その微笑みは、うちの姉と似ていると思った。
◆◆◆
地下牢から元の廊下まで戻ってきて、捜索を続ける。
「魔獣以外、誰とも出会さないなんて…本当にここ、うちの城と同じなのかな…」
シャナが若干不安そうに呟いた。
確かにここまでの道のりで、魔王のシャナや魔王自身にも会っていない。
いくら、魔力を流してマップを作ったとしても、誰が何処にいるかなんてわからなかった。
向こうには、こちらが侵入した事はバレているだろうけど。
「次元が入り乱れているからな。でも、間違いなくリヒト城だ。ただ、外の様子が全く変わっていない事が気になるが…」
シンクが窓の外を見る。
捜索を始めてからゆうに三時間以上は経っていた。
今がこちらの時間でどれくらいになるかはわからないが、それでも真っ暗なままというのは確かにおかしい。
普通なら月や、見えなくても星々が輝いているはずなのだから。
「精霊を殺しまくったって言ってたよね…磁場が歪んでいる様子もないし、闇の精霊の仕業とか?」
ユエが振り向き、シャナに尋ねる。
「シャドウもみんな、ミラ様の祠に引きこもってる。精霊がいなくなったから、外の空気が澱んでるんだ。下手したら、この窓の向こうは真空状態かもしれない…オーシアやベルカは無事だと思うよ。おばさんの技術力とか、向こうにはこっちにない力場とかがあるから。でも、リューネの民は……!」
姉は悔しそうに、ガンッ、と壁を叩く。
そして、窓の外を睨みつけるように見た。
「絶対許さない、こっちのあたし…!! もうこの状態は手遅れだよ…精霊達に見限られたら、あたし達は生きていけないのに…!!」
〈ほう。なら、私の研究対象にして実験場にしましょう。精霊がいなくなった世界で、どれくらい人間は生き延びられるのか。何、シャナ陛下なら面白いからやってみろと仰るでしょう〉
頭に男の声が響き、次いでシャナが伸びてきた手によって壁にめり込んだ。
「ぐぅ…っ!!」
「シャナ!!」
ツルギがシャナを助けようと、その手に向かって蹴撃する。
カヅキおばさん手製の魔術礼装を身に纏っていたから、見る限りシャナへは傷一つ入っていなかった。
それでも衝撃はくるし、痛いだろう。
僕は声に聞き覚えがあり、伸びてきた手の方を見る。
赤黒く染まった手が縮み、壁が崩れたその場所から異形の化け物が現れた。
〈おや、お久しぶりですグンジョウ殿下。遥々ここまでよく来ましたね?〉
化け物は僕の方を見、名前を呼んでくる。
「テレジア卿…!!」
僕の方を見て言ったという事は、彼は僕達側の世界のテレジア卿なのだろう。
僕はノワールを引き抜き、テレジア卿に向ける。
「テレジア卿、その姿はなんだ? それに、貴様には国家反逆罪の容疑がかかっている。大人しく捕縛につけば良し。抵抗するつもりなら、この場で斬り捨てる」
〈容疑だけで、無罪の人間を斬り捨てると申されますか?〉
はっ、と馬鹿にしたような態度をとるテレジア卿に、僕は続けて言った。
「そうだな。容疑など言って悪かった。生温い発言をした。レフ・スフェーン・テレジア。貴様を王族に対する不敬罪、暴行罪、並びに国家反逆罪の罪で捕縛する。ただ、抵抗するなら斬り捨てても良いと陛下から許可は頂いている。さぁ、選べ。ここで捕まり、罪を贖うか。もしくは死ぬか」
僕の声は、とても冷たく響いた事だろう。
隣に立っていたユエが、少し驚いた顔をして僕を見つめていたから。
〈そう言われましてもね。私は、私の研究を続行する為にこちらに来ただけですから。あちらだと、魔王の研究とやらは違法の類でしょう? そんな法の為だけに、私の研究が邪魔されるなど…腹立たしいじゃありませんか。私は、私の研究の邪魔などされたくはない。ましてやベルファになど…遅れをとってなるものか…!!〉
「成程。なら死ね、レフ。貴様の矜持など、こちらにとってはどうでも良い事だ。精々ヴェスタ神の御許で、その愚考を言うが良い…総員戦闘配置!! 目標、レフ・スフェーン・テレジアの撃破!!」
僕の号令で、ユタカとツルギがテレジアに攻撃を仕掛ける。
シンクとシャナも大規模魔法を行使する為、詠唱を始めた。
テレジアはその異形の身から何本も触手を出し、ツルギとユタカの攻撃をいなしていく。
その攻撃はこちらにまで来たが、ユエの魔弾で撃墜していった。
「
ユエが捌き切れなかった触手が僕に来たが、炎属性の斬撃で焼き払っていく。
もう、あの弱かった頃の僕達ではない。
テレジアの動きが全て遅く感じるくらいには、強くなっている。
「全てを飲み込め!!
シャナが闇渦を発生させた。
その声に、ユタカとツルギが退避する。
〈ククク…そんなモノで、この私が〉
「誰がこれだけだ、なんて言ったよ? 俺からのも喰らいやがれ!!」
闇渦に呑まれながらも、テレジアは余裕そうな声を上げた。
しかしそれに、シンクがサムズダウンする。