「立花卿のご息女様もご一緒でしたか。失礼しました。私、ここで王族の方々の馬を管理させていただいております、アークスと申します」
「あ、ご丁寧にありがとうございます。立花ユエと申します。お仕事ご苦労様です」
ユエも彼に頭を下げた。
僕はそんな二人を見ながら、彼女の疑問に答える。
「ダイアって言うのは父様の馬だよ。真っ白い馬でね。自分達の誕生石から名前をつけたらしい。牝馬なんだけど、本当気性が荒くてね。自分の乗り手である父様か、その伴侶である母様しか絶対自分に乗せようとしないんだよ。何だっけ、最初母様を乗せる事も拒否してたんだっけ」
アークスに尋ねると、彼は頷いた。
「はい。しかし、王妃様がダイアを見て微笑んだ瞬間、ダイアが大人しくなりまして。あの瞬間、厩舎にいた馬たち全員が大人しくなりましてね…なんででしょう?」
母様、ダイアに対して威嚇か何かしたのか…?
自分を乗せないとは良い度胸だ、とか?
まさかそんな…いや、あの母様だから有り得るけど。
その余波で、他の馬まで大人しくなったんじゃないかと思った。
「さぁ…? ちなみに僕のは牡馬だよ。とても穏やかな子で、人懐っこいんだ」
「ごめん、アオ。ヒンバどボバって何? 馬の知識全くなくて…」
まぁ、馬に触れ合ってこなかったのだろうし、そこは仕方ないか。
「牝馬っていうのはメスの馬、牡馬はオスの馬だよ。アークス、サフィールはいつもの所?」
はい、と彼が答えてくれたので、僕はユエの手を引いてサフィールの厩舎に行く。
青毛の馬であるサフィールが僕を見た瞬間、すぐに嘶いた。
「わっ! びっくりした…」
「サフィール、なかなか会いに来れなくてごめんね。元気にしていたかい?」
彼に手を差し出すと、顔を寄せてくれる。
その顔を撫でている間に、アークスが乗馬用の装備をサフィールに付けていった。
厩舎から出されたサフィールがユエを見る。
彼女を見ている事に気がつき、僕はサフィールに言った。
「彼女はユエ。僕の番いになる子だよ。仲良くしてあげてね」
僕がそう言うと、サフィールはユエに顔を近づける。
戸惑う彼女に、僕は笑いかけた。
「大丈夫だよユエ。サフィールは大人しい子だし、何より頭も良いんだ。顔を近づけたという事は、撫でてもいいと判断したからそうしてるんだよ」
「そ、うなの? えっと…こんにちは、サフィール。お顔、撫でさせてね」
ユエがサフィールの顔を撫でると、彼は嬉しそうに目を細める。
どうやら、彼もユエを気に入ってくれたようだ。
僕は鞍に跨り、ユエへ手を差し出す。
僕の手を取った彼女だったが、上手く馬上へ上がれず少し悪戦苦闘していた。
浮遊魔法を使えば良いだけなのだが、近くで魔法を使うとサフィールが驚くかもと、使えないようだ。
「サフィール、少し膝を折れるかい?」
僕が彼の首辺りを触りながら言うと、サフィールは僕の指示通り膝を折り、ユエを乗せやすくしてくれる。
そのまま彼女を引っ張り上げた。
「支えるから楽にしてて良いよ」
「ありがとう」
手綱を揺らし、サフィールに進行する事を伝える。
ユエに配慮してか、彼はゆっくりと歩を進めてくれた。
「凄い…」
馬上から見た景色に、ユエは感動しているようだ。
横向きに座り、進行方向を見つつ僕の服を掴んでいる。
いつもとは違う高さだからか、サフィールに乗っているからか。
多分どちらもだろうとは思う。
「ユエ、寒くない? 大丈夫?」
「大丈夫。アオにくっついてるから」
僕の方へ振り向き、ユエは微笑む。
その表情も可愛いなと思っていると、裏門についた。
手綱を引いてサフィールをストップさせ、裏門を警備している騎士に少し遠出をしてくる旨を告げる。
門を開けてもらい、手綱を揺らしてサフィールに歩いてもらった。
「ユエ、少しスピード上げるけど…僕に抱きついてて」
「え、うん」
ユエが僕に抱きついてきたのを確認し、手綱を大きく揺らして腹を軽く蹴る。
それを合図に、サフィールは駆け始めた。
「うわわ…っ!! は、速い…っ!!」
「あんまり喋ると舌噛むかもよ」
僕がそう言うと、彼女はギュッと僕の服を握る手に力を込める。
ついでに目も閉じたようで、体が強張っていた。
暫く駆け、目的地に着いたので手綱を引っ張り、サフィールにストップをかける。
「ユエ、目を開けてごらん」
僕の言葉に、彼女は恐る恐る目を開けたようだった。
「わぁ…っ! 綺麗…っ!!」
城の裏手にある山道を駆け、頂上付近から見える湖を見たユエが、目を輝かせながら感嘆の声を上げる。
今の時間、湖が輝いて見えるのを覚えていた僕は、彼女にも見せたいと思ったのだ。
「アオ、湖綺麗だね…」
「うん、綺麗だよね。僕も初めてここに来て、同じ感想を持ったんだ」
ユエを抱きしめ、その頭に頬擦りする。
愛おしい、僕だけのユエ。
くすぐったかったのか、彼女はクスクス笑い出した。
「この景色、私に見せたいと思って連れてきてくれたんだ? ありがとう、アオ。私も大好きだよ」
「本当ナチュラルに人の心読むんだから…」
まぁ、慣れてしまっていたので、僕はユエにキスをする事で、それ以上言葉を紡げなくした。