その顔に若干の冷や汗が流れていた。
手を握っただけで、自分の魔力量まで理解るなんて、普通は出来ない。
あの父様の実弟なのだから、普通じゃないとは思うんだけど。
父様が僕くらいの歳の頃にあった戦争で、ユキヤ叔父様が作戦を立て、父様がその作戦通りに動き二人で功労を立てたと、歴史書で読んだ事がある。
正妃の長男だからと父様が王太子に抜擢されたが、ユキヤ叔父様自体が王太子への立太子を辞退した、という話があった。
真偽の程は定かではないが、叔父様の事だ。
そんな面倒な役になど就きたくなかったのだろう。
その時には、専属護衛だったオリヴィエ叔母様と愛し合っていたのだから。
「アオ、この方…」
ユエがこっそり聞いてきたので、僕は叔父様の前に彼女を出した。
「叔父様。僕の婚約者の立花ユエです」
「あぁ、立花卿の御息女ですか。お噂は
叔父様の毒に、ユエが若干引き攣り笑いをする。
全く以ってその通りなので、彼女は何も言い返せないのだろう。
「ユエ、ユキヤ叔父様はね。辺境の地を守ってるトンプソン家に入ったんだよ。トンプソン家は、迷いの森の管理もしててね。と言っても、外側だけだけど」
「まぁ、中に入って無事に出て来られるのは、中に住んでいるエルフの里の住人か、シャル…後はシャナくらいですか。シャナ、貴女の周りに精霊達が寄ってきてますよ」
姉の方を見ると、色んな色の光がシャナに纏わり付いていた。
シャナは嬉しそうに笑っていたけれど。
「兄さんに聞いていた通り、シャナは精霊の愛し子なんですねぇ。ま、長話もこれくらいにして。入り口はこっちです」
叔父様が案内してくれた先、門も何もない獣道だった。
ここが入り口なのか、なんて観察していると、シャナが手を繋いでくる。
「じゃあ、叔父様。いってきます! みんなー、手繋いだ?」
シャナが僕の後ろを振り返った。
僕の反対側の手をユエが繋ぎ、ユタカ、シンク、ツルギと続く。
姉はそれを確認し、レッツゴー! と言いながら獣道に入って行った。
◆◆◆
「…ここ本当に迷いの森?」
シャナに手を引かれ一歩森の中に踏み入れた僕は、そう言葉を発した。
外から見た感じでは鬱蒼とした森であり、先が全く見えないくらい茂みが凄かったというのに。
今目の前に広がっているのは、一面の花畑だった。
「わぁ、綺麗!」
「花束作れそうなくらい、花凄いな…」
ユタカが花畑を見て目を輝かせ、シンクも圧倒されたのかポツリと呟く。
辺りを見渡していると、一人の女性が僕らに背を向けて座り込んでいるのが見えた。
こんな所に人?
もしかしてエルフ?
そう思い、声をかける為そちらへ歩もうとする僕を、ユエとシャナが止める。
「アオ、待って。人がいるなんておかしい」
「あれエルフじゃないから。滅多に外に出てこないの、母様から教えられてるでしょグンジョウ」
じゃああれはなんだと振り返り、瞬間嫌な気配がして、二人を抱えて前へ飛んだ。
途端僕がいた場所が抉ぐれ、蔓状の何かがその人の所まで戻って行く。
「アルラウネじゃん、あれ。シャナ、炎魔法使っても良いか?」
「良いわけないでしょ! 辺り一面火の海になるっての!」
アルラウネは女性の姿をしている、植物系の魔物だ。
その容姿で男性を誘惑し、絡め取って捕食する。
まぁ、植物だから炎魔法を当てればすぐ燃え尽きてしまう魔物ではあるのだけど、場所が悪すぎた。
「こんな花畑で炎魔法使ったら、火の海どころじゃないでしょシャナ。森林火災で僕らも焼け死ぬよ」
「それはわかってるっつーの!!」
冷静に僕が言うと、シャナから怒鳴られる。
精霊の愛し子だから、あまり自然とかを害したくないのだろうなとは思うんだけど。
「じゃあ、あれどうすんの?」
アルラウネの周辺で蔦がウネウネと動いている。
範囲に入った捕食対象を、すぐさま絡め取ろうとしているのだろう。
「普通なら炎魔法ですぐに焼き尽くせる魔物ではあるけど…うーん…ユエ、魔武器片方貸して。あと魔弾込めといてくれる?」
ユエが僕を見上げ尋ねてきたので、僕はそう指示する。
魔力がない僕が魔弾を作り出せるわけがないし、そもそもユエの武器だ。
彼女以外には本来扱えない。
だがユエが魔弾を込め、僕が引き金を引くくらいなら出来るはずだ。
「どの魔弾?」
「単体攻撃用炎魔法。威力は最小で良い」
僕の指示通り、ユエは魔弾を込めて僕に魔武器を渡してくる。
僕はそれを受け取り、アルラウネに向けた。
銃口の位置と、射出した後の弾の軌道がこれくらい…風は吹いてるから…ズレるとしてもこの範囲かなぁ…。
頭の中で計算して撃つ。
僕の予測内で、弾はアルラウネの中心部を撃ち抜き、燃え上がった。
そのまま燃え尽きたので、僕は魔武器をユエに返す。
「…グンちゃん、今の…」
「ん? どうかしたの?」
ユタカが驚いて僕に聞いてくるが、何か変な事しただろうか?