「そうだね。話そうか」
屋上庭園がある病院だったので、僕とユエはそこまで行き、近くにあったベンチへ腰掛ける。
暫くお互い無言だったけど、僕は彼女に話しかけた。
「無茶な事してごめん。桃華を助けたのも、君には気に触る行いだっただろう。でも、僕の意志を尊重してくれて…ありがとう、ユエ」
彼女は何も言わず、ただ真っ直ぐ前を向いている。
話があるって事じゃなかったのかな、なんて思っていると、ユエが口を開いた。
「…王太子である、貴方の選択だったから。だから、従っただけ。今でも、桃華は殺したいくらい憎い。でも、貴方が殺すなって言った…だから、我慢してるだけで…っ!」
ギュッ、とユエは自分の服を握りしめる。
俯いた彼女の顔から、手の甲へと涙が落ちた。
「今回こそは…死んでしまったかと思った…っ!! どうして、無茶ばっかりするの…?! 私……私は……っ! 貴方が生きていてくれないと、嫌なのに…っ!!」
「ユエ…」
ユエの肩に手を置く。
彼女は泣きながら、僕を睨みつけた。
「そんなに自分を犠牲にしたいんだったら、それを許容してくれる人と婚約結び直したら?! 私はもう嫌だ!! 貴方の事で心配して、泣いて、傷つくのはもう沢山!!」
ユエはそう叫び、嗚咽を漏らしながら肩を震わせる。
服を握りしめている彼女の片手を取り、軽く握った。
「……ユエ……ごめん。君が望むのなら、婚約破棄をしよう。でも、これだけは言わせてほしい。僕は、君以外を愛するつもりはない。君と別れた後、誰とも婚姻を結ぶつもりもない。一生、君だけを想い続けるよ。跡継ぎは、兄弟姉妹の誰かの子供か、遠縁の親戚の子にでもすれば良い。君が僕以外の男性と婚姻して、幸せになってくれるのなら、何も言わない。それだけで、僕は構わないんだ。ユエ、それで良いね?」
そう問うと、やだ、と彼女は呟く。
嫌だと、ユエはもう一度言い、頭を横へ何度も振った。
「アオ以外となんて、嫌だ…っ!! アオ以外と幸せになんて、なれない…っ!! やだ…絶対嫌だ…っ!!」
「…それは…少し、我儘じゃないかなぁ…」
僕の手をキツく握り返し、彼女は我儘でもいいと言う。
そんなユエを、僕は優しく抱きしめた。
「ねぇ、ユエ。君の望みは、半分叶ってるんだ。僕はもう、無茶が出来る体じゃない。次にあんな事をしたら、確実に死ぬとおばさんから言われていてね。おばさんから渡されたあの切り札、使用時間を少しオーバーしてて。半分くらいの寿命を削ったみたいなんだ」
部屋を訪室したおばさんから、そう聞かされた。
重傷を負いつつ、それでも桃華への術式を行使した影響だと。
80で死ぬ寿命なら、40で僕は死ぬ定めになったらしい。
「だからごめん、ユエ。君と一緒に逝ってあげられないかもしれない。それでも…僕と添い遂げてくれないかな。君が、良かったらなんだけど」
僕の腕の中で、ユエは無言で俯いていた。
サラサラと、彼女の髪が風で揺れる。
ユエは片方の手を僕から外し、背中に腕を回して来た。
「貴方が死んだら、後を追ってやる…だからその時は、ヴェスタ神かイオン神に口添えしてね」
「うーん…まぁ、会えればそうするよ……ユエ…僕と、結婚してくれませんか?」
僕は彼女に問う。
ユエは僕から体を離し、微笑んだ。
「はい…喜んで……不束者ですが、よろしくお願いします…グンジョウ殿下」
あの時と同じ返事を、彼女は返してくれる。
涙ぐんでいたのは、僕と早く別れる悲しさからか。
もしくは、もう一度プロポーズをされた嬉しさからか。
多分、どちらともだろう。
「ユエ…僕の一生をかけて、君を愛する事を誓うよ」
彼女の頬に手を添え、顔を近付ける。
目を閉じたユエに、僕は口付けをした。
涙が唇に付いていたのか、少ししょっぱいと感じる。
唇を離すと、ユエは自分の顔を手で覆い、俯いた。
「…どうしたの?」
「泣いて顔、グッチャグチャで…酷い顔晒してるって、今気付いたの…! 嫌だ…恥ずかしい…っ!!」
え、それ今更じゃね?
というか化粧してなかったろ、君。
そこまで顔、酷い事になってたかなぁ…?
気にならなかったけど。
思わず首を傾げた僕に、ユエはヒス気味に叫んだ。
「アオは気にしなくても私は気にするの!!」
「ほんっと、ナチュラルに人の心読むなぁ…大丈夫だよ、ユエ。君は泣いている顔も、怒っている顔も…勿論、笑った顔でさえ可愛いから。好きだよ、ユエ。君を愛してる。だから…顔を見せて?」
彼女の腕を掴み、軽く引っ張る。
素直に降ろしたユエは、ムッとした顔で僕を睨んでいた。
「ほら可愛い」
「そんな事言うの、アオくらいだよ…」
呆れた口調で彼女が言った後、僕らはどちらからとも無く、笑い合う。
「ユエ、愛してるよ。君が僕の運命で良かった。前世も、今世も、君を愛せて幸せだ。だから、来世も僕と添い遂げてくれる?」
「それは私の台詞だよ、アオ。来世でも、私を見つけて愛してくれる?」
勿論、と僕は返す。
僕らの間を、春風が駆け抜けていった。
短くなってしまった生だけれど。
僕は、僕の全てで彼女を愛そう。
今世で死に別れても、また来世でと約束した。