my way of life   作:桜舞

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371話『グンジョウ起きた』

「お兄ちゃん、甘過ぎるよ…絶対、あたしを生かした事を後悔する。ユエだって、お兄ちゃんを嫌いになるかもよ?」

「その時はもう一回、惚れてくれるように努力するさ。それに、後悔なんてしない。険しい道だと理解もしている。でも、妹を見殺しになんて…兄としては出来ないだろ?」

 

僕の言葉に、桃華は目を見開く。

瞬きを一度すると、桃華の精神世界から現実世界に戻ってきていた。

目の前の桃華は、人の形を保っていられないようで体も溶けて来ていたが、いつの間にか右手に刃物を持っている。

 

「お兄…ちゃ…」

「うん、良いよ。桃華」

 

桃華の右手に持った刃物が、僕の左目を切り裂く。

傍からユエの魔力波が放たれ、彼女がとても怒っている事を理解する。

だけど、僕が決めた事に対して耐えてくれているのだと、彼女の優しさが有り難かった。

 

「桃華…おやすみ。またお前と話せる日が来る事を、夢見ているよ」

 

頭に置いていた手で魔法を使い、桃華の精神と体のリンクを切る。

壊すとは言ったけど、夕陽の記憶の中にある桃華が目の前にいて、情が出てしまった。

リンクを切ったのがその証拠だ。

 

だけど、体と精神のリンクを再び繋ぎ直すには、時間がかかる。

多分、おばさんや母様でも、元に戻すのは無理だと思った。

桃華の体に、魔王の遺物が馴染んで扱い切れるまでか、それとも僕が退位して次の代で彼女を封印すると決定するまでか。

 

猶予は、それだけしかないと思う。

だが、そこまでで彼女の精神が元の桃華に戻れば…いいや、戻す方法を探そう。

それが、兄として妹を生かすと決めた僕の責任だ。

 

おばさんの切り札の効力がそこで切れたようで、僕は背中から地面に倒れる。

 

「アオ…っ!! アオっ!!」

 

僕の傍に寄り、大粒の涙を流しているユエを見上げた。

僕は左腕を上げようとしたが、おばさんの言葉通り指先一つ動かない。

だから僕は、彼女に微笑んだ。

 

「泣かせてごめん…ユエ。我慢してくれてありがとう。こんな僕で呆れた…かも、しれない…けど…それでも…僕は…」

 

君を愛している。

 

そこまで言葉を紡げず、僕は意識を暗転させた。

 

◆◆◆

 

春風が頬を撫でる。

目を開けた僕は、知らない天井を見つめた。

 

ここ、何処だろう…。

 

窓が開いているようで、暖かい風に煽られてカーテンが揺れる。

腕を少し動かすと右手に感覚があり、持ち上げた。

点滴をする為のルートが腕に繋がれていて、あぁ、母様くっつけてくれたんだな、なんて頭の片隅で思う。

そして点滴という事は、ここ病院なんだなと思い至った。

 

少し体を動かすと個室のようで、左側が見えなくなっている事に気付く。

包帯でも巻かれているのだろうかと顔を触ってみたが、そんな物はなかった。

 

まぁ、これも僕が選んだ事だったし、母様もそれを理解していたからこそ、治そうともしなかったのだろう。

 

ガラッと音がして、次いで足音が複数聞こえる。

 

「グンジョー、今日も生きて…」

 

ひょこっと僕の死角になっている所から、シャナが顔を出した。

僕と目が合うと、固まってしまったが。

 

「おいシャナ、何固まって…」

 

シャナの横からシンクも顔を覗かせ、僕と目が合うと姉同様固まってしまった。

だが、固まっていたシンクはすぐさま脳を再起動させたらしく、後ろにいるであろう人物に声をかける。

 

「ツルギ、ナースセンター行って看護師呼んでこい!! 担当医…は、おばさんだっけ?! あぁ、ユエ不安そうな顔すんな! 逆! グンジョウ起きた!!」

 

シンクを押し退け、ユエが僕のベッドの横に来た。

彼女を見上げると、パァンっ!! ととても良い音をさせながら、僕の頬を平手打ちする。

 

「ほんっとに…馬鹿じゃないの?! 何なのよ、アオの馬鹿!! なんで私にこんな心配させるの?! 私の気持ちも考えてって何回も言ったじゃない!! 馬鹿!! 阿呆!! アオなんて大っ嫌い!!」

「落ち着けってユエ!! ここ病室だから!!」

 

泣きじゃくるユエをシンクは羽交締めにし、僕から離した。

リクライニングがついていたようで、ユエ同様涙ぐんでいたシャナが、起こして良いか聞いてくる。

それに頷き、シャナの操作でベッドの背部が持ち上がった。

 

「心配かけさせてごめん。ユエ、みんな」

 

起き上がった直後に謝ると、白衣を着たおばさんと看護師の人が来る。

入れ替わりで、ユエとシンクは外に出ていった気配がした。

おばさんから説明されたのは、今がシルフ3の月で、僕は一月寝ていたという事。

そして今日は卒業式だったようで、僕の代わりにシンクが卒業生代表のスピーチをしてくれた事。

ちなみに、僕はちゃんと卒業出来ていると言われ、卒業証書を渡された。

 

「お前、来月には義眼の手術するから覚悟しておけよ。別にそのままで良いとか言うんじゃないぞ。これは、お前の母親であるナツキからの命令だからな」

 

僕が言おうとしていた事を先回りされ、少し困ってシャナを見る。

 

「目だけは治してもらいなよ、グンジョウ。傷が深いのと、桃華ちゃんが持ってたナイフのせいで、視神経が全部傷付いちゃってるんだって。桃華ちゃんとの絆? とかで、その縦一文字の傷は残しておくって母様言ってたから」

 

左側に触れると、ピリッとした痛みとともに傷がある事が分かった。

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