「黙れ。あたしの弟を、義妹を傷つけたお前を、あたしは絶対に許さない。お前の性根は、腐り切って終わっている。精霊達に詫びなくても良い。ただ一人、誰にも想われず、悲しまれず、寂しく逝け」
冷たく見下ろすシャナへ、侮蔑を込めた目で魔王は見上げた。
「…ふん。何でもかんでも手に入って、甘く育てられたあんたに、あたしの気持ちなんて一つも理解出来ないでしょうね。ツルギだって、手に入ったくせに…あたしには、振り向いてくれなかったのに…ツルギ…」
魔王の目がツルギを捉える。
その目に乗っている感情は、これまで何回も見た事のある目で。
愛おしいのに手に入らない、相手を欲する目。
見られたツルギは、首を横に振った。
「…こちらの俺が、どういう理由でここに来て…君の元を去ったのかは、分からない。だが、俺は君の所のツルギじゃない。俺は、俺がいる世界のシャナだけを、愛している」
「……ふっ…ふふ…ほぉんと…実直だなぁ…ツルギ……君…は…今、何処に…いるの、かなぁ…ツルギ…会い、たい…」
魔王のシャナはそう言い、涙を一筋零して息絶える。
「…シャナ!!」
謁見室の入り口から、姉の名前を呼ぶ声が聞こえた。
だが、そちらを見た瞬間僕らは驚く。
地下牢にいるはずのソルフィアナが駆け寄ってきてたからだ。
彼女は、動かなくなってしまった自分の妹を抱き上げ、涙を流した。
「姉様…どうして…」
「…魔王になってしまったとしても、私の大事な妹であり、私の国民の一人です…ごめんなさい、シャナ。寂しい思いをさせてしまって…ごめんね…」
シンクの疑問の声に、ソルフィアナは答える。
愛おしげにその頬を撫で、床に寝かせると炎魔法でその遺体を焼いた。
「ツルギ君も、多分そちらに行っているでしょうから…ちゃんと素直に、気持ちを伝えなさいねシャナ…」
「ソルフィアナ姫殿下…いや、女王陛下。何故こちらに?」
シンクの疑問には、多分これも含まれていただろうと思い、あえてもう一度尋ねる。
彼女は僕を見、そして僕の背後を見た。
「お母様達が、ここまで私を連れて来てくれたのです」
見ている方向を振り向けば、母様とカヅキおばさんがユタカの治療をしている最中で、僕は安堵の息を吐く。
母様が来てくれたのなら、ユタカは大丈夫だろう。
「シンク、ここに残れ。ユタカの身を案じながら戦闘は出来ないだろう?」
気を遣って言った僕に対し、すまないと口に出した弟へユタカは言った。
「私…大丈夫…だよ、シンク…。ママも…ナッちゃんも…来てくれたから…。一緒に行けないの…悔しいけど…私の旦那様は、こんな事で負けたりしない…とっても格好良い人だって…知ってるから。私の分まで、魔王ぶっ飛ばしてきて…シンク」
「ユタカ…」
グッと拳を突き出してきたユタカに、シンクは苦笑して自分の拳を合わせる。
「本当、俺の女は気概がありやがる…待ってろ、ユタカ。すぐぶっ飛ばして、戻ってくるから。養生しとけよ。母様、カヅキおばさん。ユタカをお願いします」
彼女の頭を撫で、二人に頭を下げた後シンクは立ち上がった。
そして、僕を見る。
「行こう、グンジョウ。魔王がいる場所について、見当ついてんだろ?」
「あぁ。これで、終わりにするぞ」
僕は玉座に向かって歩いた。
その後ろにある、隠し扉へ向かって。
◆◆◆
「…こんな所あったんだ…」
隊形を変え、前方を僕とツルギ、ユエが真ん中、シャナとシンクが後方という位置について歩く。
隠し扉を潜った先、下に降りる道があり、煌びやかな城内とは違って石壁で覆われた通路を進む。
ユエが周りを見ながら呟いた疑問に答えた。
「婚姻したら教えるつもりだったよ。ここ、王族だけが知る避難経路でね。暴動が起こったり、内乱が起こった際に逃げ延びる為のものなんだ。出口も複数あって、サンテブルク教会に通じていたり、王都の外に通じている道がある。出口は巧妙に隠されていて、パッと見は分からないようになっているよ」
「一回父様達に内緒で入って、見つけたんだよねー。グンジョウめっちゃビビってたけど」
場を和まそうと、シャナが軽い口調で言う。
僕はそれに苦笑した。
「止めても聞かないで、そのまま行こうとするからだろ。なんで、親衛隊の目まで掻い潜って探検しようとするんだ、ってさ」
「それ何歳の頃?」
シンクもこの隠し通路の事は知らなかったようで、物珍しげに周りを見ながら聞いてくる。
「中等部上がったくらいだったよ。長期休暇中の深夜。謁見の間だって親衛隊が常駐していたはずなのに、どうやって説き伏せたんだよお前」
後方を歩くシャナに呆れた目線を投げれば、姉はあっけらかんとした様子で言った。
「え? お願いして。短時間だけ入らせてー、って言ったの。それに、あたしがその隠し通路見つけたの謁見の間じゃなくて、客室からだし。そこから謁見の間に繋がってるの見つけてさ。なら、そこから別の道行ったらどうなるのかなって。グンジョウを巻き込もうと思ったのは、ただの出来心」
「シャナちゃん…」
ユエも呆れた目を姉に向ける。