「ねぇ、アオ。私、貴方が思うほど華奢じゃないよ。乱暴にされても、耐えられるくらいには頑丈なんだから」
「そうだね…おまけに神経が図太くなっていらっしゃる…あまりシャナを見習うなよ?」
そう言うと、ペチリと額を叩かれる。
誰の神経が図太いんだ、と聞かれたので、君と答えた。
まぁ、更に頭を叩かれてしまったのだが。
「いってぇ…」
「全く…まだ暑いとはいえ、季節の変わり目には体調崩すようになったんだから…気を付けてよ、アオ?」
ユエが心配そうな表情をし、僕を見つめる。
最初に体調を崩したのは、春から夏に移り変わるノーム3の月の事だった。
いつものように執務をしていたのだが、その日は朝からやけに頭が重くて、昼前になる辺りで倒れたようだ。
倒れたようだ、だなんて、何故他人事かのように言うのかといえば、その時の記憶が僕にはないからだ。
気が付いたらベッドの上で、日付が変わっているし、僕の看病をしていたであろうユエがベッドの縁で寝てるしで、混乱した記憶しかない。
それから、三日か四日は療養しろ、と両親から命令されたので、式の準備をユエに任せ、僕は大人しくベッドの住人に成り果てた。
そして、今から一週間前にも僕は体調を崩し、その日は大人しく早めに休む事にしたので、今の体調は万全なのだが。
そんな事が立て続けにあったので、ユエは心配になったのだろう。
「大丈夫だよ、ユエ。少ししたら帰るから」
「少しってどれくらい? アオの少しは信用出来ないもん」
彼女は少しムッとして、僕の頬を摘んでくる。
言うようになったなぁ、ユエ。
流石、僕の奥さんになる人だ。
摘まれてる頬は少し痛いけど、そんな事をする彼女がとても愛おしい。
僕は彼女の手に自分の手を添え、微笑んだ。
「奥さんが迎えに来てくれたから、帰ろうかな」
「そうして。私、嫌だからね? ヴァージンロードに足を踏み入れたら、旦那様が体調不良で欠席でしたー、なんて。滑稽を通り越して呆れちゃう」
起き上がり、ユエの方を振り返る。
どうしたのかと、彼女はキョトン顔で僕を見つめていた。
「君を幸せにするよ、必ず」
「…私だけなんて嫌。アオも一緒に…ね?」
僕らは身を寄せ合い、キスをする。
これが恋人である、僕らの最後の夜。
明日からは、夫婦で迎える初めての夜になる。
唇を離し、僕らはクスリと笑い合った。
◆◆◆
サンテブルク教会内。
祭壇前で、僕は緊張しながらその時を待つ。
ユエと一緒に車で教会まで来たが、ドレスの準備をする為に、ユエとは控え室前で別れた。
僕用の控え室で、王太子の礼服を着ていると扉がノックされる。
一応、親衛隊数名が護衛でいてくれた為、一人が扉前まで行って確認してくれた。
数分の後に扉が開けられ、僕の姉弟が入って来る。
「おめでとう、グンジョウ。やっとユエちゃんと結婚出来るね」
「ありがとう、シャナ。シンク、ユタカは?」
いつも二人で連れ添っているはずなのに、弟の側に彼女の姿が見えず、問いかける。
「ユエんとこ。後で合流するけど。俺も大学卒業したら、ユタカと籍入れるつもりだから。そん時はよろしくな、兄ちゃん、姉ちゃん」
「何がよろしくなんだかわかんないけど…あたしは…いつになるかなぁ。ね、ツルギ君」
シャナの問いかけへ、姉弟の背後に控えてたツルギが、少し慌て始めた。
せめて部隊長になったらー、とか、騎士団の副団長になれたらー、とか考えていそうで、僕は彼に声をかける。
「あんまり待たせてやるなよ、ツルギ」
「…わかってる。近々昇級試験があるから…シャナ、後もう少しだけ…待っててくれないだろうか…」
昇級試験という事は、今貰ってる給料が多くなるって事か?
ツルギの奴…給料三ヶ月分以上の指輪、用意するつもりだな?
別に派手なのではなく、シンプルな物でも姉は喜ぶというのに。
「ツルギ、聞きたくないんだけど…シャナの専属護衛時代に貰ってた給料、どうした…?」
「え…ちゃんと貯金してるが…? シャナに苦労をかけさせるわけには、いかないから…」
その言葉だけでシャナは嬉しくなったようで、ニコニコと笑顔になっている。
姉が幸せそうで良かった。
「殿下、もうそろそろお時間ですが…」
親衛隊の一人が僕に声をかけてくる。
わかったと返事をし、僕は三人を見た。
「じゃあ、あたし達ももう行くね」
「緊張し過ぎてとちんなよ、兄ちゃん」
姉弟はそう言って、僕の肩を軽く叩いてくる。
ツルギは僕に拳を突き出し、
「頑張れ、グンジョウ」
「あぁ。来てくれてありがとう」
彼と拳を合わせ、三人を見送った。
親衛隊に連れられ、僕は結婚式の会場である礼拝堂に足を踏み入れる。
もう既に来賓や親族が席に座っていて、僕は一礼してから祭壇の前まで歩いた。
最前列には母様達がいて、既に母は涙ぐんでいる。
なんで泣く必要があるんだとは思うが、息子があんな大怪我をしたにも関わらず、今日この日を迎えられて感極まってしまっているのだろう。
父様も母様の背を撫でながら、苦笑していた。