間かかるからさ」
小さい頃、母様に連れられて行った時も手を繋いで入ったっけな。
なんで手を繋がなきゃ行けないの?
と、小さい僕は母様に尋ねた事がある。
入り口に逸れる魔法がかけられていて、一人ずつ入ると別の場所に飛ばされてしまうから、と母様は答えてくれた。
そんな馬鹿なとは思ったが、シャナもその通りだと言うのであの時は信じたのだ。
「アオ、変な事考えてない?」
「考えてないよ。うん」
一瞬、どうなるんだろうと好奇心に負けそうになったが、隣の席に座っているユエから睨まれたので、その思考をかき消した。
確か、今年のシルフ1の月だったっけ。
自害しようと思って、僕が迷いの森に行こうと思ったの。
迷いの森には、通常より強力な魔物がいる。
そこのマナの値が異常な為、魔物がマナを吸収して強くなっているのだそうだ。
だからこそ、見つかるのが遅くなり、尚且つ確実に死ねるあの場所に行こうとしていたのだ。
「アオ…」
「分かってるよ、ユエ。君を一人になんてしないから」
僕の思考を読んだのか、ユエが少し悲しげな瞳で僕を見上げる。
彼女の頭を撫で、安心させるように笑った。
そんな事、もう考えてはいない。
ユエは僕と一緒に死にたいと言った。
なら、僕が死を決意したら彼女も共に死んでくれるという事だ。
僕は、出来ればユエに生きていて欲しい。
だから、死ぬわけにはいかない。
車が迷いの森の入り口に到着する。
僕らが車を降りると、見知った男性が僕らを待っていた。
「お久しぶりです、ユキヤ叔父様」
「お久しぶりです、グンジョウ、シャナ。それと、初めましてシンク。僕はユキヤ・エリンジウム・トンプソン。現王、ナズナ・エキザカム・ブリリアントの実弟です。シャルや兄さんから話は聞いていましたけど…本当グンジョウそっくりですね、君」
一体どういう説明したんだよ、父様、母様。
僕のそっくりさんを養子にしたとでも言ったのか?
そんなまさか。
「叔父様、どんな説明されたの?」
シャナが直球で叔父様に尋ねる。
本当に、この姉怖いもの知らずだな。
その度胸どこから来るの?
「そうですねぇ…実は三人産んでたけど、一人はテスタロッサに預けて療育していた…は、表向きの話ですもんね? 信じ難い話ではありましたが、別次元のグンジョウだという事は聞いていますよ」
そこまで話してんのかよ、うちの両親。
実弟でも隠すべき所は隠した方が良いんじゃないか、とは思うが、ユキヤ叔父様は頭が回る人だ。
どうせ隠した所で、真実一歩手前まで論理を組み立てて、母様達へ尋ねるに違いない。
シンクは僕と同一の存在なのではないか、ってね。
「叔父様は口が硬い人だから、言い触らさないだろうし。良かったね、シンク」
「言い触らしたら極刑なるだろ、多分。まぁ…初めまして、叔父様。シンク・ラナンキュラス・ブリリアントです」
シンクが手を差し出す。
それにユキヤ叔父様も手を差し出して握った。
「成程…グンジョウよりも魔力量が多いのですね。そこに違いがある、と。異次元同位体というのは何とも不思議な存在なのですね? 同位体という割には、少しだけ違っている。それは身体的特徴であったり、魔力の有無だったり、果ては頭脳の違いといったものでしょうか」
「そこまで看破なさるとは…流石です、ユキヤ叔父様」
ニコリと、シンクが笑う。