クイっと服を引っ張られる感覚がし、僕はそちらを見た。
「どうしたの、ユエ?」
「いや、アオ…ミラ様と話して…大丈夫?」
さっき大精霊が集合した際倒れたので、心配になったようだ。
彼女の心配そうな様子に、大丈夫だよ、と返す。
「初めてミラ様へ会った時、さっきみたいに僕倒れちゃってさ…ミラ様が祝福を授けて下さったんだよね。ある程度、圧に耐えられるようにって。父様は気合いで耐えてるけど、僕は無理だろうって事で。ミラ様となら、普通に話せるんだよね僕」
精神が弱くてすみません、ミラ様…。
あと、ありがとうございます。
おかげで大精霊二名くらいなら、何とか耐えられてます…。
まぁ、それも意識がこっちに向けられていない状態、っていうのが前提だけども。
意識向けられたら倒れるんだろうなぁ…。
〈むぅ。昔みたいに抱っこさせてくれないとは…グンジョウ、私は寂しいぞ〉
「………そう言われると…あの……どうぞ……」
ミラ様が少し寂しそうな顔をしたので、僕は諦めて身を預ける。
大精霊、しかも元素の精霊王に請われたら断れるはずがない。
僕はミラ様に横抱きにされ、恥ずかしくて手で顔を覆った。
身長180超えの男が、華奢な女性に抱き抱えられてるなんて、羞恥以外の何物でもなかったから。
「…グンジョウ、ドンマイ…」
「……うるせぇ…」
シンクに声をかけられ、僕はそう返す。
指の隙間からミラ様を見上げた。
彼女は満足そうな顔をして、僕へ頬擦りしている。
その動作は小さい子を慈しむもので、ミラ様は僕やシャナをまだ幼い子だと思っているのだな、なんて感想を抱く。
「…………」
ユエが、非難がましい目で見てきているのはわかっていたが、その視線が痛くて彼女の方は見れなかった。
〈で、お前達。何用でここに来たんだ?〉
僕を抱き抱えたまま、ミラ様が尋ねてくる。
「あのね、ミラ様。魔王の遺物ってものがあってね…」
シャナが僕の代わりに説明してくれた。
僕がこんな状態だから、というのもあるんだろうけど。
ミラ様はシャナの説明を聞き、ふむ、と首を傾げた。
〈シャルから預かったあの腕輪が、魔王の遺物、か。確かに禍々しい気配はしていたぞ。それを伝えはしたが、私達に何も悪影響がないのなら預かってて欲しい、と言っててな。ブリュンヒルデだったか? その称号を与えるに相応しい人物が現れたら、その者に渡すのでそれまで、との話で〉
「なんか、すんませんミラ様…」
僕の代わりに、シンクが謝ってくれる。
禍々しいものを精霊王に渡さないでよ母様?!
いくらブリュンヒルデ家の家宝だったからって!!
ミラ様の腕の中、僕は深いため息をついた。
よしよし、なんてミラ様は僕の頭を撫でてくるが。
「あの、ミラ様。私の婚約者をいい加減離してもらえないですか?」
「ユエ?!」
少しイラついてきたのか、ミラ様に対してユエがそんな事を言い始める。
ミラ様はユエの方を見、次いで僕を見た。
〈ん? 婚約者? グンジョウ、番いが出来たのか?〉
「えぇ、まぁ…僕も、もうそろそろ婚姻出来る年ですし…」
正確に言えば来月の8日には18になるので、両親とおばさん達が許可してくれれば、ユエと婚姻は出来る。
式とか指輪とかは先になるだろうけど。
用意も準備も、今はしている暇がないから。
〈ふむ? 人間の月日というものは早いな。前まであんなに小さかったお前が…〉
「ミラ様! アオをいい加減離しもがが!!」
更にミラ様へ何かを言おうとしたユエだったが、シンクから口を塞がれ、ユタカからは羽交締めにされる。
シンクに対して少し思うところはあるが、多分あのまま自由にさせていたらユエの奴、ミラ様に対して攻撃魔法くらい唱えていたんじゃないかと思うので、目を瞑ろうと思った。
「ユエ! 不敬すぎるってば!! ママがここにいたら怒られるだけじゃ済まないよ?!」
「お前次期王妃なんだから、少しそこら辺考えろ馬鹿!!」
二人から注意され、ユエは僕を睨む。
いつまでそうしているつもりだと、彼女の目が語っていた。
あと、ユエの目が若干涙目になってきているので、僕は苦笑する。
「…ミラ様、すみません。降ろしてもらって良いでしょうか? 僕の番いは、何分嫉妬深いもので。後でどんなお叱りがあるか分からないんですよ」
〈シャルみたいなものだな。うん、分かるぞ。人の子に対して、シャルが抱く感情だな。やはり、人々の営みは面白いな、グンジョウ〉
ミラ様はそう言いつつ、僕を地面に降ろしてくれた。
彼女の言う人の子というのは、多分父様の事だろう。
母様とミラ様が何らかの力で繋がっているのは、母様自身から教えられていたし。
母様の感情がミラ様に届く、なんて事もあるのかもしれない。
「ミラ様ぁ、魔王の遺物ちょーだい?」
皆の背後、僕が向いている先。
そんな甘ったるい声が聞こえた。
この声はと、僕らはそちらを見る。
クスクス笑いながら、桃華の首に輪をつけ、鎖で繋いでいるシャナが立っていた。
今日も今日とて豪奢なドレスに身を包んでいる彼女の趣味は、相変わらず悪い。