ずっと前から、シンクはシャナの事、本当の姉だと思っていたよ?
態度からみれば分かるだろうに。
「…っ! グンジョウ、よくもそんな口が…っ!!」
「俺はグンジョウじゃねぇ、シンクだ!! 足りん頭で覚えとけクソアマ!!」
魔王のシャナに中指を突き立て、弟は怒鳴った。
ギリっと、魔王が歯軋りする。
彼女がもう一度10の元素を放とうとした瞬間。
〈私の居住区で暴れないでくれ、愛し子達。嫌なものは、外へポイしてしまおうな〉
ミラ様がそう言い、魔王と桃華を薄い膜で包んでしまった。
「ちょっと?! まだ魔王の遺物貰ってないんだけど?!」
魔王は膜を叩きまくるが、びくともしていない。
そんな彼女を睥睨し、ミラ様が冷たい口調で魔王に言う。
〈お前に渡すなら、愛し子のシャナに渡すさ。その悪臭は、気分が悪くなる。退場してもらおうか〉
ミラ様が手を横に振る。
途端その膜ごと、魔王達がいなくなった。
多分何処かに飛ばされたのだろう。
何処かは分からないが。
「…ミラ様、ごめんなさい…別世界のあたしが…」
シャナがミラ様に向き直り、頭を下げる。
自分が悪いわけではないのに、姉はポロポロと涙を溢していた。
別世界の精霊達の痛みや苦しみを思い、それを引き起こしたのが別世界とはいえ自分であるのだと、シャナは申し訳なく思ってしまったのだろう。
〈お前であって、お前ではない。泣くな、シャナ。お前は何も悪くなどないのだから。お前のその精神性が、私達は大好きなのだよ。私達を想い、慈しみ、隣人として愛してくれている。私達の愛し子。私達は、お前を愛しているよ〉
ミラ様は姉を抱きしめ、頭を撫でる。
まるで、母親が娘へそうするように、愛おしげな表情で。
「愛し子って、どういう理由で選ばれるんだろう…」
ユエがポツリと呟く。
それに対して、僕は首を傾げた。
「さぁ…? でも、精霊自身が好きになるような精神とか魂とか…? いや、魂はないか…シャナの前世、宮塚だし。アレが精霊の愛し子になれるわけがないと思うんだよね…」
アレの性質を引き継いでしまったのが、魔王のシャナだとは思われるけど。
〈そうだ。グンジョウ、おいで〉
シャナの頭を撫でつつ、ミラ様が僕へ手招きをする。
僕は素直にミラ様へ近付き、首を傾げた。
「何でしょうか、ミラ様」
〈お前へ、更に祝福をあげよう。困難な道にも、光はあるように。お前の行く先が、幸福で満ち溢れるように。一度だけ、我々を呼べる権利をお前にあげよう〉
ミラ様がそう言い、僕の額に口付けする。
ブワッと背後からユエの魔力波が放たれたが、またシンクとユタカ、それにツルギも慌てて宥めにかかっていた。
「ありがとうございます、ミラ様」
〈構わないさ。お前は愛し子の弟であり、シャルの息子だからな。私にとっても子供みたいなものだ〉
わしゃわしゃと頭を撫でられ、そしてミラ様はユエを見る。
〈だからそんなに怒りの感情を向けないでくれ、人の子よ。別にグンジョウを私の番いにと望んでいるわけではない。私はシャナもグンジョウも、そしてここにいる人の子達も、等しく愛おしいだけだ〉
「私の名前はユエです!! 人の子とか言わないでもらえます?!」
君のその勝ち気、何なの?!
うちの姉同様怖いもの知らず過ぎない?!
相手精霊王だよ?!
何考えてんの君?!
若干血の気が引き、僕はミラ様を見上げた。
怒るかと思われたミラ様だが、彼女は楽しそうに笑っている。
〈グンジョウ、お前の番いは可愛げがあるな。それにお前を想って行動する胆力もある。うん、ユエだな。覚えたぞ。お前にも祝福を。一度だけ、自分とグンジョウを守れるだけの力を与えよう〉
フワリとミラ様はユエの所まで浮遊し、彼女の頬を両手で包み込むと、先程僕にしたように額に口付けた。
ユエは驚き、ミラ様を見つめている。
あんな啖呵を切ったのだから、怒りに触れて何かしらされるとでも思ったのだろう。
僕もそう思ったけど、ミラ様の懐は深いらしい。
あんな事で一々腹を立てるのは、人間くらいなのかもしれなかった。
〈さて、魔王の遺物だな。グンジョウ、あの岩の上まで飛べるか? あそこに置いてるんだ〉
ミラ様が指差した先、彼女がいつもいる大岩の上辺りに何か光るものが見える。
「え、あ、出来ます」
脚力強化をし、大岩の上まで飛んだ。
無造作に、本当にただそこへ置かれているだけの腕輪に、僕は引き攣り笑いをする。
無用心すぎますよ、ミラ様?!
これ、あっちのシャナが気付いてなくて良かった…!
腕輪を手に取り、地上に降りる。
とりあえずシンクに渡し、僕らはミラ様に挨拶をしてその場から立ち去った。
◆◆◆
「…ユエ、ちょっと心臓止まりかけたから、あんな無茶今後やめてくれる?」
エルフの里に帰ってきて、僕ら用にと与えられた部屋につき、僕はユエに言う。
アキカ叔母様に、里に何も変化はなかったか尋ねたが、何もなかったとの事なので、あの魔王のシャナは里を通らず別の所から現れたのだと、僕らは結論付けた。