僕は皆を代表して、声を上げた。
「承知致しました、陛下。必ずや、魔王を討伐し皆で帰ってきます」
「あぁ……これは王ではなく、お前達の父の言葉として受け取ってもらいたい。俺が出れなくてすまない、グンジョウ、シャナ、シンク。こちらの次元にいるのなら、俺も出陣するのだが…別次元だと、兵も動かせない。お前達だけで行ってもらう事になる」
そう言い、父様は玉座から立ち上がる。
そのまま降りてきたようで、僕らの前に膝をついた。
「父様…」
僕は驚いて顔を上げてしまう。
王が膝をつく事などあってはならない。
そう教えられていたから。
「本当にすまない…。お前達でなくても良いのなら、他の者に行かせるのだが…これは親のエゴだ。俺とシャルの子供達が、苦しく、辛い思いをするなどと…本来なら、させたくないんだ」
父様が少し辛そうな表情をする。
そして、父様は僕を抱きしめてきた。
父様から抱きしめられた事なんて数度しかなくて、僕は更に驚いて体を硬くする。
「すまない、不甲斐ない父を許してくれ」
「と、うさま…」
父様は僕から離れ、シャナやシンクにも言葉をかけながら僕と同じように抱きしめていく。
本当に僕達を心配して、辛いのだという気持ちが伝わってきた。
僕は玉座の横にいるであろう母様を見る。
母様はカヅキおばさんにエスコートされ、降りてきていた。
その時にはみんな立ち上がっていて、僕の前に立った母様が先程の父様と同じく僕を抱きしめてくる。
「母様…」
「グンジョウ、ユエちゃんのためにも無事に帰って来なさい。ごめんね…辛い思いをさせてしまう…あたしが代われれば、どれほど良いか…!!」
泣き始めてしまった母様に、僕は声をかけた。
「大丈夫だよ、母様。母様達が鍛えてくれたおかげで、最初の頃よりも強くなった。それに、絶対みんなで生きて帰ってくるよ。だから泣かないで。貴女の息子は、立派に勤めを果たして戻ってきますから」
「グンジョウ…っ!!」
泣き止まない母様の背を、ポンポンと叩く。
母様は優しいからこそ、自分が出れない不甲斐なさで泣いているのだろう。
カヅキおばさんも、自分の娘達とツルギに声をかけていた。
三人とも、何か決意した顔をして頷いている。
「シャル」
父様が母様の傍に寄り、その肩を抱く。
母様は泣きながら、父様の胸に顔を埋めた。
「母様、泣かないでよ。グンジョウは、あたしやシンクが守るから。それに、グンジョウが言った通り、みんなで帰ってくるよ」
「そうそう。俺や姉ちゃんは魔法に長けてるからな。母様が見えた未来、絶対覆してやる。だから安心してくれ、母様」
バッと、母様が驚いて顔を上げる。
シンクにも星読みの力が宿っているの、知ってたよな?
忘れてたのかな?
「…シンク、シャナ…グンジョウ。無事に帰って来てね。ここで、あたしもナズナも、ずっと待ってるから。あたしとナズナの可愛い子達。愛してるわ」
最後の別れっぽい言い方しないでくれないかな、とは思ったが、空気を読んで言わなかった。
◆◆◆
その日の夜、何となく寝付けなくて、僕は枯山水の庭に来ていた。
そこには先客がおり、僕は声をかける。
「母様も寝れないの? 父様心配するんじゃない?」
「ナズナにはちゃんと言って出てきてるから、大丈夫よ。この城の中であたしを襲おうなんて考える人、誰もいないわ」
僕の姿を見て、母様は微笑した。
母様の隣に腰を下ろし、僕は空を見上げる。
かつて、ユエと一緒に見たような満月が浮かんでいた。
暫くお互い無言で空を見ていたが、唐突に母様が口を開く。
「グンジョウ。桃華ちゃんの事だけれど…貴方はどうするつもりなの?」
「……まだ、迷ってる。生かすべきか、殺すべきか。会った所で、多分僕はまた迷うんだろうな…とは思ってる」
こういう所が、僕の悪い所だと自覚してはいる。
優しいというのは聞こえがいいセリフ。
実際は優柔不断なだけ。
僕は俯き、自分の手を見る。
自分は大した力なんて持っていない。
だけど、僕の判断で誰かを生かす事も、殺す事も出来る。
その力を正しく振るわねば、ただの愚王だ。
「でも、彼女と会って…判断するよ。生かすか、殺すか。まぁ、生かすと判断した場合…ユエからは怒られそうだなとは思ってる」
ユエと桃華の確執は、僕の想像以上だろうから。
手を握り、僕は母様に顔を向ける。
だが母様は僕の遥か向こう、入り口に目を向けていた。
僕もそちらに顔を向けると、ユエがそこに立っている。
「ユエ…?」
「さて、あたしはもうそろそろ戻りましょうかね。言ってあるのにも関わらず、ナズナが迎えに来てしまうわ。あの人、本当にどうしようもない人だから」
母様は苦笑しながら立ち上がった。
ユエとすれ違う際、彼女に何かを言い母様は庭から出ていく。
彼女は母様を振り返って見送った後、僕の傍に来て隣に座った。
「母様から何言われたの?」
先程の僕同様月を見上げたユエが、僕の質問に返答する。
「グンジョウをよろしくね、ユエちゃん。だって」
「そっか」
僕はまた月を見上げた。
そんな僕の手に、ユエは自分の手を重ねる。
「アオ、生きて帰ろう。絶対、何があってもアオは死なせないから」
「それは僕もだよ、ユエ。君は死なせない。僕が守るよ」
お互いに身を寄り添い合い、微笑んだ。
穏やかな時間が流れる。
一月後、死地に行くのだとしても。
僕は、彼女も、仲間も、全てを守ると誓った。