それでも。
ちゃんと君の元に生きて戻るから。
その時は、君の怒りも悲しみも、全て受け入れるよ。
ユエ。
僕の運命の人。
君を愛してる。
彼女の手が僕の胸元の服を握りしめ、肩が少し震え出した。
目を開けると、ユエが嗚咽をこらえ涙を流している。
どうやら僕の心を読んだらしい。
泣き喚きたいが、他のメンバーが休んでいるのを邪魔したくなかったのだろう。
僕は何も言わず、彼女を抱きしめる。
皆が起きるまで、僕らはずっとそうしていた。
◆◆◆
書斎の中の歪んだ空間へ、足を踏み入れる。
目の前の景色が変わり、何処かの廃教会のような場所が目の前に現れた。
祭壇のような場所に腰掛け、魔王は何かの本を読んでいるようだ。
僕らの気配を感じ取ったのか本を閉じ、奴は祭壇に置く。
「よくここまで来たものだ。執念深い所は、セルジウスの血だろうな」
セルジウスというのはリューネ王族の始祖、セルジウス・ダールベルグ・ブリリアントの事だろう。
魔王、ヴァンデルゼンセンはリューネ王家に仕える魔法使いの一人だった。
セルジウス王とも、親友のような立ち位置でいたと聞いている。
だが、セルジウス王が正妃に据えた女性に、魔王は一目惚れをしてしまった。
正妃、ローザマリア・サザンクロス・ブリリアント。
慈愛に溢れた人で、リューネで最初の精霊の愛し子と伝わっている。
親友の妻だと理解していた魔王だったが、それでも自分の想いが抑えきれず、王の隙を見ては正妃に愛を囁き続けた。
しかしその全てを、正妃は頑として受け入れなかったらしい。
『私は王の妃であり、王を支える者です。例え、王が私以外の妃を娶ろうとも。王と共に、国を守る義務があります。貴方に堕ちるのは、甘美で容易い事ではあるのでしょう。ですが、私には責任があります。貴方の想いは嬉しく思いますが、私を想うのはもう止めてください。貴方に何度愛を囁かれようとも、私の思いが覆る事はないのですから』
そうして魔王はセルジウス王に反旗を翻し、魔に落ちた…と、王家に伝わっていた。
「ローザマリアの子孫でもあるあたし達が、そんなに憎いの?」
シャナが魔王に問う。
魔王はクックッと笑いながら、シャナを見た。
「あぁ、憎いとも。ローズも、何故あんな愚鈍な奴を選んだのか、理解に苦しむ。二人で逃げようと持ち掛けても、私が王になると言っても、彼女は首を縦には振らなんだ…。あぁ…そう言えば…お前の顔、ローズに似ているな?」
ブワッと、魔王の体からドス黒い魔力波が放たれる。
次いで、魔力波で歪んだ空間から魔獣が次々と現れた。
「忌々しい…ブリリアント王家…! セルジウスも、私の物にならなかったローズも…その全ての血よ! 絶えよ!!」
「お前ら!! これが最終決戦だ!! 気合い入れろよ!!」
シンクが僕らに、俊敏や攻撃力が上がる魔法をかける。
僕は全身強化を自分に施し、地面を蹴った。
魔獣達も咆哮を上げ、僕と共に駆けるツルギに喰らい付こうとする。
「…真名を解放する…コンラッド、アブトマットっ!! 我が眼前の敵を葬り去れ!!
ユエは自分の魔武器の名を呼び、魔弾を上空に向けて発射した。
それは幾重にも分かれ、その名前の通り銃弾の雨を魔獣に降らせる。
その雨の中を僕とツルギは駆け、魔王に肉薄した。
「これで終わりだと思ったか? まだ余興だ。潰れてくれるなよ?」
僕とツルギの攻撃が当たる前、魔王と僕らの間に誰かが割り込み、攻撃を受け止める。
目に映った色に僕は驚き、距離を取るためそれを蹴りつつ距離をとった。
ツルギも僕と同じ行動を取り、後退する。
「…父様、母様…」
後方で魔法を練っていたシンクが、唖然とした声で両親の名を呼んだ。
金の髪を揺らし、剣を構えた白い服の女性と、蒼色の髪をした大剣を持つ男性。
性別は逆だが、確かに両親と同じ存在である人達が、僕らの前に立ちはだかっていた。
「どうだ? あの小娘が渇望してやまなかった、お前の両親を傀儡にしてやった。まぁ、もう死んでいるから、文字通り人形だがな」
「…っ!! テメェ…っ!!」
シンクが激昂するが、僕は二人に剣を向けながら弟に言う。
「落ち着け、シンク。魔王はお前を揺さぶって楽しんでいる。お前の怒りは尤もだが、冷静になれ。魔王の手から取り返して、二人をちゃんと弔おう」
「……悪かった。その通りだな、兄ちゃん」
僕も呼吸を落ち着け、再び地面を蹴った。
遅れてツルギも地面を蹴り、こちら側の父様の相手をし始める。
僕はこちら側の母様の相手をする事にし、剣を交えた。
膂力はあるがその程度。
母様程の俊敏性は無いし、動きも単調。
剣を振り下ろすか、振り回すだけ。
本当に傀儡なのだろう。
その事に、憐憫を垂れた。
「……グンジョウ……すまなかった…お前を、救い出せなくて…お前を…守れなくて…」
剣を交えている最中、母様がそう呟く。
魔王が言わせているのかと思ったが、母様がはっきりと僕を見つめていた。