「年上って、どれくらい?」
ユエの疑問に、僕は記憶を思い出す為少し首を捻った。
「えーと、ユキヤ叔父様が16の時、オリヴィエ叔母様が21だから…5歳差? 誤差の範囲内だとは思うんだけど、叔母様平民だったから…」
「父様が王太子だった時、平民は王族と結婚出来ないって法律があったんだよ」
シャナがフォローを入れてくれ、ツルギとユタカ、ユエがへー、と声を上げる。
弟だけがそれを黙って聞いていたが。
シンクの世界では、今でもその法が適用されているのだろうか?
「じゃあ、今の法律はユキヤ様の為に制定されたって事?」
「多分ね。あとは、僕らや子孫の為じゃないのかなって思ってる。好きな人の身分が低くて婚姻出来ない、なんてただの悲恋でしかないだろ?」
それこそ国を出奔してでも、という発想になるだろう。
有能な人材がそれだけの為にいなくなるのは、何とも頭の痛い話ではある。
そんな話をしていたら、精霊の祠に辿り着いた。
窪地の真ん中に、ぽっかりと穴を開けたような洞窟がある。
そこが精霊の祠だ。
「うわー、大きい穴だー」
「ユタカ…小さい頃のシャナと同じ感想言ってる…」
ここに初めて来た時、姉はあの祠を見て同じ事を言った。
あれは僕らが5歳になる前だったか。
僕の発言を聞き、シャナがニヤリと笑った。
「グンジョウは、怖い行きたくないって母様にしがみついてたよね。今じゃこんなに図体がデカくなって」
「言うな」
今とは違い、確かに小さい時の僕は気弱で甘えん坊だったよ。
ずっと母様にベッタリで、いない時は姉にしがみついていたさ。
好き嫌いも多かったし、食べたくないってわがままを言ったりもした。
こんな性格になったのは、大きくなって王太子の自覚が出てきた辺りだろうか。
自分以外にはこなせないのだから、頑張らなくてはと、そう思ったからかもしれない。
「…可愛い…」
「今は読まないで欲しかったかな…」
ポツリとそう言ったユエの手を取り、斜面を降りていく。
僕らに続いて姉達も降りてきたので、そのまま精霊の祠に向かった。
中に入ると暗く、シャナが光魔法で辺りを照らしてくれる。
「ここって深いのかな?」
ユタカが誰にともなく、疑問を口にした。
「深い、のかな? どんどん下まで降ってはいくけど、ここに来たの小さい頃以来なんだよね。シャナ、深度どれくらい?」
僕が先頭をいくシャナに尋ねると、分かるわけないじゃんと答えが返ってくる。
とりあえず、ミラ様の所までは一本道だから迷う事はないだろうけど。
と、前を歩いていたシャナが足を止める。
一体どうしたのかと、後方にいた僕らも歩みを止めた。
「シャナ?」
「…シルフ! いるのわかってんだからね! イタズラしようとしてるでしょ?! 母様に言いつけるからね?!」
何もない空中に向かって、シャナは叫ぶ。
フワッと緑の光が出たかと思えば、それは人型になり、小さい男の子の形をとった。
〈ちぇっ! 愛し子は気配に敏感だなぁ〉
少し不満そうに頬を膨らませ、大精霊シルフが姿を現す。
威圧感を感じるがそれを物ともせず、シャナは彼に対して怒鳴った。
「空気が淀んでたらそりゃ気付くっての! ここら辺はあんたの領域なんだから、澄んでなきゃおかしいのに。そういう時は絶対、イタズラしようとしてる時だってのは、わかってるんだからね!」
大精霊にあんな言い方出来るの、うちの姉だけだろうなぁ。
イフリートの時も思ったけど。
あと母様に言いつけてどうするんだ、シャナ。
いくら昔、母様がシルフに勝った事があるからって、今も勝てるとは限らないだろうに。
〈ちぇー…〉
若干拗ねるシルフへ、姉は指を差した。
「シルフ、あんた暇でしょ? あたし達をミラ様の所まで運んでよ」
「シャナ! いくら何でも大精霊に対して不敬過ぎるよ?!」
姉の手を握り、僕は慌てる。
精霊の愛し子とはいえ、やって良い事と悪い事くらいあるだろう。
あと、精霊だからといって人に指を差すな。
行儀が悪いと、母様から怒られるぞお前。
〈もっと言ってやってくれよ、愛し子の弟。大体、愛し子は僕らの事なんだかんだと、簡単に扱いすぎ〉
「簡単にって…あたしは、精霊のみんなを頼りにしてるからお願いしてるだけだし…嫌なら来なくて良いんだよ? 別に、無視してくれても良いのに…」
シルフの言い分に、シャナが少ししょんぼりする。
無視が出来るなら、シルフだってするだろう。
しかし、シャナは精霊の愛し子。
精霊に愛された存在。
シャナが望めば、精霊は手を貸さざるを得ないのだ。
それが、良い事か悪い事かは関係なく。
シンクの世界のシャナはどうだったのだろうかと、落ち込んでしまった姉の頭を撫でながら思考していたら、空中から声が響いてくる。
〈あー! シルフが愛し子悲しませてるー!〉
〈愛し子のお願いは、みんな嬉しいのに!〉
〈元素の精霊に言いつけるぞ!〉
キラキラと雪の結晶が光に反射し、三体の精霊が現れた。
シャナはそれを見、名前を口にする。
「スネグーラチカ…」
名前を呼ばれた三体の精霊は、ニコニコしながらシャナの所へ来て、姉を抱きしめた。