「シャナ、起きたんならベッドから降りろ。食事あるから、ユタカとシンクの分は残しておけ。ツルギ、次はお前が休む番だから早く寝ろ」
ギロッとシャナから睨まれたが気にしない。
周りを見た姉は素直に降りる前に、ツルギの頬へキスをした。
そのせいで、今度はツルギが真っ赤になる。
「おやすみ、ツルギ君」
「お…おやすみ…」
ガバッと音を立てて、ツルギはシャナが今まで寝ていたベッドに入り、布団を頭まで被った。
「あーあー…あれ寝れるか?」
「うっさい。あー、お腹すいたー」
椅子に座り、いただきますと言った姉は食事を始める。
僕は立ち上がって、キッチンでお湯を沸かした。
ユエは茶葉も持ってきてくれていたようで、ティーポットにそれを入れてお湯を注ぐ。
そして、ティーカップに入れたお茶を姉の前に置いた。
「ん、ありがと。おばさんには及ばないけど」
「一言余計だ」
僕が入れたお茶を飲みつつ、シャナが笑う。
姉の向かいに座り、僕も自分で淹れたお茶を飲んだ。
「おばさんはそういう技術、お祖母様から叩き込まれてるんだから、僕より美味いのは当たり前だろ」
「…篠原の侍従たるもの、ってやつだろ? グンジョウ、俺にも入れてー…」
目を擦りながら、シンクが起き上がる。
僕は立ち上がって、茶葉を一度捨てて新しい物を入れ、まだ熱いお湯をティーポットに注いだ。
少し蒸らした後ティーカップに入れて、椅子に座ったシンクの前に置く。
「熱いから気を付けろよ」
「んー…」
まだ寝ぼけてるのか、シンクは素直に頷いてティーカップを両手で持ち、息を吹きかけて冷ましながらお茶を飲み始めた。
いつもの弟なら足を組んで、片手でティーカップを持ちながら飲んでいるのに。
こっちが素か。
案外幼いのな、お前。
まぁ、こんな姿を見せるという事は、心を許してくれているという事だろうし。
今起きているのは僕ら姉弟だけだし。
格好付けたい子は、今寝ているしね。
シャナも見た事がなかったようで、ご飯を食べながらシンクを凝視していた。
姉からの視線に、弟は怪訝そうな顔をする。
「…なんだよ…」
「シンク? 今見えてる?」
自分の目元をツンツンつついたシャナに、シンクはため息を返した。
そして収納空間から、僕が付けているアンダーリムとは反対の、ハーフリムを出してつける。
「…そっちに魔力回したく無くて、見えてない…あとな、俺低血圧なんだよ…寝起きいっつもこう…テンション高くしてたのは、ただの見栄…」
焼いたパンやらを目の前に置いてやると、それも素直に食べ始めた。
手元はしっかりしてるから、低血圧だとしても多分大丈夫だろう。
「んー…よく寝たぁ…。あれ…? ユエとツルギ寝てる…ごめん、グンちゃん。今何時?」
ユタカも起きたようで、彼女の分のお茶を入れてテーブルに置く。
彼女は大きく伸びをし、ベッドから降りた。
「ここに突入してから、8時間経ったくらいかな。ユタカ、お腹すいてない? ユエが作って置いててくれてるんだけど」
「すいたー……ん? シンクも寝起き? 相変わらずテンション低いねぇ」
クスクス笑いながら、彼女は弟の頭を撫でる。
うっせぇと悪態を吐くが、シンクはされるがままになっていた。
弟の隣に座り、ユタカも食事を始める。
「ユエ達も起きたら捜索を開始しよう。まだ魔王すら見つけていないからね」
僕の言葉へ、席についている三人が頷いた。
◆◆◆
ユエ達が起き、僕らは捜索を開始する。
人形達を操って進行方向の扉を開け、確認していく事数時間。
厨房、図書室、執務室と見ていくが、誰一人見つからなかった。
だが、ただ一つだけ。
シャナの部屋だと思われる場所に、人がいた。
その人物に見覚えがあったシンクが声を上げる。
「ユタカ、ユエ!」
シンクの声に、痩せ細った男性達がこちらへ目を向けた。
しかし声は発さず、向けられた目もすぐさま下に向く。
「この人達が、こっちの私達なの…?」
「…なんて酷い事を…醜悪すぎる…っ!」
若干ショックを受けているユタカと、ギリッと歯を鳴らし、険しい顔をしたユエが呟く。
シンクは二人に近寄り、
「お前達、シャナに何をされた」
二人の肩に手を置き、弟は尋ねる。
ボソボソとか細い声で言った内容が聞こえ、僕は眉を顰めた。
栄養失調寸前まで魔力も精力も搾り取られ、だが殺してもらえず、ずっとここにいるのだと言う。
姉は、自分の姿を見るのも嫌だろうと二人に気を遣い、部屋の外で待機していた。
「父さんも、母さんも…みんな、目の前で…殺されて…」
「俺達のせいだ…俺達が、人質に取られていて…父さん、手を出せなくて…っ!!」
こちらのカヅキおばさんも、身内には甘い人だったのだなと察する。
自分の子供達の命が敵に囚われてしまっていて、それを助ける手段を講ずる前に、殺されたのだろう。
ポロポロと悔し涙を流すユエとユタカに、シンクは言った。