もう手は出し尽くしたのか、魔王は腰掛けていた祭壇から降りた。
「少しも楽しめぬな…時に今代の王子。名はなんという。いや何…これから殺す相手の名くらい、聞いておいてやろうという慈悲だ」
「……グンジョウ・デルフィニウム・ブリリアント。別に貴様を楽しませる為に、僕らはここに来たわけではない。終わりにしよう、ハイクロッカス・ド・ヴァンデルゼンセン」
僕はノワールを魔王に向ける。
「王家とお前の因縁も、この戦いも、全て。僕が…僕達が、終わらせる」
「…やってみるが良い。私は何度でも、お前達ブリリアント王家に復讐する。その血が絶えるまで、我が怨讐、尽きる事なし!!」
魔王が手を横に差し出すと、その手に杖が握られた。
元々奴は魔法使いだ。
自身の魔武器も、杖なのだろう。
僕もノワールとブランシュを構え、魔王と同時に踏み出し、剣と杖で応酬する。
火花が散るが、僕は筋力強化で一対の剣を振るスピードを上げた。
だが、流石初代の魔王。
それすらもいなすように受け止め、弾き、僕に攻撃してくる。
「こんなものか? なら、もう死ね」
目の前で魔法が無詠唱で発動し、僕は咄嗟に右腕で防御した。
爆発が起き、ブランシュごと腕が吹っ飛んでいく。
いくら僕が炎属性持ちだからと、爆発までは防ぎきれない。
「アオっ?! …っ…いやぁぁあっ!!」
ユエが横目で僕を見ていたのだろう。
彼女から絶叫が聞こえた。
ユエの攻撃の音も止み、そちらを一瞬だけ見る。
彼女の代わりに、シンクが敵へ攻撃してくれているようだった。
ダバダバと、腕から大量に出血し始める。
僕はそれを、炎で焼いて止めた。
止血する為にしてしまって、腕が元通りになるかはわからないが…あとで母様が何とかしてくれるだろう。
多分。
「ほう…常人ならば苦痛で悶え苦しむものを…」
「生憎と、常人じゃない人に鍛えられたものでね…ユエ!! 怯むな!! 僕の妃になるんだろう?! 王妃がこのくらいで恐れを抱くな!!」
僕の叱咤に、ユエが息を呑む音がする。
目の前の魔王は、面白そうに顔を歪めたが。
「あれがお前の妃、ねぇ…あの女を屠ったら、貴様は絶望に叩き落とされるのだろうな?」
「そうさせると思っているのか?」
僕はノワールを上空に投げ、収納空間から短剣を取り出す。
あの時、おばさんから渡された切り札。
満身創痍で10分だと、おばさんは言った。
それを、自分の心臓に突き立てる。
ごめんなさい、おばさん。
別に死期を悟ったわけでも、皆が窮地に立たされたわけでもない。
でも、もうこれ以外で、魔王に勝てる道筋が見えないんです。
だけど、必ず勝ちます。
ゴウッ、と魔力風が吹き荒れた。
どうすれば魔王に勝てるのか、頭の中で戦略を組み立てる。
それも一瞬の事だったのだろう。
驚いた魔王の表情が、スローモーションのように変わっていったのだから。
魔王が何かを話しているが、それも遅すぎて僕の耳には届かない。
僕はノワールとブランシュを意識で操り、魔王へと嗾ける。
斬り刻まれていく先から再生しているようだが、僕の目はそれを見る事なく、魔王の核の部分を探した。
「見つけた」
頭と、左脚、そして心臓部分にそれぞれ魔力回路を有している。
あれを潰せば、魔王は存在を保てなくなるだろう。
しかし、魔力回路を三つとは。
通常は心臓部分に一つだけだというのに。
僕は極小の重力場を、その三つに仕掛ける。
ギシリと音を立てたそれに気付き、魔王が驚愕の表情を浮かべた。
「な…?! 貴様…っ!!」
「やっぱりな…いくら体を刻もうとも再生するのは、それのせいだろうと踏んだが…読みが当たって嬉しいよ、魔王」
僕がニヤリと口角を上げるのを、魔王は表情を歪めながら見つめている。
此方へ攻撃をしようとした瞬間、その体が真っ二つに弾け飛んだ。
魔王の横から弾丸が奴の体を通り抜けていくのが見え、僕はそちらを見る。
ユエが対物ライフルであるヘカートIIを構え、魔王に撃ったようだった。
いつの間に持ってきてたんだよ、それ。
しかもテスタロッサ製だろ?
お祖母様から譲り受けたのか?
「貴、貴様らぁ…っ!!」
「お前の妄執も、怨念も…全て終わりだ。かける言葉は、もはや無い。ハイクロッカス・ド・ヴァンデルゼンセン」
僕は左手をグッと握り込む。
その動作に連動して、魔王の魔力回路が音を立てて砕けた。
魔王が放っていた魔力波も消え、それ以上魔獣達が出てくる事は無いと思われた。
「ぐぅ…っ!! 貴様…貴様ら…!! 許さん…許すものか…っ!! 私の、復讐はまだ…っ!!」
「みっともない。ただ惚れた女にフラれただけで、そこまで執着して。子々孫々まで呪い続け、根絶やしにしようだなんて…宮塚より醜悪だわ」
入り口からそんな声が聞こえ、僕らはそちらを見る。
扇子を広げ、魔王を睥睨する母様がそこにいた。
「母様! ユタカは…っ?!」
母様がここにいる事に驚き、彼女の事を問うシンクへ母様は微笑む。
「安心なさい、シンク。ちゃんと治しましたとも。今はカヅキが看ててくれているわ」
弟は安堵の息を吐いた。