ぷくーっ、と頬を膨らませる彼女にキスを落とす。
唇を離し、ユエをベッドへ横たわらせると、僕もその傍で横になった。
「アオー…」
「明日」
眼鏡をサイドテーブルに置き、僕は彼女をギュッと抱きしめて目を閉じる。
少し意識が覚醒したユエから、胸を軽く叩かれた。
「ん…何…」
「アオの馬鹿」
薄目を開けて彼女を見る。
不満そうにしているユエの頭を撫で、その額にキスを落とした。
「明日の朝一緒に入ってあげるから、今は寝かせて…もう限界…」
「絶対だからね? 覚えてないなんて言わせないから」
わかったわかったと返答しながら、僕は眠りに落ちた。
◆◆◆
眠りから覚め、ユエの寝顔を見た僕は昨夜の事を思い出し、頭を抱える。
眠かったからって、あの口約束なんなんだ僕…?!
本当、眠くなると僕無能じゃない…?!
起き上がり、サイドテーブルから眼鏡を取ってかけた瞬間、寝ていたはずのユエから腕を掴まれた。
「逃がさないからね、アオ…!!」
「…シャナが短い悲鳴あげるの、わかった気がする…」
寝てると思っていた相手が、いきなり腕掴んでくるんだもの。
僕も若干驚いて、少しだけ肩が跳ねた。
「昨日の事忘れたとは言わせないからね…!!」
「あー…うん。覚えてるよ、うん…」
少し頭を掻き、僕はそう言う。
ちゃんと僕が覚えていた事に嬉しさが顔へ出た彼女は、お風呂に入るための色々を持ってくると、部屋から出て行った。
その隙に僕は諸々をやり、先に風呂へ入る。
流石に一緒に服脱いでとかは無理…!!
暫くしてから風呂場のドアが開き、ユエの声が聞こえた。
「あー! 先入ってるー!」
「当たり前だろ…」
理性崩壊するぞマジで。
襲われたいんだろうけど、その後の事考えてくれませんかね。
シャワーの音が聞こえるが、僕はそちらから顔を背ける。
チャプンと水音がして、ユエが浴槽に入ってきた。
そのまま、僕の方に這い寄ってくる気配がする。
「ユエさん? なんで近づいてくるんですかね?」
「アオもちょっとは慣れよ? 夫婦になるんだよ?」
それはなってからでも良いんじゃないかな…。
父様と母様だって、夫婦になるまで一緒に風呂入った事無いだろうし。
「あのね、ユエ。僕の視力が悪いからって、肌色が見えないわけじゃないんだよ? そんな刺激しないでくれないかな…!」
「慣れようって言ってるだけでしょ」
ユエが僕の腕に抱きつく。
素肌の感触に、僕の顔は真っ赤になった。
「ほんっと…っ!! 人の気も知らないで…っ!!」
ユエから顔を背け、僕は浴槽の縁に頭を乗せる。
「ごめんね、アオ。でも、私今幸せ。貴方とこう出来るのが、こうしていられるのが、とても幸せなの。魔王の問題が片付いていない以上、いつ結婚…っていうよりも、いつ死ぬかわかんないって言ったらいいのかな。だから、思い出いっぱい残したいなって」
彼女はそう言って、僕の手に自分の手を添えた。
肩に頭も乗せ、気配から察するに微笑んでいるようだ。
「……絶対、君やみんなを死なせたりしない。僕も死ぬつもりはない。魔王を倒して、君と添い遂げる。思い出なんて、倒してからでも作れるだろ」
彼女の手を握り、僕は言う。
そんな僕の手をユエは握り返してくれた。
「…そうだね。アオ、大好き。というか、眉寄ってるよ? 若いのに跡ついちゃう」
「僕も好きだけど…誰のせいだと思ってんだ、お前は…!」
ユエは僕の前に回り込み、えいえいと僕の眉間のシワを伸ばそうと指で押してくる。
その手を取り、自分の方へ引き寄せた。
「ひゃ…っ?!」
体勢を崩した彼女を抱き止める。
その際、ユエの胸に僕の顔が包まれてしまった。
バスタオルとかなんか巻いていてくれたら良かったのだが、彼女はそれを頭から取っ払ってしまっていたらしい。
ユエはその体勢のまま固まってしまった。
「……あの、アオ…」
「…………ごめん…」
何で僕が謝ってるんだって話なのだが、とりあえず謝っておく。
少し顔を動かし、彼女を見た。
多分さっきの僕同様顔を真っ赤にさせ、どうしようと困っている事だろう。
「…ユエ、一回退こうか…?」
「そ、そうだね、うん!! ごめんアオ!!」
物凄い勢いでユエは僕から離れ、その勢いのまま反対側の壁に後頭部を打ちつけた。
ガンッと、とても痛い音が浴室に響く。
「あ痛ぁっ?!」
「…ちょっと落ち着こう、ユエ。ね?」
頭を押さえ、ユエは蹲っているようだ。
うんうん頷いている彼女を見て、内心安堵のため息をつく。
あの体勢のまま誘惑されてたら、理性切れてたな…。
危なかった…。
本当に、僕のお嫁さんは誘惑行動が多くて困る。
それだけ僕との仲を進展させたいのだろうけど、もうちょっと待ってもらえないだろうか。
せめて、高等部卒業したら手も出しやすくなるというのに。
「…いった…うぅ…」
「大丈夫、ユエ? あとでカヅキおばさんかサカネ先生に診てもらったら?」
ママより、サカネ先生の方がマシ、と彼女は言う。
まぁ、カヅキおばさんにこれ聞かれて答えたら、雷が落ちるのは目に見えてるしな。
嘘なんて通じない人だし。