そして、母様は魔王と僕を見る。
「…ユエちゃん、先に言っておくわね? これから起こる事は、あたしでも対処は出来ません。正気を保ちなさい。そして、グンジョウの選択を尊重してあげて」
「王妃様…?」
ユエが戸惑いの声を上げ、母様を見上げた。
僕の目の前にいる魔王は母様を睨みつけながら、その体が灰になっていく。
もう何も出来ないだろうと、僕は背を向けた。
「せめて、せめて一矢は…っ!!」
僕の背後で魔力が練られる。
体に残った残存魔力で、魔法を放とうというのだろう。
僕はそちらを見ず、一言呟いた。
「
魔王の体から魔力が抜け、僕に入る。
流石、カヅキおばさんがくれた切り札。
少し考えて実践しただけで、叶ってしまう。
僕は歩き、ツルギに拘束されている桃華の元まで行く。
殺すなと言ったから、彼は従ってくれたのだろう。
「ありがとう、ツルギ。…皆に言っておく。僕は、桃華を助けたい。彼女の体には、魔王の遺物が埋め込まれている…それを収集、封印するのが王族の使命であり、本懐だ。だが、彼女は被害者でもある。彼女を封印するのは容易い。しかし、そんな短慮な事を、僕はしたくないんだ。今は、彼女の精神を壊すけど…いつか…いつかきっと、桃華の精神を治す方法を見つけてみせる」
僕に残された時間は、あと3分。
カップ麺が出来上がる時間だな、なんて頭の片隅で考えながら、桃華の頭部に触れた。
◆◆◆
目を閉じていたようで、僕は瞼を開ける。
眼前に広がる光景を見て、少しだけ苦笑した。
僕の精神世界みたいに、本がびっしりと天井にまで収まっていたからだ。
所々に窓がついており、そこから青空が見える。
「流石兄妹って所かな…ね、桃華」
白いワンピースを着た桃華が、ロッキングチェアに座りながら本を読んでいた。
彼女は顔を上げ、僕同様苦笑する。
「…殺してって、お願いしたのに」
「君を生かすか殺すかは、ゲームで決めようじゃないか。なぁ、桃華。お前、チェスは出来たよな?」
近場のローテーブルにチェスを見つけ、彼女に尋ねた。
桃華はロッキングチェアから立ち上がり、ローテーブルに備え付けられた椅子に座る。
僕も真向かいに座り、足を組んだ。
「お兄ちゃんに、暇だからって言われて教えられながら覚えたよ。でも、あたしが弱いの知ってるはずだよね?」
桃華は困ったように微笑む。
僕はそれを見つつ、目を細めた。
「なら賭けをしよう、桃華。万が一、お前が僕に勝てたらお前の望み通り殺してやる。僕が勝ったら…そうだな。僕に一箇所だけ、傷を付けていい。どうだ?」
「どうだって…」
困惑しながら、桃華は僕を見つめる。
そんな彼女の目線を無視し、チェス盤に駒を並べていった。
「それ、公平じゃ無いと思うよ。お兄ちゃん」
「グダグダうっさい。あと、僕が勝ったらお前には生きてもらうからな。白が先行だぞ、桃華」
僕の言葉に桃華は驚き、次いでG7のポーンを動かす。
「それ、雪那…ユエが許すと思う? あたしは、雪那を、お兄ちゃんを殺したのに」
「母様の口添えがあったから、許す許さないに関わらず、僕の選択に従ってくれるはずだ。僕は勝って、お前を生かす」
僕はB2のポーンを動かし、桃華を見た。
彼女は盤面に視線を落としながら、口を引き結んでいる。
コト、コト、と駒を置く音だけが室内に響いた。
「チェック」
桃華のビショップが、僕のキングの斜め前に来る。
それを、僕はキングで潰した。
「簡単にチェックメイトにさせるか」
「むぅ…」
ビショップで再度チェックを入れられたので、またキングで潰す。
ナイトで攻めてくるも、ポーンで取った。
これで、桃華のナイトは全滅。
そう言えばビショップもいるなぁ、なんて取った駒を見つつ思った。
「うぅ…」
ルークを動かし、ポーンを取った桃華だったが、その場所に僕のルークを動かして駒を取る。
これで、桃華の残りの駒は五つ。
桃華がポーンを動かし、またチェックを取られたが、クイーンで潰した。
残り四つ。
「お兄ちゃん…三回勝負とか…」
「却下」
桃華が動かした駒をすかさず取っていく。
残り二つ。
キングとクイーンだけが、桃華の陣に残った。
「これで入れる保険ないかな…」
「何の保険だよ。生命保険とでも言うつもりか?」
桃華がクイーンを動かす。
そこをすかさず僕のクイーンが討ち取った。
残り、一つ。
キングを動かして逃げようとはするが、如何せん僕の手駒にはクイーンもルークもナイトもビショップも、全て残っている。
どの方向に逃げても、クイーンかルークが桃華のキングを撃ち落とす。
「チェックメイトだ、桃華」
僕がそう言うと桃華は盤から顔を上げ、ため息をついた。
「だから弱いって言ったのに! お兄ちゃん意地悪だよ!」
「なんとでも言え。桃華、約束だ。僕を傷つけてもいい。だけど、お前は生きるんだ。良いな?」
僕の体が透け始める。
そんな僕を見て、桃華は悲しげに笑った。
チェスのルールよく分かってないので
マイルールとして目を瞑ってください…