my way of life   作:桜舞

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36話『彼女の姿を眺められるなら』

僕も彼女に礼をした。

 

「こちらこそ、楽しい時間をありがとうユエ。お祖母様、母様達は執務室に戻っていますか?」

「いえ。後始末に追われているようです。あと、ユタカ嬢も訓練場にいたようで、カヅキに怒られていますよ。ムシャクシャしてやったと供述しているようですが」

 

僕とユエは、お互い顔を見合わせ同時にため息をつく。

あの暴発、ユタカが原因だったとは。

姿が見えないと思ったら、そこにいたなんてね。

 

「ユタカ…イラついたからって、魔法師団に喧嘩売ったんじゃないの…?」

「流石にユタカもそこまで馬鹿じゃないでしょ…シャナじゃあるまいし…」

 

シャナが一回、魔法師団相手に百人組手の魔法バージョンをやった事がある。

大規模魔法を連発しすぎて、今回みたいに重症者を多数出したのだ。

確かあれは初等部に上がった辺りだったか。

 

その後母様にこっぴどく叱られて、シャナがギャン泣きしていたのを覚えている。

 

「あー…今日は政務どころでは無さそうだな…。お祖母様、邪魔でなければここで彼女のレッスンを眺めてても良いですか?」

「そうですね。見られる緊張感というものも、大事なことです。王の妻たるもの、常に平常心でなくてはなりません。許可しましょう。宜しいですね? ユエ嬢」

 

ユエが少し恨めしげに、僕を見た。

自分が苦しんでいる姿を見て楽しいのか、とでも言いたげだ。

そんな事はないのに。

 

ただ、彼女の姿を眺められるなら、同じ空間にいられるなら、それだけで僕は良かったのだ。

 

◆◆◆

 

ユエのレッスンが終わり、カヅキおばさんがユタカを引きずって迎えに来る。

本国送りにしたいが、流石に僕の専属護衛になっているから、簡単には出来ないと歯軋りしながら言われた。

相当お怒りのようで、これはユーリおじさんも交えてユタカは一晩説教されるな、と想像が出来てしまう。

 

「では、殿下。またこちらに伺います。ご機嫌よう」

 

ユエがカーテシーをするのと同時におばさんの影魔法が発動し、彼女らは帰って行った。

 

「…もっとユエといたかったな…」

 

しばらくその場に佇んでから、僕は踵を返す。

その時僕にぶつかる誰かがいて、思わず抱き止めた。

 

「…シャナ?」

 

僕の頭一個分下くらいの金髪なんて、姉以外ありえない。

しかし、シャナは何も言わず僕の腕を自分から外し、また走り出して行った。

 

「…何なんだよ、全く」

 

なんか泣いているようだったけど、お腹でも壊したんだろうか?

 

まぁ、シャナの事は横に置いておこう。

 

ユエに婚約指輪が欲しいと言われた。

僕には選ぶセンスが無いから、明日お祖母様にお願いしてユエを1日休みにしてもらおう。

そして、二人で選びたい。

 

そう思いながら部屋に着き、僕はベッドに横たわるとすぐさま眠りについた。

 

普段なら夢も見ずに起きるのに、その日は夢を見た。

真っ白い空間に、僕は立っている。

目の前には、白と黒が絶妙に配色されたフード付きのパーカーを着た子が佇んでいた。

そのパーカーはとても大きく、顔の半分以上を隠し、口元だけしか見えていない。

丈も膝より上で、袖なんて手さえも出ていない。

 

「君は…」

「ねぇ、覚えてる?」

 

少し高い声。

多分、女の子じゃないかと思う。

 

彼女は、僕に問いかけた。

 

「何を…」

「元は一つだった、アタシと貴方の事を」

 

パーカーから出ている髪は薄ピンク色。

でも、そんな髪色を持つ知り合いなんて、僕には一人もいない。

 

「一つ…? 君は何を言っているんだ?」

「酷いなぁ、お兄ちゃん。アタシを忘れるなんて。あんなに愛し合ったじゃない」

 

その子はパーカーのフードを取る。

現れた顔は、僕にそっくりだった。

 

「…悪夢にしては、出来すぎじゃないかな…」

 

その顔を見ていると、冷や汗が出る。

何故だかはわからない。

彼女は僕を見て、クスクス笑い出した。

 

「直に思い出すんじゃないかな。ねぇ、お兄ちゃん。アタシの方が、雪那(せつな)よりお兄ちゃんを愛してるって」

 

ピンクの花弁が舞い落ちてくる。

それは徐々に増えていき、彼女の姿を覆い隠した。

 

「またね、お兄ちゃん」

 

強風が吹く。

ピンクの花弁が僕を襲った。

僕は目を開けていられなくて、顔を庇うように腕を交差させ、目を閉じる。

 

次に目を開けた時、そこには心配そうに僕を覗き込むユエの姿があった。

 

「…ユエ?」

「大丈夫、アオ? 凄い魘されてたけど…。あ、勝手に入ってごめんね。一応、メルディアさんと一緒に入ってきたの。ノックもしたんだけど…」

 

ユエは持ってたハンカチで、僕の汗を拭う。

確かに、寝汗でパジャマが引っ付いて気持ち悪い。

 

「ユエ、ごめん。少し待っててくれる? お風呂入ってくる…メルディア、ユエにお茶とか出しておいて」

 

はい、との声を聞きながら、僕は起き上がる。

部屋に備え付けられてる浴室に入り、汗を流して出てきた。

ただ一つやらかしたのは、バスタオルと下着を持っていったのは良いのだが、替えの服を持って行かなかった事だ。

僕は意を決して、部屋に続く扉を少し開ける。

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