まぁ、歩きたい気分なのは僕だけなので、ユエを付き合わせてしまっている、とは感じているんだけども。
僕はユエの方を見、尋ねた。
「ユエ、疲れてない?」
「え? 全く。やだなぁ、アオ。老人扱いしないでよ」
してるつもり全くないんだけど。
体気遣っただけなんだけど。
なんでそんな発想になった?
僕は少しため息をつき、ユエを横抱きにして抱える。
「ちょっ?! アオ?!」
「疲れてきてるみたいだね、ユエ。部屋に帰ろうか。二人とも邪魔してごめんね」
謝ると、シンクから気にするなと言われた。
僕はユエを抱えたまま、化け桜の庭から歩き去った。
◆◆◆
「アオ、私疲れてないから! ちょっと、降ろして?!」
ユエを抱えて歩き続ける事数分。
彼女から抗議され、立ち止まった。
「ユエの口から老人って単語が出たんだから、疲れてるって判断するのは正しいと思うんだけど」
「それだけで?! ただの例えでしょうに?! 私まだ18だもん! 精神年齢で言えば、そりゃ…30前半だけど…だからって自分の事、老人とか思ってないからね?!」
キーキーとユエから怒鳴られ、しかしこの体勢から降ろしたくないなぁ、なんて思う。
それは僕の我儘だったけど、これ言ったらユエ大人しくなってくれないかなぁ、なんて思っていた時だった。
「その理屈で言うと、あたしナズナより年上になってしまうわね?」
「年上だったとしてもお前の事を愛していたから、俺は別に構わん」
両親の声が聞こえ、僕らはピタッと動きを止める。
声がした方を見ると、仲良く腕を組み廊下を歩いている僕の両親が目に映った。
僕はユエを降ろし、二人で頭を下げる。
一応、王宮とはいえ人の目もある事だし。
目上だし。
「良い、面を上げよ。ユエ嬢、うちの息子が苦労をかけるな」
「え、あ、いえ。これくらい、苦労の内に入りません陛下」
息子の目の前で言う事ですかね、それ。
苦笑いを浮かべ、僕は目を逸らす。
そんな僕を見てか、母様は微笑した。
「グンジョウ、あまり嫌な事から目を背けてはいけないわよ? 言いたくないけど、貴方は次代の王なんですからね」
「分かってるよ母様…」
耳にタコが出来る程、言い聞かせられてきた事だ。
それは分かっているのだけど…。
目を逸らしたままの僕を見て、ユエがクスリと笑いを溢した。
彼女の方を見やれば、クスクスと笑い続けている。
「ユエ?」
「いや、ごめん…! アオ、お二方の前だと妙に子供っぽくなるっていうか…普段とのギャップがあって、面白くて…!」
そこまで笑う事ないだろ。
ジト目でユエを見ると、急に頭を撫でられた。
そっちを見れば、父様が僕を撫でている。
なんで今撫でる必要が? と不思議に思って父様を見つめてしまった。
「大きくなったな、グンジョウ。背は俺より少し高くなったか」
「ほぼ変わらないと思うけど…」
父様の身長が181cm、僕が183cm。
誤差の範囲内とは思うけれど。
母様は父様の隣でニコニコ笑ってるし。
一体どうしたって言うんだ、二人とも。
「グンジョウ、15時に謁見室へ来い。パーティの皆も呼び出せ。良いな」
父様の声色が硬くなり、僕とユエに緊張感が走る。
今まで和やかな空気だったものが、一気に張り詰めた。
「…承知しました、陛下」
僕とユエはまた頭を下げる。
二人が僕達の横を通り過ぎる際、母様が僕の肩を軽くポンポンと叩いた。
そんなに緊張するなと言ってくれているようで、二人の足音が遠ざかってから頭を上げ、両親を振り返る。
父様が母様の肩を抱き、歩いていた。
だが、母の肩が少しだけ震えているのが見え、泣いているのだと理解する。
やや頭も下げているので、多分間違いない。
「…一体何なんだよ…」
僕はポツリと呟く。
隣でユエが携帯を取り出し、グループメッセでみんなにメッセを飛ばしていた。
そして父様に指定された15時。
謁見室前に、パーティメンバーが全員揃う。
「一体どうしたってんだ、父様?」
「もしかして、下に妹か弟出来たんじゃない?」
怪訝そうな顔をするシンクと、あっけらかんな感じで話すシャナ。
「それならおめでたいけど…私達呼び出す必要あるのかな?」
「……多分、ないと思う」
首を傾げながら話すユタカ、そして首を横に振るツルギ。
「アオ…」
僕の服を掴み、ユエが不安そうな顔を向けてくる。
「…行こう」
謁見室の扉を、僕は開けた。
玉座に父様、その両隣に母様とカヅキおばさんがいる。
僕らは謁見室の中に入り、中央辺りで歩を止めて膝をつき、頭を垂れた。
「陛下のお呼びで参りました。此度は、如何されたのでしょうか?」
皆も僕と同じく膝をつき、頭を垂れているのが気配で分かる。
僕らは静かに、父様からの言葉を待った。
「魔王の居場所がわかった」
父様の隣に立っているカヅキおばさんが、そう言葉を発する。
僕らはそれへ、息を呑んだ。
遂に、この時が来たのかと。
「そこまでの次元を開くまで、一月を要する。グンジョウ、シャナ、シンク。王族の勤めを果たして来い。ユエ嬢、ユタカ嬢、ツルギ。お前達は命を賭して、三人を守れ。これは王命である」
父様の厳格な声が、謁見室に響く。