my way of life   作:桜舞

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345話『ミドルネームについて』

シルフ1の月。

冬季休暇に入り、図書室で本を読んでいた僕の元に、ユエが怒りながら歩いてきた。

 

「ママ達の分からず屋ーっ!!」

「ユエ、ここ図書室だから静かにしようね。あと一応婚姻届書いたけど、却下されたんだね…」

 

バンッ、と机を叩いて怒りを露わにしている彼女に苦言を呈す。

 

彼女の様子から察するに、母様達に婚姻届の紙を出したは良いけど、まだ認められないとか言われたんだろう。

一昨日くらいに僕も18になったので、ユエから書いて欲しいと言われ用紙に記入はしたのだが。

そんな事になるだろうとは、予測していたけどね。

 

「まだ魔王の問題が片付いていないからね。それがなければ二人共、学生結婚でも認めたんだろうけどさ」

「本当、腹立つ…っ!!」

 

ユエは僕の向かいに座り、机に突っ伏した。

自分の考えや計画を潰されて腹が立っているのはわかるが、先程も言った通りここは図書室なわけで。

 

「落ち着こうか、ユエ。成人したら、親の許可なんてなくても出来るんだし」

「それだと、あと2年かかるじゃん…アオは良いの、それで?」

 

ユエの望みは叶えてあげたいが、こればっかりはどうしようもない。

そう伝えると彼女は頬を膨らませ、そっぽを向いてしまった。

 

冬季休暇中の課題は終わらせてあるから、休暇が終わるまで僕は好きに行動出来るわけなのだが…ユエはどうだろうか?

 

「ユエ、課題終わらせた?」

「あんな少ないの、どうやったら終わらせられないって判断になるの」

 

ちょっと棘がある言い方だったが、彼女の怒りも理解出来ないわけではないので、スルーする。

 

それもそうなんだけど、シャナって例があるからなぁ…。

そんな姉も、今必死こいて終わらせている最中だろう。

 

「ねぇ、アオ。私少し疑問に思った事があるんだけど」

 

数ページ読み進めていると、ユエからそう尋ねられる。

僕は本から顔をあげ、首を傾げた。

 

「どうかしたの?」

「私妃教育でね、ミドルネームについて教えてもらってたんだけど…王妃様のミドルネーム、なんでマリアライトのままなの? 結婚したら、自分の家名を名乗るのが通常って聞いたんだけど」

 

そういえばそうだ。

普通なら、マリアライトではなく、テスタロッサになるはずなのに。

その答えを僕は持ち合わせていなかったので、首を横へ振った。

 

「分からない。母様に直接尋ねたらどう?」

「いや、なんか…聞くのも烏滸がましいというか…何か問題があって、そう名乗ってるんだとしたら…ねぇ?」

 

ユエの懸念も最もだが、そこまで深い事情なんてあるのだろうか?

と、僕の携帯が震え、メッセが送られてきた事を知らせる。

メッセは母様からで、文を見る限り僕らの会話が筒抜けである事を知った。

 

【本当なら家名を名乗らなければならないのだけど、ターニャとかナズナとかに、マリアライトの方が可愛いし綺麗だから、そのままの方が良いって言われたの。その為に法律も改正したのよ? あの人。改正したからと言って、テスタロッサと家名を名乗っても良かったのだけど、二人がそう言うのだからそう名乗ってるだけよ。だからユエちゃんに伝えて。家名を名乗るか、別の名を名乗るかは好きにしなさいって】

「……だって」

 

携帯の画面を見せ、僕は肩を竦める。

それを見たユエは、少し複雑そうな顔をしたが。

 

「城内の会話、王妃様全部聞いてるんじゃないの?」

「そんなまさか。聖徳太子じゃあるまいし」

 

それなら、おばさんの結界など必要ないだろう。

自分で危機管理が出来るのだから。

 

僕は本を閉じ、立ち上がる。

少しは体を動かさないと固まると思ったからだが、ユエが不安そうに僕を見つめていた。

自分に呆れて何処かに行こうとしている、とか思ってそうだな。

そんなわけないのに。

 

「ユエ、ちょっと行きたい所あるから着いてきてくれない?」

「行きたい所?」

 

本を片手に、彼女へ手を差し出す。

差し出した手に自分の手を乗せ、ユエも立ち上がった。

 

「オーシアへ行った時に、馬に乗りたいって言ってただろ? 一緒に遠出しない?」

「っ! するっ!!」

 

目を輝かせた後、彼女は満面の笑顔を浮かべる。

その顔を見れて、僕も嬉しくなった。

 

◆◆◆

 

「わぁ…っ!」

 

ユエと馬房に来ると、彼女が感嘆の声を上げる。

色んな馬がいて、前世でも今世でも見た事が無かったんだろうな、と彼女の様子を見て思う。

 

「殿下、こちらにいらっしゃるとは珍しいですね」

「アークス。うん、久しぶりにサフィールへ乗ろうと思って。元気にしてる?」

 

厩務員のアークスが僕に声をかけてきた。

僕の馬や父様の馬、その他騎士団員の馬などの面倒を見てくれている厩務員の男性で、結構僕と歳が近い事もあって気さくに話しかけてくれる。

 

「はい。皆元気に過ごしてますよ。ダイアだけは少し気性が荒くて、陛下と王妃様以外は絶対乗せませんけど」

「ダイア?」

 

僕の隣で馬を眺めていたユエが、僕を見上げて首を傾げた。

彼女の姿を認めたアークスが頭を下げる。

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