流石に、父様の結婚式の時みたいな乱入者は現れないようで、僕は内心ホッとする。
乱入されてたまるかとは思うけど。
ユエにやっかみをかける連中も居るにはいたけれど、式を邪魔しようとはしてこないようだ。
僕へも婚約の打診が何度も来てはいたが、全てお断りしていたし。
元々リューネの民ではないとはいえ、おばさんの家である立花家は、オーシアの大貴族だったわけだし。
血筋がー、なんて時代錯誤甚だしい連中も父様が全て黙らせた。
寧ろそんな事言った瞬間、その家はお取り潰し確定である。
なんて言ったって、母様が元平民だから。
それでいて魔王討伐をし、戦争を何度も一人で片付け、勝利の女神の如く国民から慕われている母様に対して、侮蔑を吐ける貴族は多分いない。
カヅキおばさん除く。
なんて事を考えていると、扉がゆっくりと開いた。
ユーリおじさんと共に現われたユエは、ベールで顔が隠れて見えないが出立ちがとても美しく、僕は見惚れてしまう。
僕の前まで彼女を連れて来たおじさんは、小声で僕へ言った。
「ユエを泣かせたらどうなるか、分かっているねグンジョウ君?」
「…勿論です。泣かせるとしたら、嬉し泣きをさせますよ」
僕も小声でそう返すと、ユーリおじさんは満足そうに笑い、僕へユエを渡してくる。
彼女の手を取り、僕はまっすぐ前を見た。
ジルベルト卿が、僕らの式を行う宣言をする。
聖書を祭壇に広げ、卿は僕に問いかけた。
「汝、グンジョウ・デルフィニウム・ブリリアント。貴方はここに居られる立花月を、病める時も健やかなる時も、富める時も貧しき時も。妻として愛し、敬い、慈しむ事を誓いますか?」
「誓います」
凛とした声で、僕は言う。
ジルベルト卿は頷き、今度はユエへと問いかける。
「汝、立花月。貴女はここに居られる、グンジョウ・デルフィニウム・ブリリアントを、病める時も健やかなる時も、富める時も貧しき時も。夫として愛し、敬い、慈しむ事を誓いますか?」
「…誓います。私はいつ如何なる時でも、グンジョウ殿下のお傍を離れる事など致しません」
ユエ、そう言ってくれるのは嬉しいんだけど、今言う事なのかなぁ…?
ジルベルト卿が苦笑いしてるじゃないか…。
「それでは指輪の交換の後、誓いのキスを行って頂きます」
リングピローを持って来たのは、末の弟であるラゼッタと、ユエの妹であるリオンちゃんだった。
「兄様かっけぇ!」
「ラゼル。しー、ですよ? おめでとうございます。グンジョウ殿下、お姉様」
僕の姿を見たラゼッタが興奮して叫び、リオンちゃんに嗜められる。
お祝いの言葉を貰い、僕は礼を言った。
「ありがとう、リオンちゃん。ラゼッタをよろしく頼むよ」
「それは勿論ですわ、殿下」
二人が持っているピローから指輪を取り、ユエの左薬指に嵌める。
ユエのより二回り大きい指輪を彼女は手に取り、僕の左の薬指に嵌めてくれた。
デザインは至極シンプルなもので、最初右の薬指に嵌っているものと同じ物にしようと思っていたら、ユエからダメ出しをされたのである。
普通のシルバーリングで良いと言われたので、城お抱えの彫金師に言って、最高級品を用意したけれど。
「では、誓いのキスを」
卿がそう言い、僕はユエのベールを持ち上げる。
少し緊張した面持ちの彼女だったが、ステンドグラスから差し込む光と、いつもより大人びた化粧をしているからか、この世のものではないくらい美しい。
「…アオ?」
僕が中々動かないからか、ユエが少し眉を寄せた。
彼女にごめんと謝りつつも、顔を近付ける。
「君が綺麗で、神々しくて…見惚れてしまっていたんだ」
「…馬鹿」
ユエと口付けた瞬間、ジルベルト卿が宣言した。
「これにより、二人の婚姻が成立した事を認めます」
唇を離し、僕は彼女に笑いかける。
ユエも僕に微笑みを返し、スルリと僕の腕に自分の手を添えた。
そのまま入り口まで、二人で歩く。
両側からおめでとうという声が上がり、そして花びらが舞い降りてくる。
あとで掃除大変だろうなぁ、なんて頭の片隅で思うと、ユエがクスリと笑った。
「どうしたんだい?」
「別に、アオが片付けるわけじゃないのに。真面目だなぁ、って思って」
また人の思考読んだな、こいつ。
まぁ、今日くらいは良いか…。
「気になったんだから仕方ないだろ」
「そういう所、貴方らしいなぁって思う。大好きだよ、アオ」
ユエは僕を見上げ、満面の笑みを浮かべた。
その言葉が嬉しくて、僕も笑顔で彼女に言う。
「僕も、君を愛してるよユエ」
◆◆◆
幌なしの馬車で王都を一周する。
沿道に集まってくれた民達に、僕らは手を振った。
三時間か四時間位で城に着き、僕は先に降りるとユエへ手を差し出す。
僕の手を取り、彼女は馬車から降りた。
「サフィールに乗って、王都一周でも良かったかもなぁ…」
ユエと共に城の中に入りながら呟くと、彼女が苦笑する。
「私が着てるウェディングドレス。結構重いから、サフィールの負担になるよ」
「そういえばそれ何処製? 結構細かく刺繍とかしてあるけど」
光に当たると、金に光る刺繍糸で刺繍されたユエのウェディングドレスは、細部まで拘った作りをしていると素人目でもわかった。